第四百九十一話・お茶会の招待と現状
今さら子供扱いは仕方ないと諦めよう。
見た目はコレだしな。
「大国の話を子供たちに、ですか?」
「優秀な人材を大国ズラシアスの首都ティフレシアに留学させるということは、昔から行われております」
店主の話では、子供のうちから大国に良い印象を持ってもらうという活動の一つらしい。
しかし、問題は、
「僕なんかがその集まりに参加しても良いのでしょうか」
と、いうことだ。
「招待されるのは、国内でも優秀だと認められた少年少女たちでございます。 身分には関係なく、王都以外からも参加されますよ」
冬は貴族にとっては社交の季節。
その王都に集まる地方貴族を目当てに集まり、顔つなぎをして商売にしようとする者も多い。
冬の王都は情報が飛び交う社交場というわけ。
地方都市は、王都にとっては目新しい農産物や鉱石などの素材を手に入れるための足掛かりなのだ。
大使のお茶会は、子供らが学生になった時、もしくは大人になった時に大国に勉強に行くという選択肢を与える取り組みらしい。
「別室にて保護者のお茶会もございますので、ご心配でしたら私が付き添いましょう」
うーむ、護衛はモリヒトが姿を消して着いて来るだろうから心配はしていないが。
じゃあ、僕も辺境出身の優秀な子供ということにして参加しよう。
頼んだのはこちらだしな。
「分かりました。 出席いたします」
「ありがとうございます。 返事はこちらから出しておきますので」
店主は嬉しそうな表情で帰って行った。
別棟に戻りながら考える。
大国の大使主催のお茶会。
日程は年末ギリギリ、あと1ヶ月くらい先だ。
場所は王都の中ではあるが、まだ未定だという。
まあ、宿では出来ないだろうし、どこかの貴族の館でも借りるのかな。
他の貴族が絡んでくるとなると。
「下手にサンテのことは訊けないな」
しかし、多くの子供たちの目があるなら心配はないか。
でもなー。
参加する子供たちがどの程度の家柄なのかによる、と思う。
「まさか、大使のお茶会に施設の子供を呼ぶなんて出来ないだろうし」
最低限でも、貴族や富豪の商人が後ろ盾になっている子供だよな。
それでいくと、僕の後ろ盾は交易商人。
あの魔道具店の店主ということになる。
部屋に戻って普段着に着替える。
庭からサンテとニーロが領兵たちに揉まれている声が響いていた。
元気があって大変よろしい。
僕もそろそろ動かないといけないかな。
最近はずっと室内で体を動かしているが、自宅ではないので下手に調度品を傷めない注意が必要だった。
動きにくいったらない。
そういえば、辺境伯夫妻が王都に来る日が近い。
片道20日くらいかかるので、秋の収穫祭などが終わり領地を出ると、王都に到着するのは冬になる。
辺境地は遠い。
せめて何事もなく、無事に到着されることを祈ろう。
その夜は皆に集まってもらい、久しぶりに全員で夕食をとる。
「もうすぐ家主である辺境伯様がいらっしゃる。 粗相のないようにな」
「分かりました」
皆、頷く。
ついでに現状確認しとくか。
「教会は落ち着きましたか?」
ゼイフル司書に振ってみる。
「それが、ちと困ったことになりまして」
少し苦笑いの表情になったゼイフル司書の代わりにイブさんが答えた。
「司書様は神官長様から直々に、神官に復帰させるというお話を頂いたんですって!」
「ほお」
ゼイフルさんは王都の学校で教師をしていた元神官である。
貴族と教会の間の争いに巻き込まれて教師は失職。
神官としての地位は降格されたが、何故か教会からは追い出されず、司書となる。
その後、教え子だった辺境の町の今は亡き領主夫人に誘われて辺境地の教会に来た。
「司祭様にも、あれは間違いだったと言われてしまっては断れませんでした」
ゼイフルさんは神官に復帰することになったそうだ。
「それは良かったですね」
しかし、まだ苦い表情のまま。
「困ったことに、王都での復職を打診されましてな」
あー、それはそうなるか。
「勤務地については、春までに決めると返事をいたしましたので」
現在は保留中らしい。
「春かあ」
サンテがボソリと呟く。
「なんだ?。 サンテは長く妹と離れてて寂しいのか?」
少し茶化してみる。
「あ、いや、寂しいっていうより心配だから」
ハナは可愛いからな。
「それとニーロのこともあるし」
ニーロのほうが年上だけど、サンテにすれば後輩なので、まだまだ心配らしい。
どっちも同じってか。
「ニーロくんの件はもう少しお待ちください」
イブさんが両親との仲介に入っていて、後は向こうの家族の受け入れ準備が整うのを待っている状態だと。
ニーロは「ありがとうございます」と礼を取った。
「どうしても辺境地に帰りたくなったら、遠慮なくモリヒトに頼んでいいよ」
僕にじゃなく、直接モリヒトに言えば送ってくれる。
「うん、ありがとう」
サンテは頷く。
「他の方々も、もし帰りたい事情があるようでしたらモリヒトに相談してください」
「承知いたしました」
キランとバムくんは大丈夫だと頷く。
ティモシーさんに関しては、ヨシローのほうが待ち切れないかも知れないな。
「ヨシローさんは忙しいんですよね」
と訊ねると、ティモシーさんは頷く。
「ああ。 春には領地で式を挙げて、一度、王都に報告に来ることになるだろう」
ヨシローは、この国でただひとりの『異世界人』なので、王宮の貴族管理部に出頭の必要があるらしい。
普通の貴族なら代理でも良いが、ヨシローたちは夫婦揃って来るように言われている。
「おそらく、ケイトリン嬢の陞爵も関係もあるんじゃないかな」
ティモシーさんの話では『異世界人』の伴侶になるため、貴族の身分を与えようということになっている。
その公布をついでにやるのだろうという話だ。
「大国から、また何か言われないとも限らないのでね」
『異世界人』の優遇政策で有名な隣国は、ヨシローとの接触を求めて来ている。
今のところ接触は拒否しているが、この国でもヨシローを大切に扱っていることを示さなければならなくなった、と。
ヤレヤレである。




