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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百七十二話・市場の噂を聞く


『アタト様の声ならば、案外届くかも知れませんね』


意味深な笑顔のモリヒト。


やめて、神様なんかに関わりたくない。


嫌な予感がする。


「さて、戻るか」


『はい』


半分ほど午後の指導時間は過ぎている。


僕は部屋に戻り、生徒一人一人に個人的に指導をした後、これからの予定を告げた。


「明日からは自主練習になります」


各自で時間を作って好きな時にやってくれ。


「えっ、もうご指導頂けないのですか?」


女性の神官見習いが不安そうな顔をする。


「7日に一度、部屋をお借りして集まって頂く予定です」


そこで自主練の成果を見せてもらい、修正したり、新たな目標を与えたりするつもりだ。


「僕が王都にいる冬の間だけですがね」


後は教会が判定する。


光魔法が発動、または強化が認められれば、神官に昇格が可能になるはずだ。


「僕に何か用事がある時は、ヤマ神官に伝えてください」


「分かりました」


皆、納得してくれたようだ。


終了の挨拶をして、3日間の集中講座を終えた。




 神官長の部屋にひと言挨拶をして、本日は帰宅となる。


ゼイフル司書がヤマ神官に呼ばれたまま戻って来ないので、ティモシーさんに預けることにした。


「分かりました。 用事が終わり次第、2人で帰ります」


慌てず、ゆっくり帰って来てくれればいいよ。


「まだ早いし、僕たちは市場に寄ろうか」


『良い御判断です』


嬉しそうなモリヒトは、酒を仕入れたいだけだと思う。


 迎えの馬車のバムくんに、商店が集まる商人街にある常設の市場に向かってもらう。


「着きました!」


バムくんがやけに気合いが入っているのは、前回来た時にサンテを拐われた覚えがあるからか。


もう失敗しないと張り切っていた。




 馬車を溜まり場に預け、後は徒歩で移動する。


市場は相変わらず賑わっていた。


「こんにちは」


ティモシーさんの実家である食料品店へ。


「アタト様、いらっしゃい。 今日は何にしますか?」


王都市場用の出店であるが、本店にも負けない珍しいものが並んでいる。


「少し見せてもらっても?」


「勿論、ご自由に見てください」


この店は国の内外から『異世界人』好みの食品を集め、販売している。


さて、新しいものはあるかな?。




 僕がしばらく動きそうにないと判断したモリヒトは、


『仕入れに行って来てよろしいでしょうか?』


と、許可を求める。


ハイハイ、酒でしょ、行ってらっしゃい。


僕は「いいよ」と頷く。


『バムさん、私はあちらの酒店に行きますので、アタト様の護衛をお任せしますね』


「はい!。 了解っす」


モリヒトは、僕に店から出ないように言って、酒店に向かった。




 僕はバムくんにピッタリと張り付かれる。


顔が近い、近いよ。


いや、あのな。 そんなに引っ付かなくても、僕はどこも行かないし。


「これ、ライスっすね。 あ、干したキノコ。 食堂の販売所で見たヤツだ」


一緒に棚を眺めていると、バムくんは見覚えのある食品を指差す。


「うん。 辺境の町の食堂にある販売所は、ここの系列店だよ」


アリーヤさんの街にある本店に依頼して、辺境地にも出店してもらった。


食堂で実際に食べてもらい、気に入ったら使っている食材や作り方を見てもらい、家庭でも作れるようにしたかったのだ。


そしたら、僕が日常的に食べてても目立たない。


「そうだったんすか。 王都の人たちも食べるんですね」


「いいえ。 王都ではあまり売れませんよ」


店員がバムくんに話す。




 これらは『異世界人』が好む食材として並んでいるが、物好きな金持ちがたまに買うくらいでほとんど売れない。


それで在庫もあまり置いていないと聞いていた。


本店のように食堂を併設すれば、少しは味が認知されて売れるのだが、市場内でこれ以上は店を広げられない。


「ところが、今は違うんです」


店員の話では最近、この食材が売れているという。


「アタト食堂で食べた味が忘れられないってお客様がいらして、調理方法を書いた紙まで買っていかれますよ」


おや、いつの間にそんなことに。


「本当にアタト様には感謝しております」


店員はさすがにお世辞が上手いな。




「それに、他にも上客が出来たようでして」


「うん?」


店員は、あまり他の客の話はしたくないが、と小声で前置きした。


「最近、どこかの国のお偉い方が大量に買って行かれますんで」


僕はギクリとする。


まさか、大国の大使か。


「しかし、おかしいんですよ。 だって、うちの店はその国から仕入れてるんだから」


そうだよな。


あの国は『異世界人や異世界の記憶を持つ者』を積極的に取り込んできた。


彼らの知識から作られた食料品や道具類が多くあり、他国に対して販売もしている。


「噂ですがね」


店員はますます小声になり、アタトの耳元で囁いた。


「どうやら、その国で『異世界人』関係の事業が失敗続きらしいんです」


どういうこと?。




 僕は店員を引っ張り、奥にある商談の部屋に入る。


「詳しい話を聞かせてくれ」


バムくんが慌てて追って来る。


「分かりました。 じゃ、お茶を淹れますんでお待ちください」


その店員は他の店員を呼び、誰も来ないように言いつけて戻ると、お茶の用意を始めた。


「結界を張らせてもらうよ」


僕は室内に盗聴避けを張る。


「え、モリヒトさんがまだ来てないっすが」


バムくんが心配そうに言う。


「モリヒトなら大丈夫だよ」


あれは人間ではないので、結界はすり抜けて来るから。




 僕は応接用のソファに座り、後ろにバムくんが立つ。


お茶を配り終えると、店員は向かい側に座った。


「大国ズラシアスのことで間違いないか?」


「はい、さようです」


マジか。


先日、王女が来たばかりなのに。


「大使が交代したのも、そのせいかな」


「その辺りはうちの店では分かりませんが」


ライスの注文が大量に入ったのは確かだ。


「秋の収穫が思ったより少なかったのかも知れないですね」


本店ではアタト商会用に在庫を大量に確保してもらっている。


古米でも構わないと言ったら、大国も喜んで売り付けて来たというから、昨年までは不作ではなかったはずだ。


「ええ、そうなんですが」


店員はあくまでも予想だとして話す。



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