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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五百二話・絵画の御遣いと打ち合わせ


 数日後、ベッキーさんに対する諸々のことが終わった。


本格的に気候は冬になり、朝晩、かなり冷え込む。


「うおーりゃあー」


朝から庭で元気な声を張り上げているのは、クンだ。


僕は朝の参拝を終え、合流する。


「おはよう。 クン」


「アタトー、手合わせしよー」


「準備運動してからな」


脳筋小僧め、慌てるな。


ちゃんと体を解してからだよ。


 サンテとニーロもやって来て、朝練が始まる。


同じ年頃の少年4人で、朝からワチャワチャと騒がしくて申し訳ない。


「いえいえ、主もご夫婦で楽しそうにご覧になってましたよ」


そこにキランが様子を見に来て加わる。


辺境伯夫妻にも見られてたかー、それはまあ、しょうがないか。




 そろそろ朝食の時間になり、部屋に戻る。


「クン、工房の様子はどうだ?」


今朝はクンと2人で朝食を摂る。


「ベッキーさんの部屋も借りられて引越しも終わった。 ガビーさんとこに材料も届いたし、例のお面の予約も順調に入ってるよ」


「そうか、良かった」


ガビー工房の王都支部も順調に動き出している。




「しかし……アレは参ったなあ」


「ああ、あの銅版画?。 なんで?、カッコいいじゃん」


ガビーに依頼した辺境伯への贈り物。


A4サイズの銅版画なんだが、エンディに贈った御遣いの練習用絵画を元にしたものだった。


つまり、僕をモデルにした構図になっていた。


手紙くらいの大きさまでは許可したが、僕が想定した封筒の大きさではなく、ガビーは手紙の中身、文章を書く紙の大きさにしやがった。


「後ろ姿だから、まだいいけど」


そこに3体の精霊とエルフの巫女が小さく描かれ、中央に大きく僕の後ろ姿がある。


「銅板の光沢で神々しい逸品になってるし、辺境伯様も喜んでたし」


朝からドワーフの少年はモリモリ食べながら喋る。




「そんなことで恥ずかしがってたら、教会から出てる分はどうするんだよ」


「はあ、アレなあ」


教会では子供たちに描かせた絵が評判になり、一部は買い取られたという。


「信者様に熱心に頼まれたら断れなくて。 価格のほうはご寄付となりますから、販売ではありませんよ」


嘘つけ!、とヤマ神官に突っ込んでしまった。


益々、僕は外を出歩く事が少なくなっている。


自意識過剰と笑えばいい。


エルフの耳に入ってくる情報が、小っ恥ずかしくて仕方ないんだよ。




 クンは、アタト商会からの仕入れのために、僕のところに毎日顔を出していた。


今日、荷物の最終確認をしたら、明日はロタ氏とクンは次の街へと移動する。


「冬はあまり移動しないのかと思ってたよ」


「ドワーフの地下道を使えば雪や寒さはたいして苦にならないし、行商人を待ってる地域も多いしね」


そうだよな。 彼らがいないと困る人々がいる。


「じゃ、頼む」


ロタ氏には、アリーヤさんの実家の食料品店から仕入れ、辺境地とエンディ領の食堂への食材等を運んでもらうことになっている。


「はい!、承ります」


ロタ氏と打ち合わせ済みの注文書の控えに、魔力を注いで渡す。


ここから魔法による契約の行使が始まるのだ。




 この世界での流通は、大きな商会以外は行商人頼みになる。


ドワーフという種族は、行商という人族との交流で情報収集して生き延びて来た。


それに比べてエルフ族は森に引き篭もって自給自足。


まあ、それも悪くないが先細りになるだろうな。


 玄関に出るとサンテや領兵たちも見送りに出ていた。


彼らも辺境領地の家族や友人宛ての手紙や品物を預けている。


「皆によろしくな」


「はーい」


ドワーフの荷馬車が辺境伯邸を出て行った。




 別棟に戻る前に、家令さんから手紙を受け取る。


王都の魔道具店からだ。


『大使のお茶会の場所が決まったようです』


僕宛ての手紙は、まずモリヒトが目を通すことになっている。


「へえ、どこ?」


『王宮で部屋を借りられた、とありますね』


ぐう、予想通りか。


『但し、日程は宴の翌日のようです』


ほお、1日ずらしたか。


当然だろう。


同日に関係のない宴席を、同じ建物内でやるなんて、働いている者にしたら忙しくて仕方ない。


冠婚葬祭業でもない限り、やりたくないと思う。




『打ち合わせのために一度、店に来てほしいとあります』


「分かった。 2日後に伺うと返事を書くから届けてほしい」


訪問予定だけなので、手紙ではなくメッセージカードみたいなものを書く。


『承知いたしました』


それを届けるのは、特殊な相手ではない限り辺境伯家の使用人を使う。


僕の場合はキランに頼むことが多い。


「ついでに、ガビーにもその日は同行するように伝えてくれ」


ガビーは相変わらず職人兄妹の工房に泊まり込んでいる。


『はい、キランに申し伝えます』




 ガビーと共に魔道具店へ向かう日。


天気も良いし、今日は散歩がてら歩くことにした。


護衛はモリヒトとキランがついて来る。


「これ、あったかいです!」


辺境地の仕立師の爺さんからは冬用の衣服が色々と届けられ、中にはガビーの外套もあった。


「良かったな」


「はい!」


黒っぽい生地だが、襟元が銀色のフワフワした毛皮で暖かそうだ。


完全な男性用には見えないところが、なかなか良い仕事してるな、爺さん。




 貴族はあまり歩かないらしく、貴族街では馬車は行き交うが歩いている人は少ない。


たまに見回りの兵士や手紙を運ぶどこかの使用人を見かける程度だ。


 ふと見上げると目に入るもの。


小高い場所にある王宮は、王都の街中ならどこからでも王城の外壁を見ることが出来る。


「王宮かあ。 また行くことになるとはな」


あまり良い印象のない場所だから、自分から行くことになるとは思わなかった。




「ようこそ、おいで下さいました」


来いって言われたからな。


「お世話になりますので」


お互いに挨拶を交わして、すぐに奥の商談用の部屋に入る。


「何か打ち合わせが必要とか?」


お茶とお菓子が並ぶのを待って話し出す。


「ええ。 実は、大使様から私どもに依頼がございまして」


「はあ」


「神の御遣い様が描かれた絵が欲しいと」


教会で販売されている子供の絵ではなく、実物に近いものを所望されたそうだ。


なんで画商じゃなく魔道具店に?。



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