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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百八十九話・噂の御遣いと信仰心


 翌日、教会からは無事に神の御遣いと眷属精霊が国に認められたことが発表された。


しかし、それ以上に噂が飛び交っている。


「本物の神の御遣い様が現れた」


たまたまその光景を見た見学者たちが、大騒ぎで広め、それを聞いた多くの信者たちが教会に押し寄せることになった。


「詳しいことは、後日、文書にて配布いたします」


神官長は、教会の正面出入り口に集まった人々に、そう約束する。


イブさんやグレイソン神官など、その場にいた神官たちが中心となり、急いで配布用の小冊子を作っているそうだ。


ゼイフル司書も同じく、お手伝いのために辺境伯邸には戻って来ていない。


皆、僕の怒りが収まるまでは帰れないとか言ってるらしいが、怒ってるつもりはないぞ。




 2日経ってもサンテとニーロの興奮は収まらなかった。


「すごかったよなー」「ウンウン」


白いエルフの美しさ、威厳のある虹色の精霊の姿に驚いた。


しかし、それ以上に王族や神官たち、エルフまでが、僕にひざまづいたことに衝撃を受けたのだ。


ビクビクしながら辺境伯邸に戻って来た子供たちに、僕はとりあえず、


「アハハ、あれは芝居だよ」


と、言いくるめる。


日頃から僕の行いは御遣いらしくないし、


「だよねー」


と、皆、納得してくれた。


それもまた少し複雑なんだけどな。




 ベラとエミリーは、あの日のうちに教会に戻した。


久しぶりに教会へ行ったが、仲間とすぐに打ち解け、誤解も解けたと言う。


本人たちも自分たちだけが特別扱いは気が引けるそうで、教会に帰れることを喜んでいた。


「ありがとうございました」


「お世話になりましたー」


と、すぐに館の使用人たちに挨拶して回る。


あの調子ならどこへ働きに行っても大丈夫だろう。


 ニーロだけは実家との交渉結果待ちである。


彼の場合は教会の施設にいた期間も短く、あまり仲の良い友人もいない。

 

行き先が決まるまで、僕が預かることになりそうだ。




 しかし、なんでこんなことになったのか。


僕は頭を抱え、あれから一歩も部屋から出ていない。


その場にいなかったティモシーさんだけが教会との間を往復をして、連絡係りになってくれている。


サンテとニーロにも施設の子供たちの話をしているらしい。


「今ねー。 施設の皆で御遣い様や巫女様、精霊様の絵を描いてるって聞いた」


「そんでね、それを教会の廊下に飾るんだってー」


余計なことを。


「煩い。 お前たちはサッサと続きをやれ」


「はあーい」


僕は、部屋でサンテとニーロの書道の指導だけをしている。




「ガビー、そっちの件はどうだ」


「はい。 王都のドワーフ街と工房街で材料が揃いそうです」


教会の子供たちも書道を始めることになり、固形墨と初心者用硯の注文が来たのである。


ガビーはあれから何度も工房街を往復し、ロタ氏と連絡を取り合っていた。


 そして、目処がたったようで。


「しばらく工房街の兄妹さんのとこにお世話になりますー」


ハリセンを作ってくれた職人兄妹の工房を借りて作業することになった。


「アタト様に会えないのは寂しいですけど、がんばります!」


「ああ。 あの兄妹にはよろしく伝えてくれ」


アタト商会として借り賃を持たせてやる。


そうして、ガビーは固形墨と硯の制作に入った。


これでしばらくは帰って来ないだろう。




 少し恥ずかしさも薄れ、気持ちが落ち着いてきた頃、僕はアダムを呼び戻す。


イブさんと教会に行ったっきり戻って来ないので、強制的に呼び付けた。


『何か御用ですか?』


シラッと現れる。


時間は真夜中。


僕の部屋は盗聴防止結界が作動中である。


「あの日、なんであんなことになったのか教えろ。 誰が言い出したの?」


神官長か、ヤマ神官か。


エルフのソフィさんに交渉するには相当の信頼か、地位も上でないと無理だろう。


それとも、かなり良い報酬でも用意したのか。


『あれ?』


アダムは意外そうに目をパチクリさせた。


『それを指示したのは』


その目はモリヒトに向けられている。


『コヤツだからな。 故に、我はアタトの案だと思って従ったのだ』


なんだと?。




 アダムはモリヒトから聞き、ソフィさんやイブさんに伝えた。


その話に神官長や皆が乗ったのだと言う。


「モリヒト、どういうこと?」


僕は胡乱な目を向ける。


珍しく、フンッと不遜な態度を取るモリヒト。


『アタト様は、この世界に神が存在することを承知しながら、それを利用するばかり』


「それがどうした」


僕は眉を寄せ、顔を歪める。


『アタト様には、神に対する尊敬や畏怖というものが足りません』


確かに、僕にはこの世界の神に対する信仰心はない。


そんなことは、僕を異世界から呼んだ精霊王だってご存知のはずだが。


「だから、僕が後悔するような罰を与えたのか?」


アダムが驚く。


『罰?。 眷属精霊があるじであるエルフにか?』


それは主従間の魔力の力関係では、無いことではないらしい。


だって、ソフィさんは、すっかり水の精霊の言いなりみたいだしな。




「アダム。 モリヒトはな、僕だけが主ではないのさ」


僕に2体の眷属精霊がいるように、モリヒトの主は他にもいる。


「そっちの主が優先なんだよ」


当然だ。


モリヒトのもうひとりの主は『精霊王』だからな。


「僕としては、この世界の神様を蔑ろにしているつもりはないよ」


特に教会で祈りを捧げたりはしないが、それは人族以外なら普通のこと。


種族ごとに祈りを捧げる相手が違うからだ。


「人族なら教会で神に祈るけど、僕たちエルフは森の神を祀るし、ドワーフたちは火や鍛治の神を鍛治工房に祀るだろ?」


『アタト様は森の神も祀られていません』


うん。 だって、祀り方を知らないからさ。


「それで、僕を嵌めたのは、神に祈らせるためなんだね」


モリヒトは頷いた。


『祀り方をお教えしたら、祈りを捧げてくださいますか?』


「森の神でなくても良いならね」


僕は森のエルフに捨てられた。


そんな奴らの神には祈りたくはない。


『分かりました。 アタト様専用の祭壇をご用意いたします』


だから、神に対する祈りを欠かさないようにしてほしいと頼まれた。




……翌日、僕の部屋に神棚があった。



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― 新着の感想 ―
日本人に神に祈れとか言われても・・・・ よほど敬虔でもないと祭などの行事に組み込まれて無いと そう言う事って早々やらんし・・・(腹痛の時にトイレで祈るのは除くものとする
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