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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百九十二話・辺境伯夫妻の到着と少年


 翌日、辺境伯夫妻が王都邸に到着した。


「辺境伯閣下、奥様。 長旅、お疲れ様でした」


僕たちは、辺境伯家の使用人全員と揃って、玄関で出迎える。


いくらご好意とはいえ、長く別棟を使わせてもらっているのだから当たり前だ。


「アタトくん、出迎えありがとう。 皆も今まで通り、ゆっくり過ごしてほしい」


夫人も、後ろにいる護衛騎士のクロレンシア嬢も優しく微笑んでいる。


「ご厚意、感謝いたします」


自然に頭が下がる。


本当に感謝しかない。




 夫妻は旅の疲れを取るため、その日はのんびりと過ごす。


今後は辺境伯自身が情報収集し、後に夫人も含めて社交が始まるだろう。


翌日、初対面の者たちは一度、挨拶のために辺境伯の執務室に向かい、家令さんから軽く名前や経緯を紹介してもらう。


勿論、僕とモリヒトは付き添った。


「アタトくんの推薦であれば心配はしておりませんよ」


無条件で受け入れる、というより、キランからすでに報告がいってるんだろうな。


後は今まで通りで良いと言われているので、特に要請がなければ別棟で過ごすことになる。


「優しい人たちだねー」


ニーロは辺境伯夫妻の印象を話す。


「うん。 おれもそう思う」


聞いているサンテも笑顔だ。


辺境伯夫妻は、双子を王都で拾った時も嫌な顔一つせずに受け入れてくれた恩人だからなあ。




 庭の訓練所が賑やかになった。


夫人の護衛としてクロレンシア嬢が来たせいか、単に辺境地から来た領兵が増えたせいなのか。


その影響か。


「騎士になりたい!」と、ニーロが言い出した。


訓練を見ていたティモシーさんにこっそり訊いてみる。


「ニーロくんは騎士になれますかね」


「まあ、本人次第だけど、騎士養成学校に入れてみたら良いと思うよ」


剣術系の才能がなくても訓練次第だと言う。




 僕はいい加減、ウンザリしている。


ニーロは未だに家族との交渉待ちなのだ。


実家は商家らしいが、長子で優秀な子供のニーロを何故、迎えに来ない。


魔力漏れに関しては御守りの魔道具で管理出来るようにした。


ニーロは弟の分も作ってもらって、家に送っている。


「お母さん、継母らしいよ」


サンテがボソリと漏らす。


ニーロの実母は亡くなっているそうだ。


体調を崩した幼い弟は、二度目の母親の異母弟ということらしい。


それは家庭に問題がありそうだな。


 やはり、騎士学校を選択肢に入れておくか。


あそこには寄宿舎もある。


貴族の子息が多いので、平民出はかなり大変だが、それをよく知るティモシーさんは「本人次第だ」と言う。


溢れるほど魔力のあるニーロなら、やれる可能性はあるということだ。




 その夜、イブさんとティモシーさんが僕の部屋に来た。


「ニーロくんの件ですか?」


「はい」と、2人は頷いた。


イブさんからはニーロの家族の話を聞く。


「教会から呼び出しをかけても何の連絡もありませんでした」


神官たちは基本的に多忙である。


特別な事情、葬儀や出産などがなければ個人宅を訪ねることは滅多にない。


しかし、イブさんはニーロのために訪ねて行った。


「裕福な家庭のようでしたが、その、奥様がー」


やはり、ニーロを廃嫡しようとしていた。


仕方ないか。


どんな母親でも自分の子が可愛い。


「父親からも、魔力が溢れるほどあるなら神官にするべきとまで言われまして」


実の父親まで、そうなんだ。


普通の家庭なら、よほど経済的に困っていないなら子供を教会に預けたりはしない。




 僕は、ニーロが教会に居た時点で薄々気付いていた。


おそらく、ニーロも分かっていたんだろう。


だから家に戻ることを諦め、騎士になる道を選んだ。


「本人の意思を確認したよ」


ティモシーさんからニーロに、


「その気があれば騎士養成学校への手続きをする」


と、話してもらった。


推薦の話はかなり喜んでいたらしい。


本人としては、国軍より教会警備隊に入りたいと言うが、騎士の称号は騎士学校卒が条件になる。


「やれるだけやってみろ。 ダメなら教会警備隊の下っ端として雇ってやる」


騎士は無理でも、いつか警備隊には入れると約束したそうだ。




「あの子は少し我慢し過ぎなんだよ」


ティモシーさんはため息を吐く。


家のことや親の商売のことを考えた末なのだろう。


「あのくらいの家ならば、幼な子が魔力解放するまで別棟や別宅で生活させることも出来ただろうに」


父親は長子に我慢をさせて、教会に押し付けた。


「教会の修行は我慢の連続だ。 ニーロくんには酷だと思う」


そうだな。 体を動かして発散させてやった方が良い。


ティモシーさんも頷いた。


「推薦状は、私から辺境伯様にお願いしよう」


騎士学校の入学には、平民出の騎士志望者の場合は貴族の後ろ盾が必要になる。


「では、私は入学申請したことをご家族にお伝えいたします」


イブさんは教会の許可が下り次第、ニーロの家に知らせる役を引き受けてくれた。


「よろしくお願いします」


僕は2人に頭を下げて頼んだ。




 さて、ニーロの件はそれで良いとして、他にも何かあったかな?。


もう夜も遅いので寝るだけなんだけど。


『お手紙が届いておりますよ』


「ん?、誰から……」


モリヒトは手紙が大量に入った箱を取り出す。


ハイハイ、処理すればいいんでしょ。


 翌日から運動の時間以外は部屋に籠る。


手紙の山を処理するためだ。


僕はモリヒトが急ぎと判断したものから開いていく。


はあ、相変わらず取引先からドワーフの工芸品や魔道具の催促が多い。


商会の書類も来ているが、細かい印が付いているのはドワーフのお婆様の検印だ。


ちゃんと目を通してくれているのは助かるな。


後は僕が決裁するだけになっていた。




「ん?」


気になる書類を取り出す。


辺境地の工房の売上表だ。


「ガビーはどこ?」


『工房街から戻って来ておりませんよ』


固形墨や硯の製作のため、ガビーは王都のドワーフ街に近い工房で作業をしている。


確か、教会納品分は小売りの魔道具店に届け終わったはずだ。


『ついでに御守りの材料を作っていると聞きましたが』


うん、そうだけど。 あれから何日過ぎたと思ってるんだ。


「そろそろ戻って来るように伝えてくれ」



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