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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百九十三話・工房の系列店と絵画


 ガビーは、すぐには帰って来なかった。


「すまん。 今、創作に夢中になってて、もう少し待ってほしいって伝えてくれと頼まれた」


工房の職人兄が伝言を持って来た。


ふうん。 珍しいな。


ガビーが僕以外を優先するなんて。


まあ、作品を作っている最中なら仕方ない。


「分かりました。 ありがとうございます。 ぜひ、お茶でも飲んで行ってよ」


久しぶりに会ったので、王都の工芸品の情報を訊いておきたい。


「ハリセンも大小や様々な色、形で売れてる。 後は、教会に納品する御守りを定期的に納入させてもらってるので、うちは助かってるよ。 それで」


何か言いたそうにしているので、先を促す。




「えっと、こんなことを頼むのは甘え過ぎだとは思うんだが」


うん、だから何?。


「ガビーさんに聞いたんだ。 アタトくんの商売に関係している店には同じ意匠の看板を出せるって」


は?。


「それはアタト商会の系列店だからです。 店主は店によって違いますが、商会が出資していたり、直接経営したりしている店ですよ」


職人兄は分かっているのか、いないのか。


さらに僕に迫る。


「そ、それになるには条件とかあるのか?。 どうやったら系列店とやらになれる?」


いやいやいや。


「普通に儲けがあるんだから、うちの傘下に入る必要もないと思いますけど」


「それがー」


職人兄はストンと座ると困まり顔になる。




 兄妹の工房だけがドワーフたちと取り引きしていると噂が広まり、周りの嫉妬が酷くなっているらしい。


「確かに取り引きはあるが、特別に優遇してもらっているわけじゃない」


ドワーフの品を扱える店は、それだけで評判は上がる。


職人たちは良質なドワーフ素材を手に入れるため、ドワーフの地下街の近くに集まって工房を開いているくらいだ。


それはドワーフたちも同じで、人族に対する売れ筋や流行を早く知るために交流は欠かせない。


「系列店になると、さらに酷くなりそうですが?」


「そうなんだが。 ガビーさんによると、アタトくんは直接売るのは小売に任せているよね。 だから、うちもドワーフと工房街の間に入る形にしたらどうかなと思ってさ」


ん?。


「うちがアタト商会からドワーフの材料や製品を仕入れて、人族の工房に卸す。 そんな感じだ」


なるほど、出来なくはない。




「でも、それって職人の仕事ではないですよね」


中間業者になるわけだし。


「そこはうちの妹がやりたいって言ってるから任せようと思ってる」


ふむ。


兄妹の工房をアタト商会が出資し、ドワーフから人族の工房に卸す。


その逆も出来るな。


「少し考えさせてください」


僕は即答を避ける。


お婆様に相談しないといけないからな。


「あ、ああ。 よろしく頼む」


そんな感じで職人兄は帰って行った。




 で、ガビーは何をしてるのやら。


「お待たせ、ハァハァ、いたしましたー」


2日後、ガビーはボサボサ姿でやって来た。


「お帰り。 とりあえず、風呂に入れ」


コイツ、製作に没頭し過ぎて何日も風呂に入ってないな。


「へ?、あっ!」


ガビーは自分の姿に気付いて、慌てて部屋へ戻って行った。


 身綺麗にして戻って来る。


「すみません、遅くなってー」


「それは構わないよ。 製作に夢中になってたんだろ」


「ヘヘッ」と笑うガビーの顔は満足気だった。


きっと納得いく作品が出来たんだろう。


楽しみだ。




 それは後にして、こっちの用事を伝える。


「お前の工房からの売上表が来てるんだが」


そう言って、ガビーに渡す。


「へっ?」


「おかしいだろ」


ガビーが不在にも関わらず、売上が異常に伸びていた。


お婆様からも「要調査」の書き込みがある。


「近いうちに一度、辺境地の工房に帰って調べて来てくれ。 モリヒトにも頼んでおく」


「分かりましたー」




 ガビーは首を傾げている。


「何か新しいものが出来たんですかねー」


それにしたって、工房長のガビーが知らないのはおかしい。


「なら、普通はこっちに知らせてくるだろ」


僕はモリヒトの分身による商会本部との交信を、定期的にやっている。


そこでドワーフのお婆様と商会の運営について細かく相談と指示をしていた。


ガビーの工房の件で新しい話はなかったと思う。


「分かりました!。 モリヒトさん、準備するので夜まで待ってください」


『承知しました。 慌てずに、準備が出来たら声を掛けてください』


「はい。 ありがとうございます!」




「では」と、立ち上がったガビーに僕は待ったを掛ける。


「納得出来る作品が出来たんだろ?。 見せて」


途端にガビーは挙動不審になる。


「あ、あれはー」


なんで目を逸らす。


「いいから見せろ。 売り物にするか決める」


ガビーの作品は、たまに売り物にならないモノが出来上がる。


僕が睨み付けると仕方なく荷物から取り出した。


結構大きい。


テーブルの上に置いたが、6人用のテーブルとほぼ同じ大きさである。




「えっ」


ガビーの得意な銅版画ではなく、絵画である。


「王都はたくさん色が手に入るもんで、つい嬉しくなっちゃって」


『これは大変、素晴らしいです。 ガビーさん』


モリヒトがベタ褒めする。


「ヘヘッ、ありがとうございます!」


僕は頭を抱えた。


……それは『神の御遣い』、つまり僕だった。


「教会でアタト様の姿を見て、痺れてしまったんです。 こう、ビリビリッと」




 白髪の長い髪、薄い褐色の肌に尖った耳の横顔。


白い光沢のある布を巻き付けたような衣装。


同じ衣装の女性エルフが横に跪いている。


目は閉じているので色は分からない。


多少、誇張して変えているから、違うといえば違うが。


僕をモデルにしていることは明らかだ。


 モリヒトがわざわざ絵画を立てて見せてくれる。


『どこに飾りましょうか』


お前はー。


僕が嫌がることを承知で言ってるな。


僕はサッと奪って自分の保管庫に入れる。


「アアーッ」


煩い。


「預かるだけだ、心配するな」


「絶対ですよ!」


ガビーは僕を恨めし気に睨みながら部屋を出て行った。


『額を発注しておきます』


僕とは正反対にモリヒトは上機嫌だ。


アレは危険だ、早々にどこかに売り飛ばそう。


どこにするかな。


「あ!」


僕はアレを持ち込む先を思い付いた。



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