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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百九十五話・工房の改装に着手


「もう一つ提案があります」


「は、はいっ」


職人妹は緊張した声を出す。


「この工房を少し改装させていただきたいのですが」


「へ?」


兄妹が目を点にした。


すまんね。 勿論、その費用はアタト商会で出すよ。




 僕は手書きの簡単な図面を取り出す。


今の兄妹の工房は、工房街の一角にある。


おそらく、どこも同じ広さで売り出された区画なんだろう。


鉄製の塀で仕切られた土地に作業場と小さな裏庭、2階に住居がある。


他の建物と同じように、入り口の扉を開くとすぐに作業場だ。


「道に面した部分を事務所にし、見本や価格表の展示に使いたいです」


商談用のテーブルと椅子のセットも置きたい。


「その分、作業場を裏の塀まで伸ばして」


図面の上を指でなぞる。


「現在、試験場になっている裏庭を地下に移動します」


武器などを試しに使ってみるための人形ひとがたを地下に移せばいい。


「地下ですか?」


兄妹は顔を見合わせた。




 王都の工房街はドワーフの地下街に近い。


そのため、地下はドワーフの領域という暗黙の了解みたいなものがあり、誰も手を出せなかった。


下手に刺激したくなかったんだろう。


だが、ドワーフとの取り引きに使うとしたら、彼らも助かるのではないか。


「地下はモリヒトが作るので心配いりませんよ」


僕は、彼らを安心させるためにニコリと微笑む。


『ついでに、ドワーフ街へ地下道を繋いでしまいましょう』


モリヒトの話では、そんなに距離はないそうだ。


「あー、そりゃあいいな」


僕はモリヒトの提案に頷く。




 王都の地下街は、ドワーフの許可がなければ入れない。


予め偉い人に特別な許可証を発行してもらっておけば、兄妹の工房から直接、地下街に入るので入り口でいちいち確認を取らなくて済む。


「ロタさん、そちらの交渉をお願い出来ますか?」


「アタト商会の名前を出せば、すぐに許可証は発行されるだろう。 後でもらって来てやる」


ドワーフたちも一旦、地上に出なくても店に行けるのは楽だろう。


ロタ氏が大丈夫だと保証してくれた。


「あ、あの、そんなことまで」


兄妹は思ったより大ごとになって驚いているようだ。


「アタト商会の系列店になるのですから、これくらいは当たり前ですよ」


商会自体は王都に支店を出す気はない。


既にある店を系列店にするだけなら、宣伝とかしなくてもいいし、楽だ。




 僕は契約書を職人兄妹の前に置く。


「素材をうちの商会から仕入れていただければ、製品の売価は自由です。 品不足などの苦情はお早めに連絡を。 こちらで対処します」


この冬の間、僕は王都にいる。


その後はモリヒトの分身を置く予定だ。


「ドワーフの乱暴者に対しては、最近、地下街に保安隊が出来たそうなので、そちらに訴えると良いそうですよ」


先日まで滞在していたドワーフのスーとドンキ。


スーは辺境のドワーフ街の鍛治組合の偉いさんの孫娘だし、ドンキは現役の保安隊員だ。


あの2人が「王都の地下街にも必要だ」と、ドワーフの若者に広めたらしい。


あっという間に保安隊が結成され、ロタ氏も驚いたという。


「長く住んでる者も多いから、人族の兵士との連携も出来てるぞ」


王都の首都警備兵にも伝手つてがあるそうだ。




 種族間で対立しているわけではなく、お互いに職人としての腕を切磋琢磨している。


「お互いに、これからも良い関係を続けて行きたいと願っておるよ」


ロタ氏は兄妹にそう言って微笑む。


兄妹もそれに応じて笑う。


「ぜひ、よろしくお願いいたします」


決まったな。


アタト商会の契約書に兄妹は連名で記入し、魔力を込めた。




 では、始めよう。


「モリヒト、作業を始めてくれ」


『承知いたしました』


モリヒトの姿が光の玉になり、消える。


「おれはちょっと地下街に行ってくるよ」


ロタ氏は契約書を持って、許可証の申請に行く。


その紙が通行理由の証明になるからだ。




 キランが、


「お茶にいたしましょうか」


と、声を掛けてきた。


今日は護衛として、領兵用の軽装備である。


「ここにいるとモリヒトの邪魔になるから、近くの飲食店に行こうか」


「そうですね」


いつもの執事服ではないが、先に店へ向かい、席を確保して戻って来る。


僕たちはキランの案内で店へ移動した。


 ちょうど昼食の時間なので、ワイワイと賑やかな店内で軽食をもらう。


ここの料理は職人用なので量が多い。


地下街の入り口も近いし、チラホラとドワーフの姿も見える。


客層や場所的に良い店だなあと、つい経営者目線で見てしまった。




 食事をしながら、職人兄が落ち着かない様子で話し掛けて来る。


「あのー、アタトさん」


おや「さん」付けになったな。


「はい」


「大丈夫ですかね、うちの店」


「ふふふ、今頃不安になったんですか」


「ええまあ」


「そんなの、やって見なきゃ分かんないでしょ」


妹さんのほうが度胸がある。


「ここまで準備してもらってさ。 始める前から尻込みしてちゃ、余計アタトくんに悪いよ」


すでに両親はいない、ふたりっきりの兄妹。


「心配掛ける親もいないんだし。 仕事での苦労なら散々して来たんだし、兄ちゃんなら大丈夫だって」


妹さんは兄の背中をバンバンと叩く。


「わ、分かったから。 やめろよ、痛い」


兄の顔が少し明るくなった。


「そうだな。 失敗したら、一緒に辺境地でも行くか」


いやいや、失敗なんて今から言わないでよ。


こっちが不安になる。




『終わりました』


人型になったモリヒトが店に顔を出す。


「分かった。 じゃ、行きましょうか」


兄妹を連れて工房に戻る。


 正面入り口の扉はそのままだが、壁は室内が見える広いガラス窓がついていた。


『2階の住居は手を付けておりません。 基本石造りですので、内装は後ほど業者に頼んでください』


僕は、ボケッとしている兄妹を扉の中に押し込む。


 入ってすぐ、今までの作業場は手前半分が事務所になっていた。


ガラスの陳列棚と、仮の石作りのテーブルと椅子が置いてある。


「応接用の家具は後で購入して、領収書を送ってください」


と、妹さんに話しておく。


 奥半分は作業台のある見慣れた場所。


そして、壁際に2階への階段と、地下へ向かう階段があった。



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