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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第五十話・ドワーフの作品を褒める


 それから数日。


僕たちは相変わらず、昼間は天気が良ければ釣りか狩り。


雨なら森で薬草や果実等の食料も探した。


季節が秋っぽいので木ノ実なんかもチラホラ見かけるようになったのだ。


荷物は、すべてモリヒトが自分で作った結界に入れる。


そうすると見えなくなるので、トスが驚いていた。




 夜は文字の練習。


僕は筆で一文字だったり、ペンで本を書き写したりするが、トスにはとにかく固形墨を磨らせた。


磨りは集中しないと綺麗な黒にならない。


三日目くらいからトスが磨ったものを筆に染み込ませてみるが、


「薄いな」


と、一目で分かる。


「ほんとだ。 もう一度やる」


硯の墨を全部捨て、最初からまた磨り出す。


トスは磨ることに気を張って集中しているので、魔力が漏れ出ることはない。


そんな姿をガビーがニヤニヤしながら見ていた。




「おい、ガビーは文字の練習はしないのか?」


僕が訊くと頭を掻く。


「あはは、私はどうも読むほうが合うみたいです」


読み易くした少女向けの恋愛小説らしいが、相当気に入ったみたいだ。


「文字を書くのが嫌なら、挿し絵を描いてみたらどうかな?」


と、勧めてみる。


「絵ですか?」


絵画でも版画とかでも、器用なガビーには向いてる気がする。


「その小説の好きな場面を思い浮かべて、描いてみるだけだ」


想像を具現化する。


誰かに見せるわけではないし、気楽にやってみればと促す。




 この世界の本は、子供用の絵本以外は挿し絵が無い。


「同じ内容を読んでも一人一人想像するものは違う。


お前は、自分が思っていたのと違う絵が入っていたら、どう思う?」


ガビーは、「んー」と少し考える仕草をする。


「それは、本の印象が変わってしまうかも知れません」


僕は頷く。


「そうなる前に自分が受けた印象で描いてみるのも楽しいかもな」


自分だけの挿し絵。


「そうですね」


ガビーも頷いた。


紙なら余分に買い込んでいる。


ガビーがこっちを見ずに、手元の本に集中し始めた。


ヨシヨシ、その調子でこっちを気にせずに過ごしてくれ。


やっぱり女性に見られてると無意識に緊張するんだよ、若い男ってのは。


あ、僕はジジイなんで大丈夫。




 モリヒトは昼間は僕の護衛として張り付いていて、塔に戻るとガビーと共に家事に精を出す。


風呂場を掃除して浴槽や瓶に湯を入れたり、僕が脱ぎ散らかした服や装備を回収して点検したり、と忙しい。


「モリヒトはちゃんと休んでる?」


一緒に風呂に入ったタヌ子の毛を乾かしながら訊ねる。


『はい。 アタト様がお休みになっている間は魔力を節約しております』


一応、警戒は継続しているようだ。


『ですが、基本的に精霊には睡眠は必要ございません。


魔力を使い過ぎると休眠状態になることはございますが、わたくしは滅多に不足しませんので』


モリヒトは精霊王の側近らしいので、魔力量は心配いらない。


それでも、


「僕だけじゃなく、ガビーやトス、タヌ子まで面倒みてくれて、ありがとうな」


と、声をかけて労う。


僕の手からタヌ子が離れてモリヒトの足元に擦り寄って行く。


タヌ子も感謝しているみたいだ。


『いいえ。 アタト様ならわたくしが居なくても何とかなさったでしょう。


わたくしの手伝いなど些細なことです』


そう言って微笑む。


そうかなあ。




 ガビーに本の挿し絵を勧めて二日目。


「アタト様」


あれから何かを試作していたガビーが、夕食後にモジモジしながら言う。


「ん?、何かな」


差し出したのは薄い銅板である。


繊細な絵が彫られていた。


「アタト様が言われた事を私なりに考えて。


銅なら手元にたくさんあったので、板にして彫ってみました」


「なるほど。 うん、悪くない」


銅板ってとこが、実にガビーらしいなと思った。


『これは綺麗ですね』


モリヒトも頷く。


ガビーも嬉しそうだ。


「それで、あのー。 本を選んで下さった司書の方に、よろしければ差し上げたいと思って」


「ああ、良いんじゃないかな」


僕はモリヒトに頼んで、銅板に破損や腐敗防止の魔法をかけてもらう。


「そうだ。 ガビー、これの栞版も作ってくれないか」


小物なら店で取り扱い易い。


「あ、はいっ。 お役に立てるなら」


いやいや、いつも助かってるよ、ガビー。


思ったより自己評価低いな。




 ガビーは自室へ戻り、トスは今日は疲れたのか、すでに寝ている。


タヌ子は僕の足元で丸くなった。


「ベッドに行けば良いのに」と、声を掛けてみたが動く気配はない。


 そして、僕は司書さんから預かった本と魔道具店で買ったペンを取り出す。


モリヒトが近々、ワルワ邸に行く予定なので、届け物の一覧とトスの様子などを綴った手紙を書くのだ。


便箋なんて用意してなかった。


だけどまあ、上質な紙ならガビーが買って来たのをこっそり隠しておいたので、それを使おう。


 何かを書くという動作自体、集中しないと字がブレてしまう。


自分が気に入る文字を書くために、僕は集中する。


毛筆の場合は上から下への縦書きが書き易いが、この世界はアルファベットのように左から右への横書き。


日頃、筆で練習しているのは一文字ずつ、もしくは二つか三つまでの単語程度だ。


長い文章になるとボロが出そうなので、なるべく短めにした。




「市場での売り物用干し魚。


ワルワさんに購入してもらうための魔獣と魔魚の素材。


売り物じゃなく、ワルワ邸用の干し魚と燻製の肉と魚」


紙を替えて司書さん宛ての一覧を書き、封をしたそれをきちんと本を梱包した箱に乗せた。


『薬草茶はいかがいたしますか?』


「うーむ。 治験の結果を聞いてからにしたいなあ」


危ない薬に認定されてたら困る。


所持しているだけでワルワさんたちが怒られたり、捕まったりしするかも知れないし、それは嫌だ。


『承知いたしました。 今回は納品しないということですね』


うん、それでよろしく。




 モリヒトは夜の間にワルワ邸へ往復する。


翌日の夜、モリヒトは精霊の玉に変化すると、荷物ごと姿を消して飛んで行った。


空を飛べる魔法はエルフには無いみたいなので羨ましい。


さて、僕はタヌ子と毛布に包まって眠る。


モリヒトが戻って来るのは朝方だ。



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