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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百十八話・大国の首都の夜


 最初の街から次の首都へと向かう。


昼の休憩時に側妃様から予定が伝えられた。


「もうすぐ首都に入ります。 今夜は宿に泊まり、明日の朝、わたくしの養父母の家である高位貴族家に参ります」


初めて母親の養父母に会うパーメラシア王女も緊張気味だ。


気の張り方が今までとは違う。


 国王陛下から実家に届けるように頼まれた荷物もあるので、僕たちも一応、同行する。


その後、屋敷には泊まらずに退去して、宿を取る予定だ。




 僕は、侍従の爺さんに訊ねる。


「奥様のご実家は遠いのでしょうか」


爺さんは首を傾げた。


「どちらのご実家かな?」


は?。


「高位貴族家なら、首都にあるのではないかと」


小国に負けない立派な屋敷が並んでいることだろう。


「ああ、ゴリグレン様のお屋敷かね。 それなら、首都の宮殿の近くですな」


宮殿は首都の東端にあり、水堀と城壁に囲まれているという。


その近くの貴族の住宅街だ。




 僕は念の為に訊く。


「では……もう一つのご実家は?」


「それなら、中央街だ」


爺さんは、側妃は商家の生まれだと教えてくれた。


後ろ盾の高位貴族家と生家である商会は、同じ首都にあるらしい。


近いなら移動が楽で助かるな。


 マテオさんはその店の名前を聞いて驚いた。


「老舗の商会ですが、最近、業績はあまり良くないようです」


そっと小声で教えてくれた。


ふうん。




 その日の夕方に、大国ズラシアスの首都ティフレシアに到着。


首都の街は広い。


門を潜って街の中心街にある宿に着いた頃には、すでに夕食の時間を過ぎていた。


側妃親子には先に部屋で休んでもらい、僕たちは馬車の片付けや夕食の手配、湯浴みの準備に追われる。


側妃親子の食事だけは先に頼んで、部屋に運んでもらっておく。


他の者たちについては、すでに食堂は閉まっているため、外へ食事に行くか、何か買って来ることになった。


僕たちの分はモリヒトが用意済みだというので任せている。




 すっかり暗くなった食堂にモリヒトが灯を点ける。


侍従と侍女、女性騎士たちは先に食事を済ませ、今は側妃の部屋に付いている。


彼らと交代してからの食事になったので、僕たちが最後だ。


 食堂には自分たち以外に人はいない。


ここで働いている宿の人たちには片付けをきちんとすると約束して、場所だけを借りた。


軽く明日からの打ち合わせをするため、防音結界を張る。


「お疲れ様でした」


僕とサンテとマテオさんは、食堂に入って来たティモシーさんと隊長の青年に声を掛ける。




 モリヒトが荷物から辺境地の弁当を出して配った。


出発前に何度か行き来している間に頼んであったそうだ。


『異国の食事がアタト様の口に合うか、分かりませんでしたから』


念の為に用意して、腐らない保管庫に入れてくれていたらしい。


マジ助かる。


マテオさんが「うちの食堂より美味い!」と言ってくれた。


ふふっ、修行した店より美味いと言われたと聞いたら、アタト食堂の老夫婦は喜ぶだろう。


青年警備隊長は夢中でバクバク食っている。


大丈夫か、あれ。


喉に詰まらせないように気を付けて。




「はあ、首都の雰囲気に呑まれましたね」


ティモシーさんが小声で話す。


夜だというに、明るい魔法街灯が並び、道にはゴミ一つ無い。


飲食店以外でも営業している店があり、通りには賑やかな声が響いていた。


馬で移動しながら、ついキョロキョロしてしまったとティモシーさんは反省する。


 遅れて来たキランが、モリヒトから弁当とお茶を受け取り、ため息を吐く。


「私もやはり戸惑うことが多いですね」


キランは、この国出身の侍従と侍女に張り付いて教えてもらっている。


言葉こそ、あまり変わらないが、やはりアクセントには多少の違いがあるそうだ。


小国は侮られやすいので気を付けるように言われたらしい。




 明日は、この国の高位貴族家に伺うことになっている。


挨拶して荷物を渡し終えたら、僕たちは商店街に近い宿を探す予定だ。


キランはそのまま王女付きを続行し、定期的にモリヒトが連絡を取ることにした。


 ティモシーさんは、この国の教会に顔を出したいという。


「分かりました。 僕たちもお供します」


ティファニー王女と繋ぎを取るためにはティモシーさんと一緒にいる必要がある。


エンディからの手紙が王女に届いていれば、教会に連絡が来ることになっていた。


何とか王女の居場所を特定出来れば、モリヒトが潜り込み易い。


なるべく早く連絡を取りたかった。


「皆、今日はしっかり休んでくれ。 明日も忙しいからな」


「はい」「承知いたしました」


皆、眠そうなので解散した。




 僕とサンテの部屋からは静かになった街並みが見える。


首都ティフレシアは水が豊富な街で、あちこちに水路や噴水が見られる。


街の中心には大きな池のある公園があり、憩いの場になっているそうだ。


滞在中にぜひ、一度行ってみたいな。


今から行こうかな。


行ってもいいよな。




 普段着に着替え、窓に手を掛ける。


「アタト、さま、何してる、の?」


半分寝ぼけながらサンテが起き上がる。


「心配いらない、寝てな」


窓を開けると冬の冷たい空気が流れ込む。


上着がいるな。


僕は自分の保管庫から黒い外套を取り出して羽織る。


「ま、待って!、オレも行く」


え、夜着の上に急いで外套を着込み、靴を履こうとするサンテ。


「分かったよ。 待ってやるから慌てるな」


しばらくして、2つの影が2階の窓から庭へ降りた。


僕は風を操り、窓を閉める。




 暗闇は嫌いじゃない。


邪気がなければな。


宿の近くにある公園に足を踏み入れた。


大国はエテオール国より北に位置し、冬は寒さが厳しいと聞く。


通りには無かった雪が、公園には少し残っていた。


「冷たっ」


サンテが雪に触れてボヤく。


雪が冷たいのは当たり前だろうが。


「エテオールの王都は、あんまり積もらなかったから」


公園の中央に噴水が音を立てていた。


近くのベンチに腰を下ろす。


この外套は魔獣の皮を使ってるから水は弾く。


裾の長い外套を着たまま座れば、尻に冷たさは感じない。


サンテも同じように座り、周りを見回す。


全く人がいないわけではなさそうだった。



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