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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百七十三話・大国の噂の中身


「農作物を作る指導者がいなくなったらしくて」


「いなくなった?」


「はい。 うちの仕入れ担当から聞いた話では、数年前に『異世界』関係の農作物を指導していた男性が突然、違う人に替わったそうです」


そこから段々と契約も雑になり、今年は古米と一緒に大量に買い付けられたのでこちらとしては助かったという。


つまり、農作物の管理生産や出荷調整が出来なくなったということか。


「普通、自国から売ったものを買い戻そうなんてしませんでしょ」


大国でも主食ほどではないが、ライスはよく食べられている。


いくら高く売れるからといっても自国の分は残しておくものだ。


その計算が出来ない指導者になったということか。




 いなくなった……。


それが気になる。


「その前任者は引退したのか、辞めさせられたのか、まさか死んだのか?」


僕は腕を組んで考え込む。


「結構、若い貴族様だったらしいですよ。 『異世界』関係を扱うのは、だいたいが王族の信用が厚い貴族家らしいですが」


貴族だって?。


ゴクリと息を呑む。


若い、数年前、突然の交替。


眩暈めまいがした。




『戻りました。 何かありましたか?』


モリヒトが戻って来て、血の気の引いた顔のぼくに気付く。


「すまん、体調が急に」


『すぐに戻りましょう。 失礼します』


モリヒトに抱えられた。


「大丈夫ですか?。 お気を付けて」


店員に見送られて馬車まで戻り、すぐに辺境伯邸に帰った。


館に着いて、すぐに部屋に放り込まれる。


『バムさん。 アタト様は何の話をしていましたか?』


モリヒトは僕の着替えを手伝いながら、バムくんを問い詰める。


「えっと、確か、大国の農作物の話を」


「モリヒト」


僕はモリヒトを止め、バムくんには口止めをして解放する。




『アタト様、顔色が悪いです。 寝てください』


詳しい話は明日にして、今日は休むことにした。


「ああ、僕も考えを整理したい」


魔力を消費したわけでもないのに体がだるい気がする。


『後で簡単な食事を運んで来ます。 それまでは休んでいてください』


僕は頷き、ベッドに転がる。


モリヒトはキランたちに僕の体調不良を伝えに行った。


 寝転がったまま、ぼんやりと窓に迫る夕闇を見る。


その夜、僕は久しぶりに熱を出した。




 冬という季節柄、急に寒くなったのが原因で風邪を引いたようだ。


翌朝、神官であるイブさんが僕の容態を見に来た。


「大丈夫ですか?」


「ええ。 いつもやらないことをしたので疲れたのでしょう。 お気になさらず、子供たちの手伝いをしてあげてください」


これくらいなら、栄養を摂って寝ていれば治る。


神官に頼らなくても、僕には眷属精霊がいるからな。


「分かりました、お大事になさってください」


「はい。 ありがとうございます」


ガビーやサンテも見舞いに来ようとするので止めさせる。


「すぐに治るってば。 病が移ったら困るだろ」


部屋に入ることを阻止する。


「はーい」


と、扉の向こうで不服そうな声がした。




 モリヒトが僕の部屋に盗聴避けの結界を張る。


『それで。 アタト様は、市場の店で何を聞いたのですか?』


朝食後にリンゴのような果物をもらい、シャリシャリと食べる。


「うん」


果物を飲み込んでから、話し出す。


「食料品店の仕入れ担当者からの話だと」


数年前に、大国の『異世界』農作物関連の担当だった貴族の若者が、突然、担当を交替した。


「しかも後任の担当者は無能らしい」


交替してから、商人たちが「いい加減だ」と眉を顰めているそうだ。


前任者が使えなくて交替したなら分かる。


後任の者が使えないのなら、何故、交替したのかという話になる。




 不測の事態があり、急にいなくなった前任者。


『双子の、父親、ですか』


「分からない」


そして、大使が何故、今頃になって双子を探しているのかも。


この国に居て分かるとすれば、大国の大使関係者しかいない。


「いずれ、訊ねる機会が来る」


たぶん。


『そうですね』


この話はここまで、と言うように、モリヒトが結界を解除した。




 庭から子供たちの声がする。


サンテと預かっている3人の子供たちが、領兵の指導で体力作りをしているようだ。


ワーワーと明るい賑やかな声。


あまり彼らの過去を探るのは良くないかも知れない。


ましてや、本人たちには何の関係もないのに。


「せめて成人するまでは」


静かに暮らしていけるといいな。




 1日ゆっくりさせてもらい、夕食にイブさんとゼイフル司書に同席してもらった。


「ニーロ少年たちの様子は如何ですか?」


食事をしながら訊ねる。


「はい。 特に反抗することもなくやっております。 特にニーロくんは結果を出して、早く家に帰りたいという思いが強いようです」


誰よりも熱心に取り組んでいるらしい。


「サンテくんという先輩もいますしね」


わりと順調だという。


12歳のニーロが反発するかと思っていたが、案外、8歳のサンテの注意にも従っているそうだ。


「女の子たちは元々そんなに魔力は高くありませんので、毎朝、魔力を放出してやれば1日くらいは漏れる心配もありません」


なるほど。


それなら魔力放出の御守りでも持たせておけばいいな。




「ゼイフル様、教会にいる子供たちの様子は如何でしたか?」


「あの子たちは相変わらずですよ」


怒られれば凹み、寝れば忘れ、勉強は嫌いだが、運動は好き。


「ニーロくんのことは、元から接点のあった子供のほうが少なくて」


喧嘩腰だった少年は、どうやらベラとエミリーの知り合いで、ニーロ少年から引き離そうとしていたようだ。


「その少年と話し合ったよ。 ニーロくんは普通の家庭の出身で、いずれ家に帰る子供だと」


教会にいる子供は2種類。


光魔法の才能ありとして、神職になるため教会が預かっている子供。


もう一つは、孤児または保護者が放棄した子供だ。


彼らは教会で学びながら、養子もしくは住み込みで働ける家に引き取られるのを待っている。


「今、教会の施設にいるのは、全て後者でね」


ニーロ少年だけが特別だった。


「ニーロくんの才能は?」


ヤマ神官によると、特に才能は無かったそうだ。


魔力の多さは見逃されてしまったという。



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