第五百七話・双子の情報と大国
「わたくしの都合で嫌な思いをさせてしまいました。 申し訳ありません」
大使が子供たちに頭を下げる。
あー、嫌な空気だな。
僕がイジメてるみたいじゃないか。
「その子の特徴を教えてください」
僕は一番離れた席から声を上げる。
「僕たちに出来ることがあれば、ご協力いたします。 両国の友好のために」
見つければ大国に対し恩が売れる。
子供たちは騒めく。
「年齢はおいくつですか?」
「男の子?、女の子?」
「何か特徴はありませんか?、髪の色とか」
子供たちが我先にと質問を投げる。
「ありがとう、皆さん」
大使は驚き、感激して涙を浮かべた。
細やかな情報は、直接世話係りをしていたロッテ女史からもたされる。
「男女の双子、8歳、金髪青目ですね」
ここにいるのは国内でも優秀な子供たちだ。
メモを取る子もいた。
「もしかしたらバラバラに?」
「母親が働いていれば分かりそう」
「髪や目の色は魔法で変えられるわ」
そうそう、がんばって推測してくれ。
「ですが、皆さん。 一つだけ約束してください。 決して危険なことはなさらないように」
相手は子供であっても、周りにどんな大人や組織が関わっているか分からない。
大使は真剣な顔で訴えた。
「はい。 単独で行動せず、必ず保護者や護衛と相談しながら動くと誓います」
言い出したのは僕なので、キッチリとした誓いの言葉で宣誓する。
「わたしも誓います」「僕も!」
ヨシ、なんとか纏まったか。
ザワザワとしたまま、本日のお茶会は終了となった。
「ありがとうございました」
「大変興味深いお話でした」
子供たちはひとりひとり大使に挨拶し、お土産を受け取ると、急いで出て行った。
これから家人に話して、捜索が始まるのだろう。
実は既に保護されているとも知らずに。
「アタト様、少しよろしいかしら」
僕がのんびり帰り支度をしていたら、王女に声を掛けられた。
「はい、なんでしょう」
王女の後ろで大国の大使一行もこちらを見ている。
「場所を変えて、お話を伺いたいのですわ」
僕はもう外套を羽織って、帰る準備は万端なんだが。
「申し訳ございませんが、本日は商売関係の連れがおりますので」
絶対に碌なことにならないから帰らせてくれー。
「えーっ。 アタト様がいなくなったら、私、御遣い様のお話をしたくなりますわ」
コイツは。
やっぱり、エンディの妹だな。 似てやがる。
仕方なく、別室に移動した。
保護者代わりの魔道具店店主には、辺境伯邸に言伝を頼み、先に帰ってもらう。
「やあ、お疲れ様」
小ぢんまりとした部屋にはエンディがいた。
まあ、なんとなくそんな気はしたさ。
「そちらこそ、昨夜は大変お疲れだったでしょう」
なんせ陞爵の式典だ。
元王族とはいえ、緊張するだろう。
「あははは、まあな」
相変わらず緊張感のない笑顔の裏は読めない。
ソファの隣を勧められて座る。
向かい側に妹王女とリザーリス大使が座った。
王宮の中にしては狭い部屋なので、後の者たちは入り口付近の壁際に待機。
「眷属を呼んでもいいぞ」
と、エンディが言うので、遠慮なくモリヒトを呼ぶ。
金髪の美形が突然現れ、大使をはじめ、知らない者たちは一瞬ザワついたが、すぐに落ち着いた。
さすが王宮、よく教育されている。
「それで、お話というのは」
王宮侍女のお茶を断り、モリヒトに苦めのコーヒーを淹れてもらう。
その香りでホッとしていると、リザーリス大使が口を開いた。
「本日は色々とありがとうございました」
うーん、礼を言われるようなことはしていない。
「お気になさらず。 自分のためにやったことです」
あまり子供に頭を下げるのは良くないと思う。
それでも、なんとかお茶会が無事に終わって良かったと、感謝された。
隣でクスクスと笑うエンディに、僕は顔を顰める。
「御用がそれだけなら」
と、立ち上がりかけると、エンディから「待て」と上着の裾を掴まれた。
隣に座るんじゃなかったな、服が伸びる。
「アタト。 子供の情報、どこまで掴んでる?」
エンディはお茶会の様子を把握していた。
僕の様子が不自然に見えたと言う。
ああ、王宮の貴族管理部で隠し部屋を見たなあ。
あんな感じで監視されていたらしい。
「ロッテ女史には、お話ししましたよ」
辺境伯家で引き取ったと思われている貧民区の子供。
連れて来いと言われているが、知らせる気はない。
「今はまだ子供だし、あまり環境を変えるのは良くないと思います」
罪人の子扱いされる国に渡せるもんか。
成人したら本人の好きにさせれば良いと思う。
「なあ、アタト」
「何ですか、エンディ様」
2人の間はあまり遠慮がなくなっている。
「お前、子供たちを探す気、ないだろ」
「ええ」
必要ないのでね。
「だいたい、今さらその子たちに何の用があるんですか?」
大使は申し訳なさそうに俯く。
「兄の忘形見です。 引き取って育てるつもりですわ」
嘘っぽいな。
「今まで放置していたのに、ですか」
その気なら、他国に亡命する前に母親ごと引き取れたはずだ。
母親の死を切っ掛けにしても遅過ぎる。
むしろ、最近になって何かのために双子が必要になったと見るべきだ。
そうでなければ、いくら身内でも罪人の子を引き取るなんて、貴族家の嫁の立場になる彼女が出来るとは思えない。
ロッテ女史の態度や、貧民区の住民を使うなど、少し強引なところも違和感がある。
普通に引き取るなら、そこまでする必要がないしな。
「人間違いや、擬装には気を付けてください」
「……アタト。 もう双子の居所、掴んでるだろ」
「さあ」
知ってるけど。
「あー、そうだ。 アタト、祝いの品、ありがたく受け取ったよ」
「恐れ入ります。 自室の隅にでも飾ってください」
倉庫でもいいよ。
「何でしたの?」
妹王女が興味津々で訊いてくる。
「私はまだ見ていないが、天使か女神の絵画のようだと聞いた」
「そうなの?。 意外と平凡ね」
「そんなものです」
また魔獣素材を使った魔道具でも出てくると思ったのだろう。
王女はガッカリしたようにため息を吐く。
ご希望に添えなくて申し訳ないが、僕は目立ちたくないのでな。




