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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百八十六話・魔道具の昔話と御遣い様

 

 ご隠居は、慌てて孫娘の手から取り上げ、ヤマ神官に渡した。


「もう無害ですよ」


僕はご隠居に報告する。


ヤマ神官は確認した後、半泣きの王女にそれを箱に入れて渡した。


「魔力を抜いたか。 また悪用する者が出ないように壊すのかと思ったが」


いやいや、王家所有の物を簡単に壊せませんよ。


しかし、ある意味、もう壊れている。


「申し訳ありません。 実は魔力を抜く際に魔石を傷付けたので外してしまいまして、魔力を込めることはもう出来ません」


魔石ごとウゴウゴにやってしまったので、ただの装飾品になった。


「ワーハッハッハッ、そりゃあいい」


ご隠居は厳重に管理する手間が省けたと笑った。




 一旦、落ち着こうとなり、皆で座る。


椅子がない者は地面に敷物を敷いて座った。


従者や見習い神官たちが急いでお茶やお菓子の準備をする。


僕はご隠居や神官長たちとテーブルを囲み、女性たちはソフィを中心に敷物に腰を下ろす。


冬の晴れ間の陽光が降り注ぐ、美しく整えられた庭。


池には虹蛇もいるが王女に怖がる様子はない。


「まるでピクニックのようだわ!」


一番年下で、ある意味一番高位である王女殿下がご機嫌なので皆、微笑ましく見守っている。


ああ、そういえば、ここは丸見えだったな。


廊下の窓から鈴なりの見学者の顔が見えた。




 お茶が行き渡るとご隠居がボソリと語り始める。


「かなり昔の話じゃ」


この国を侵略しようとした国があった。


その国から来た親善大使が魔道具を使って王族に近付き、王宮を混乱に陥れたのだ。


「ああ。 あの、多大な被害を出した……」


グレイソン神官は遠い目をする。


王宮の中での出来事のため、一部の者しか知らない話らしい。


「王宮内で操られた者同士の諍いが続き、死人まで出たのじゃよ」


当時の神官長が見抜き、魔道具を封印して解決したと記録されていた。


「今では精神干渉系の魔道具は製造が禁じられ、所持しているだけでも重罪となります」


と、グレイソン神官は続けた。


それを知っていての愚行だとしたら、余計に王太子はたちが悪い。




 僕は聖域を眺め、楽しそうなソフィさんを見て、ホッと息を吐く。


とにかく、皆、無事で良かった。


「本日の行事は終わりということで、よろしいでしょうか」


僕はヤマ神官に訊ねる。


「そうだな。 御神託により聖域に降りられた神の御遣い様を国が正式に認めたことになる」


実際には神の御遣いの巫女、となるが、そこはご隠居と王女が本人から聞いた話として国王に報告するそうだ。


王太子の立場は微妙になるだろうが、自業自得。


本人はそんなことは認めないだろうが、悪評が立てば教会にも近寄らなくなるさ。




「それでは僕たちはこの辺りで。 王女殿下、ご隠居様。 エンディ様とはお久しぶりでしょう。 ごゆっくりお過ごしください」


なんなら、そのまま王宮に連れて行ってくれ。


そう思い、僕たちだけで帰るつもりで立ち上がった。


「ああー、待ってください、アタト様!」


イブさんが駆け寄って来る。


「すみません、今日は子供たちに書道の指導をお願いしたくてー」


大人たちは王族の行事のために忙しく働いているが、施設にいる子供たちは外にも出られず、暇なのだ。


「はあ、分かりました」


ため息を吐き、仕方なく了承する。


「ありがとうございます!」


イブさんに連れられ、僕とモリヒトはその場を離れた。



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



「さて。 イブリィー神官がアタトくんを連れ出してくれた、今のうちに詰めてしまいましょう」


「なんだか悪巧みをしている気分ですよ、ヤマ神官の悪い顔を見てると」


「これは失礼しました、グレイソン神官。 しかし、神の御遣い様の件は、まだご本人には聞かせられませんしね」


「絶対に嫌がりますもんね」


「ふむ。 やはり、あれは神の御遣いなのだな」


「はい、前王様。 我々、教会本部はアタト様を特別なお方と確信しております」


「神官長までそう言うならば間違いあるまい。 しかし、王宮にはどのように報告するか、それが問題だ」




「前王様。 いっそ、アタトくんの言う通り、神の御遣いは姿を見せなかったということにしましょう」


「えっ、そんな!。 ヤマ神官、無茶ですよ。 司祭様と神官長様の連名で御神託として公表したんですから」


「ふむ。 ヤマ神官、どうやって皆を納得させるのかな?」


「それですが。 教会内部でアタトくんが神の御遣い様であることを知っているのは、まだごく一部のみ。 ですが、神の御遣いが降臨されたことは国中が知っています」


「うむ、それで?」


「先ほどアタトくんが使った手ですよ、ご隠居様」


「先ほど使った手とは?」


「神の御遣いは姿を見せない。 だが」


「代わりはいるということですね!」


「その通りだよ、グレイソン神官」


「ほお。 アタトも神の御遣いの代理だということにする気かね」




「少し違います」


「どういうことかね、ヤマ神官。 焦らさずにサッサと話しなさい」


「神官長、慌てないでください。 つまりですね、私は、アタトくんは神から遣わされた使者だということは間違いないと思っております」


「ウンウン」


「だからね、グレイソン神官。 御神託通り、神の御遣いは降臨されている。 ただ」


「ただ?」


「まだ人族を信頼されていないため、その本当の姿を見せてはくれていない」


「ほお」


「それでも、我々は薄々気付いている。 御遣い様は、普段はエルフの少年の姿で我々を導いてくださっているということを」




「あー」


「しかしながら、一番大切なことは。 我々が『それに気付いていない』ことにしなければならない、ということなのですよ。 フフフ」


「ヤマ神官、やっぱり顔が怖いです」


「グレイソン神官は煩いよ」


「じゃあ、どうするのかね」


「ヤマ神官。 公表は間違いではないから良い。 王宮には、御遣い様は存在しているが、誰もその実体を知らない。 だが、部下の巫女を教会に常駐させてくださることになった、と伝えるのか」


「はい。 そういう認識でどうでしょうか、神官長様」


「そうだ、我々は知っている。 フフッ」



 ◇ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◇



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そして王女が色々ばらしてご破算・大混乱っと(明後日の方を見ながら
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