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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百十三話・出発の前の宴


 大国への出発の日が近付く。


僕は、留守の間、商会やこの館に残る者たちへの指示に忙しい。


サンテは、辺境伯夫妻に他国でも通じる礼儀作法や、万が一のための防御技を習っている。


「なんだか大事おおごとになってきたよなー」


自分は行かないエンディが、何故か毎日のように顔を出す。


「暇そうですね」


用事がないなら領地に帰れ。


「今日はコレを持って来てやったのにー」


ピラピラと振ってみせる紙切れは、国と国とを結ぶ移動魔法陣の利用許可証である。


勿論、国営の魔法陣は一般人は使えない。


大量に魔力を消費するため、魔術師を何人も用意する必要があるからだ。


それが出来るのは王族くらいである。


同行する者にしても貴族管理部、または国王の許可が必要で、それが移動魔法陣利用許可証だ。




 当日、一行はまず王都から馬車で2日ほどかけて、ある場所に移動する。


そこには国の施設、国境警備隊が守る移動魔法陣の管理所があるのだ。


僕たちは王宮からの馬車とは別にキランの白馬の馬車でその町へ向かう。


王家の一行とはその町で落ち合うことになっていた。


王宮の馬車には、その町に着くまでの間は近衛兵の護衛が付く。


しかし、他国には最低限の人数しか入れない。


そこから先が僕たちの出番である。




 出発前夜、辺境伯王都邸の本館にて宴会が行われた。


これは、壮行会というか、お見送りの宴だ。


別棟の皆も、使用人も、領兵たちまでごっちゃで飲み食いしている。


辺境伯夫妻は、こういうところは大らかで気持ちの良い人たちだなと思う。


「十分に気を付けてな」


「はい。 ありがとうございます、辺境伯閣下」


まるで別れの挨拶みたいだが、順調にいけば20日程度で戻る予定である。


何なら、用事さえ終わればサッサと帰って来るかも知れない。




 小遣いももらった。


「こちらの銭貨は使えない可能性がある」


と、わざわざ大国の通貨を用意してくれていた。


「助かります」


ありがたい。


この世界には交易用として共通の金貨もあるが、小さな店なんかでちょっと買う物には使えないだろう。


特に大国は小さな国を馬鹿にしがちだしな。


舐められないようにしないと。


「買い物は私にお任せください」


随行が決まったトーレイス商会のマテオ青年も宴に参加している。


「仕入れたいものが見つかりましたら、すぐに教えてくださいね」


商会長からも頼まれているそうだ。


最近はうちの商会で、ライスや和風の食材を大量に買い取っているからなあ。


羽振りが良くて何よりだよ。




「アタトさまあ」


半泣きなのはガビーである。


「仕方ないだろ。 今回は他国だからな」


一緒に行きたいと最後までゴネていた。


「ガビー。 僕がいない間に勝手なことはするなよ」


それだけは言っておく。


「御遣い仕様の絵画は作成禁止。 どうしても断れない場合は銅板栞で横顔までだ」


辺境伯に贈った銅版画の噂が広まり、また評判を呼んでしまった。


お蔭で辺境伯家に問い合わせが殺到してしまい、知らぬ存ぜぬを通すのが大変で、しかたなくアタト商会の名前を出した。


「販売許可を取るのも一苦労だったけどな」


ご隠居に頼み込んで、まず王宮に銅板栞を納品することで許可をもぎ取った。


辺境地の商会だから「そんなに注文は来ないだろう」と思いきや、教会を通して本部に届いているそうだ。


「大丈夫ですー。 塔の工房にも見本を送って量産体制に入りましたから」


そのために、モリヒトにも何度か往復してもらっている。


御遣いに関してはモリヒトが僕を嵌めたということもあり、文句を言わずに手伝ってくれた。


「それから、ガビー。 僕の肖像画は売り物じゃないからな。 作るのは許可したけど、他へは出すなよ」


「わ、分かってまーす」


目を逸らすんじゃない、工芸馬鹿ドワーフ。




 バムくんは領兵たちとすっかり打ち解けていた。


馬鹿騒ぎしていないのは領兵長と家令さんが睨みを利かせているせいかな。


キランとサンテは、忙しそうな使用人さんたちを手伝っていた。


皆、旅に出るサンテを特別扱いしようとしたが、


「忙しくしてたほうがいいから」


と、自分から手伝っているらしい。


今夜はすでに料理を並べるだけになっているし、片付けも明日にしようという話だった。


手伝いといっても皿を引いていたり、酒を運ぶ程度で、大したことはしていない。


それでもサンテとキランは執事服のまま、会場内を忙しく動き回る。




 僕は、部屋の隅にティモシーさんを見つけた。


「ティモシーさん、明日からよろしくお願いします」


近寄って声を掛ける。


「こちらこそ、よろしく頼む」


お酒を飲んでいるティモシーさんは珍しい。


 貴族の子女は貴族学校から、適性や希望により騎士養成学校に移ることがある。


エンディとティモシーさん、そして大国から来ていたティファニー王女は同級生だ。


年齢は民間から騎士養成学校に入ったティモシーさんが少し上。


貴族学校と騎士養成学校は隣り合わせで、ティファニー王女は2校の間にある庭にいることが多かったらしい。


彼女の留学期間は短く、他の王族は年齢が離れていたので学校では会わなかった。


そのため、エンディ以外の知り合いがいない。


そりゃ、頼りにするよね。


でも前回来た時は逃げていた。


知り合いだからこそ、迷惑をかけたくなかったのかもな。


 クロレンシア嬢はエンディを追って騎士学校に入り、彼らと仲は良かったが年下なので授業は別だったそうだ。


今回の大国行きには参加していない。




 僕は大人たちより先に部屋に戻った。


本館から別棟へは中庭を抜けて行く。


「あ、雪か」


寒いと思ったら、フワリと白い花のような雪が舞っていた。


「大国にも雪は降るの?」


『こちらよりは多いかと』


そうなんだ。


寒さは、ある程度覚悟しておこう。


 部屋に戻り、風呂を頼む。


旅に出たら、しばらくは湯船は期待出来ないだろうからな。


荷物の確認をモリヒトに任せて風呂に浸かる。


 今頃はサンテも部屋で眠れずにいるだろう。


期待と不安。


失敗も、若いうちに経験しておけばいい。


それを助けるのは大人の仕事だ。


たとえ、外見は子供だとしてもね。



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