第五百十話・双子の意思と付き添い
ん?。 ちょっと待ってくれ。
「失礼ながら確認したいのですが。 王女殿下の母上様は確か平民のご出身でしたよね」
「そうじゃよ」
と、ご隠居が答えた。
「平民が王家に嫁ぐ場合は、一旦、高位貴族家に養女に入ることになってる」
その高位貴族家では妃の後ろ盾の地位を得る代わりに、その娘に妃教育を受けさせることが慣例になっているらしい。
エンディが解説してくれた。
ああ。
その実家なのか。
パーメラシア王女の母親は、文官として大国の王族と共にこの国に来て、国王に見初められたそうだ。
平民出なのに、仕事とはいえ王族と他国にまで来るとは、かなり優秀な女性だな。
妹王女は嬉しそうに笑顔で話す。
「わたくし、今まで大国に行ったことはないの。 でも今回は連れて行ってくださることになったのよ」
なるほど、これはあれか。
僕がチラリと横目で見るとエンディは頷いた。
国の財政負担になっている王族の費用問題。
パーメラシア王女の母親も、エンディの母親同様、側妃である。
大国に帰りたがっているのかも知れないな。
今さら帰る場所があるのかどうかは分からないが。
あー、それを確かめに行くのか。
ふいに空間に異常を感じた。
光の玉が現れ、次に結界の箱が出現する。
光の玉が人型になると同時に結界の箱が消え、男女の子供が現れる。
「お帰り」
僕はその箱に声を掛けた。
『ただいま戻りました』
と、モリヒトが礼を取り、双子は目をパチクリさせて驚いている。
「あ、アタト。 ここはどこだ?」
僕を見つけたサンテが恐る恐る訊ねる。
「アタト様?。 モリヒトさんが急に、あの」
ハナはワタワタと焦る。
「2人とも落ち着け」
僕はまず、ここが王宮内部であることを話し、双子に挨拶をさせた。
「サンテリーです」
「わ、わた、私は、ハーナと申します。 お会い出来て、こ、光栄でございます、殿下」
サンテは太々(ふてぶて)しく、ハナは緊張しまくりながらも、2人は礼を取る。
スーのお蔭で、一応は出来た。
「急にすまなかったな。 ふたりに用があるのは私だ」
エンディが双子に椅子を勧める。
隣で妹王女は不思議そうに双子を見ていた。
ついっと祖父の服を引っ張る。
「どちら様ですの?」
小さな声で訊いている。
「王女殿下。 この双子は僕の身内です。 少し前に王都の貧民区にいたのを引き取りました」
「え?」
パーメラシア王女は双子を見比べている。
「……似ていない双子なのですね?」
ああ、そうか。
ハナは濃い金髪に綺麗な青の目をした可愛らしい女の子だ。
サンテは現在、モリヒトにより容姿に幻惑魔法が掛かっている。
2人の顔つきはよく似ているが、サンテは平民に多い黒髪黒目になっていた。
「モリヒト」
『……よろしいのですか?』
僕は頷く。
「ここだけの話にしてくださいね」
と、パーメラシア王女に念を押す。
「は、はい?」
王女は、分からないながらコクンと頷く。
モリヒトが一瞬だけ魔法を解く。
ハナと同じ金髪に青い目の少年が現れる。
大使の探しものである、金髪青目の双子がそこにいた。
王女は唖然として座り込んだ。
皆が落ち着くのを待って、エンディが話し始めた。
「本日、王宮で大国ズラシアスの大使主催のお茶会があったんだが」
今回は妹王女が参加する予定だったため、特別に王宮内で開催された。
「わたくし、大国のことを勉強したかったのです!」
うん、分かるよ。 初めて行くからな。
貴族管理部の頭である老人は、どうもエンディとこの王女には特に甘い気がする。
平民出の側妃は、とにかく後ろ盾が弱いからだろうな。
双子に大使の話をザッとする。
父親の話をすると、双子は顔を見合わせた。
ピンと来ないようだ。
その上で、
「母のことは知っているけど、父親はいません」
と、サンテはぶれない。
相当、父親を恨んでいる。
「わ、わたし、分からないです」
ハナは困っている。
物心ついた時には、すでにこの国の貧民区にいた。
今さら大国だの、父親だの言われても実感が湧かないよね。
エンディはご隠居に頷き、何かの合図をする。
「一つ聞きたい。 君たち、もし父親に会えるなら会いたいかい?」
エンディが訊ねると、ご隠居が双子の後ろに回る。
「おれ、わ、私は会いたいとは思いません」
顔を歪ませるサンテの肩を、ご隠居は宥めるようにポンポンと叩いた。
「私は、んー、分かりません」
ご隠居は首を傾げるハナの頭をヨシヨシと撫でる。
そうして、ご隠居は席に戻ると結果を報告した。
「ふたりともすまんかったな。 ちょっとこの魔道具で本当の意思を確認させてもらった」
コトリとテーブルの上に重そうなコイン状の物が置かれる。
「本来ならこんなことに使う物ではないのだがな」
ご隠居はブツブツ言いながら、ため息を吐いた。
僕は黙って話を聞く。
「本人が言えない声を聞く魔道具じゃよ」
それによると。
「ハーナ嬢は、興味がないというか、現状に満足しているから、今の環境が変化するのは嫌だという声が聞こえたよ」
「は、はいー」
ハナの顔が赤くなる。
僕は「良い子だ」と、ウンウンと頷く。
「して、サンテリー少年じゃが」
ご隠居が話そうとすると、サンテが「待って!」と声を上げた。
「自分で言っていいですか」
スクッと立ち上がると、サンテは強い瞳でエンディを睨む。
「お、おれは、父親なんていらない!。 だけど、今はどうしても言ってやりたいことがあるんだ」
おい、丁寧な言葉使いを忘れてるぞ。
「そのために会いたい、ということかの」
サンテはご隠居に強く頷いた。
「はい!」
舌打ちしたくなるが、本人の意思なら仕方ない。
クックッとエンディが笑う。
「アタト、決まりだな」
僕は思いっ切り顔を顰める。
「分かりました。 喜んでお供させていただきます」
「えっ、アタトが行くの?」
サンテは驚く。
「わたくしが大国へ参りますので、護衛として一緒に行きますのよ」
王女が嬉しそうに言う。
「ああ、お前たちの父親の様子を見てくるよ」
僕はため息と共に言葉を溢す。
助け出せるかどうかは分からないがな。
「そ、それならおれも行く!」
サンテが叫んだ。




