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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百十二話・旅の道連れを増やす


 翌日、エンディが辺境伯邸に来た。


「寒いのに、わざわざ来られなくても」


「そういうわけには行かないさ。 出発まであまり時間がないからな」


僕が承諾したことで、少し随行する顔触れを変えるつもりらしい。


「何故ですか?」


僕は護衛として妹王女の側にいればいいだけのはずだ。


 国王の側妃のひとりとその娘が、隣国にある実家へ新年の挨拶に行く。


たったそれだけの旅。


では、ない。


「はあ、やはりお前は自覚が足らん」


なんのこと?。




「向こうは大国だ。 お前がエルフであることなど、すぐに勘づくだろ」


「それが拙いんですか?」


じゃあ最初からエルフで行きますよ。


「それだけならいいが。 御遣いだとバレたら嫌だろうが」


へっ?。


ていうか、御遣いじゃないし。


「僕をどうこう出来る人間がいるとは思えませんが」


「まあな」


どうかすれば国全体を滅ぼしかねないからなあ、モリヒトが。




「とにかく、御遣い様とバレた時の対応用に教会警備隊からも護衛を加えることにした」


ああ、そういうことか。


「ティモシーさんを招聘したんですね」


エンディはニコリと笑って頷いた。


「そうだ。 一応、お前の許可も取っておこうと思ってね」


エンディが僕を護衛に誘ったのは、妹のパーメラシア王女のためだ。


一緒に行けない自分の代わりに、妹には手厚い護衛を付けたいのだろう。


同じ平民出の側妃を母親に持つ身として。




 そして、もう一つ。


友人である大国の王女ティファニー様。


優秀な諜報からの情報では、かなり危うい状態らしい。


相手は大国の王女である。


上辺しか見られない人間では簡単にあしらわれて終わりだ。


それを防ぐため、王女の留学時の知り合いであるティモシーさんを護衛に加えたい。


その口実に僕を使った。


僕の護衛だといえば、教会はティモシーさんを出すはずだからな。




 そのために、大使のお茶会にノコノコやって来る僕の周辺を調べたのだろう。


何故、大使に近付こうとしているのかを。


「私とアタトの思惑が一致して良かったよ。」


「一致してませんよ。 たまたま相手が近いだけでしょ」


大国の『異世界優遇政策』の王女と、その煽りを受けた貴族。


助けたい相手がたまたま近いだけだ。


「まあそう言うな。 私はお前なら何とか出来ると思っている」


ハイハイ、何とかなるかは行ってみないとなんともいえないが。


「大国は得体が知れないからな。 気を付けろ」


自分で画策したくせに、よく言う。


「せいぜい国を滅ぼすことがないよう努めます」




 ふいに廊下が騒がしくなる。


「ご歓談中、失礼します」


執事服のサンテが入って来た。


エンディが頷くと、部屋に入って来たサンテがサッと僕の傍に来て囁く。


「食料品店の方が、アタト様にお手紙を頂いたので来たと」


うん、確かに出したけど。


「王族の方がいらしているからとお断りしたんですが、そのほうが都合が良いから、ぜひお会いしたいと言われまして」


サンテは困った顔でチラチラとエンディを見る。


何の用事かな。


「すみません、エンディ様。 僕の商売関係の者が話をしたいと押し掛けて来たようです」


王籍を離れたとはいえ、エンディは領主であり、高位貴族だ。


不敬として罰せられるかも知れないのに突撃して来るとはいい度胸だ。


エンディは「構わないよ」と承諾した。




「お邪魔いたします!」


よく通る声が部屋に響く。


王都市場で食料品の出店を任されている店長の青年。


アリーヤさんの実家の卸売り商会の若いがやり手の店員だ。


「アタト様、お手紙、ありがとうございます。 こちらはエンデリゲン殿下ですね。 お初にお目に掛かります」


青年は王族に対する正式な礼を取る。


「そんなに堅苦しい礼儀は必要ない。 ここにはアタトの友人として来ているからな」


エンディはニコリと笑うが、こいつは相手を探っている時の笑顔だ。


「トーレイス商会のマテオと申します。 お見知りおきください」


そしてズイッと近寄って来た。




「隣国ズラシアスの首都ティフレシアに行かれるとか。 不躾ながら、この私、マテオを随行させて頂きたい。 必ずお役に立ちます!」


彼は両親が大国出身であり、商会でも大国担当をしているそうだ。


「ほお。 それだけ自信満々に売り込むのだから、こちらにも利益のある話なのか?」


エンディが胡散臭そうに青年マテオを見る。


「はい!、勿論でございます」


マテオは今回、急に同行が決まった僕や、そのために新たに決まった随行者の費用を全て負担すると言う。


「失礼ながら予算というものは、ある程度決まっております。 途中で変更、特に増えるとなるとそれは大変なのです」


「まあ、な」


心当たりがあるらしく、エンディは顔を顰めた。


「私共をお連れ頂ければ、超過した分を補填させて頂くだけでなく、王女殿下に相応しい土産物や装飾品等も手配させて頂きます」


妹王女は今回、初めての外交になる。


平民出の母親を持つ王女として、どれくらいの費用が見積もられているか。


僕には分からないが、このマテオとやらは薄々気付いているようだ。




「うーむ」


エンディが悩む顔は珍しいな。


「分かった。 一度持ち帰って、また連絡しよう」


商人の顔が大袈裟にパァッと明るくなる。


「ありがとうございます、エンデリゲン様」


マテオはエンディの護衛に、自分の名前や商会の宣伝が入ったカードを、菓子箱と一緒に渡した。


「お話し中のところ、大変失礼いたしました。 アタト様にはまた後日、改めてご挨拶に参ります。 本日はこれにて」


身の引き方も早いな。


嵐のように、あっという間に帰って行った。


「あー、すみません、エンディ様」


「あはは、いや、なんか圧倒されたが、悪くない」


そう言って立ち上がる。


「十分に検討した上で決めるさ。 すまんが、今日は帰るよ」


「はい。 また後日」


エンディの馬車を玄関で見送る。




 はあ、なんか色々増えたな。


「あの男は大丈夫そうか?」


部屋に戻りながらモリヒトに訊ねる。


『ええ。 外見ほど胡散臭くはないです。 ただ、何か他に目的はありそうですが』


だろうな。


そうでなきゃ、元王族に突撃なんぞ出来ん。



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