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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百十九話・首都の警備の者たち


「坊ちゃん方、こんな真夜中に何をしておいでだ?」


近付いて来たのは知っていたが、どうやら警ら隊らしい。


揃いのマントを着た爺さんたちだ。


数名いるが、若い者がいない。


引退した兵士なのかな?、全員が爺さん。


「何って、夜の公園を楽しんでます」


ニコリと笑って先頭にいる爺さんに答える。


「名前と、どこに住んでいるか教えてもらおうか」


違う爺さんが横柄な態度を取ると、サンテがピリッとした。


まあ待て、キレるのが早過ぎる。




「僕が名乗っても意味はないですよ。 先ほどこちらに着いたばかりなので。 今日はあの宿に泊まってます」


僕はすぐ近くの大きな宿を指差す。


「それに名前を聞くなら、先に名乗るのが当たり前だと思いますけど。 この国では違うのでしょうか?」


慌てず、ゆったりと、隙を見せない。


「おもしれぇ坊ちゃんだな。 他国から来なすったかい」


「ええ。 だから住んでるところは宿だし、名前なんて偽名でも分からないでしょ?」


「アッハッハ、そりゃあ確かになあ」


年寄りだが、態度も体もデカい連中にベンチを囲まれた。


サンテはビビッて服の上からスルスルに触れる。


おいおい、ソレを出したらもっとややこしくなるぞ。


やめとけ。




 ぐるりと見回すと、全員、武器と捕縛の魔道具を持っている。


だが、凄んでいても全然怖くない。


この爺さんたちは基本的に善人なんだろう。


悪意はなさそうだ。


「我々は首都警ら隊だ。 我らを知らねぇとは余所者に間違いないな」


後ろの1人が動いたので牽制する。


「宿には知らせないでくださいよ、お爺ちゃんたち。 子供のお遊びに他国の要人やゴリグレン様を巻き込みたくないでしょ」


「なっ、んだと?」「ゴリグレン様だと?」


爺さんたちはザワザワする。


血の気の多い爺さんが顔を赤くして、


「小僧!、いい加減にしろっ」


と叫んで掴み掛かるが、スルリと避ける。


「まあいい」


赤い顔の仲間を宥め、最初に話しかけてきた爺さんがもう一度、話しかけてきた。


「子供が遊ぶ時間ではないぞ。 宿に戻りなさい」


静かに諭してくる。




「ええーっ、来たばかりなのに」


僕は頬を膨らませて子供らしく振る舞う。


「おれたちゃ、お前さんたちのためにだなあ」


まだ顔が赤い爺さんが僕を睨む。


ほお?。


「そんなに危ない街なんですか?、ここって」


僕は中央にいる爺さんを見上げて訊ねる。


「じゃあ、大人がいればいいんですね?」


「ああ、君たち子供だけではー」


フッとベンチの後ろにモリヒトが姿を現す。


黒眼鏡を外しただけだが。


「ヒェ」「おわっ!」


爺さんたちが驚き、ひとりが腰を抜かした。


「この通り、大人ならいますので。 問題ないですね」


「あ、ああ、問題ねぇな」


唖然とする仲間たちを引き摺るようにして、爺さんたちは離れて行く。


サンテが「バーカ」と言葉で追い討ちを掛けるが、その声は小さく、相手に聞こえるはずはなかった。




 僕たちは改めて座り直す。


『だから最初から結界を張らせて頂ければ』


ブツブツ言いながら、モリヒトは中がはっきり見えない結界を張る。


「いやだって、せっかくだから異国の空気を感じたかったからさー」


それに、ああいうハプニングも面白い。


 サンテの声が明るくなった。


「へへっ、アイツらの顔。 面白かったな!」


少しは元気が戻ってきたようだ。




「で、おれに何をさせる気?」


サンテの言葉遣いが崩れてきた。


「アタトが単なる散歩におれを連れてったりしないのは分かってるからさ」


気付いていたみたいだ。


そうか、じゃあ遠慮なくいこうか。


「サンテ」


「はい?」


「本格的に無属性魔法の修行に入ろう」


「えっ」


サンテは自分の部屋以外では禁止されていた魔法が突然、解禁されて驚く。




 サンテの才能は『鑑定』、魔力属性は『無属性』である。


あまりにも異質なため、修行や訓練の前例が無い。


つまり、サンテの魔法を知る者がいないのだ。


「鑑定しまくって魔法を強化。 無属性魔法の種類を増やす良い機会だと思う」


魔力が有り余っていても、それを魔法として発動し使いこなせなければ意味がない。


そして使えば使うほど練度が上がり、詠唱が短縮され、魔法の種類が増えていく。


個人の属性に合った魔法ほど熟練度は上がり易く、新しい魔法を覚え易い。


サンテはゴクリと息を呑んだ。




「エテオールとは違う国だから、『鑑定』で視る相手に遠慮はいらない」


今までは、知り合いの多い町中で誰かを鑑定しようとすれば嫌がられてしまうので出来なかった。


でもここなら、さっきの爺さんたちのように通りすがりの人たちには、おそらく今後二度と会うことはない。


気を使う必要がないのだ。


「どうせ相手もこっちのことは知らないんだから、そんな人に知られても、言いふらしたって意味はないんだし」


嫌がらせにもならない。


「え?、ええーっ。 そうかなあ?」


サンテは僕の後ろのモリヒトをチラッと見上げる。


モリヒトは無表情のままだ。




「以前、渡した高位神官様の本、持ってるな」


「う、うん」


まさに清廉潔白で民衆の支持が高く、王族にさえ対等とされた高位神官。


『歌姫』アリーヤさんを拾って現在の養父母に預け、亡くなるまでしっかりと守っていた。


内緒だが、『異世界人』であることを生涯隠し通した稀な人物である。


 その方は、この世界の将来を憂い、たくさんの資料を書き残している。


彼亡き後、その資料を纏めて本に編集していたのが、当時、司書だったイブさんだ。


「無属性魔法は将来、必ず必要になる」


教会と『異世界の記憶を持つ者』たちにとって、それは大切な内容だ。


しかし、自分が『異世界人』であること、そしてアリーヤさんが『異世界の記憶を持つ者』であることは公表出来ない。


彼は、大切なソレを次の世代に託すために、この世界の人間では解読出来ない暗号文字で資料を残した。


『日本語』である。


僕は暗号を解読したことにして、編集し直したものをサンテに渡し、勉強させていた。


「特に今、この国ではサンテの才能が必要だ」


「うん。 いえ、はい!」


行き詰まる『異世界人優遇措置』を修正するために。



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