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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百七十一話・神の御遣いは嫌だ


 僕は「ありがとうございます」と、軽く礼を取る。


一応、褒められたからな。


「教会は慢性的な人手不足だが、民の寄付で運営されている」


足りないからと勝手に人を増やすことは出来ない。


誰だって生きるためには生活があり、それには費用が掛かるのだから。


寄付を得るためには、教会が神の教えに従い、民を守る存在だという信頼が必要だ。


「我々の生活は、長く先人から積み重ねてきた、その信頼の上に成り立っております」


その信頼を一度崩してしまったら取り返しがつかない。


「アレらは、子供たちも見習いたちも、守るべき民であり、信頼と尊敬を得る努力が必要だということを忘れてしまっていた」


神官長は顔を歪めたまま、重い声で話す。




「我々はアタト様に感謝申し上げる」


何故か、神官長、老騎士、ヤマ神官が揃って僕に頭を下げた。


は?、止めてください。


ここは廊下から丸見えなんですよ?。


「我々は皆、気付いていても誰かが何とかするだろうと放置していた。 アヤツらも仲間ではあるし、いつか分かってくれると信じて。 いや、信じたかっただけだな」


3人は顔を見合わせて、自嘲気味に笑う。


「人同士ではどうしても相手に期待し、遠慮し、口をつぐむ。 ハッキリと口にする者をうとましく思い、排除さえする」


「醜いものです」


「これでは精霊様に好かれるわけがない」


反省会が始まった。


神職のお偉いさんたちが集まって、こんなとこで愚痴を溢すなよ。


僕は苦笑混じりにため息を吐く。


「ハハッ、いやまあ、それが分かっただけでも十分ですよ」


と、慰めた。


これからは間違いなく慎重になるだろうからな。




 神官長が相好を崩した。


「やはり、アタト様は我々にとって神の御遣いであらせられる」


何を馬鹿なことを。


「違いますよー。 僕はただの生意気なガキです」


神様には会ったことも、声を聞いたこともない。


「ま、エルフに生まれて、眷属精霊のお蔭で生活が出来て。 そこは幸運でした」


魚を釣れて商売を始め、金があるから商会を立ち上げ、必要だから魔法と体を鍛えている。


辺境地に居たからこそ、変わった友人やちょっとばかし強力な後ろ盾が出来た。


それだけだ。


「僕にだって後ろ暗いことはあるし、生涯、忘れられない恨みはあります」


なんか恥ずかしくなって、カップのお茶を飲み干すようにして顔を隠す。


「フハハ。 どうもアタトくんと話をしていると、子供相手とは思えないのぉ」


ギクッ。


まあ中身は異世界から来た爺さんだからな。


たぶんこの中じゃ一番老騎士に年齢が近い。




 結局、僕の案を叩き台にして検討することになった。

 

「彼らは今、どうなっているのですか?」


教師役をしていた神官たち。


見習いや子供たちから離されているのかな。


「一応、それぞれ自室で謹慎させているぞ」


警備隊隊長が答える。


神官たちは一部を除き、教会の敷地内の寮に住んでいた。


今は警備隊の監視付きでの引きこもり中らしい。


「子供たちは?」


「あの子たちには昨日、たっぷりと説教した後、宿題に神の教えの本を渡している」


ヤマ神官が教えてくれた。


連帯責任というか、全員同じ扱いらしい。


それが妥当だろうな。


あんな危ない物を持っていることを知っていたり、日頃から小部屋の子供たちを揶揄っていることを分かっていたのに止めたりしないのも罪に当たる。


ここは清い心を育てる教会なのだから。




「では、子供たちの教育は、これからどうされるつもりでしょうか」


「それなんだが」


神官長は、代わりの人がいなくて困っていると話す。


教会にいる神官は皆、忙しいのだ。


「簡単じゃないですか」


「は?」


神官長たちは僕の言葉に首を傾げた。


「いや、だって、今現在も子供たちの世話をしている人たちがいますよね?」


「神官見習いたちかね?」


僕は頷く。


「読み書き計算なら誰でも教えられるでしょう。 体力作りに警備隊の訓練を挟んだり、厨房で調理を教えたりすれば、子供たちも新しい仕事を見つけ易くなると思いますが」


「なるほど!」


ヤマ神官の目が輝く。


「しかし、彼らに教師役が務まるかどうか」


神官長は不安そうに呟く。


「じゃあ、ゼイフル司書さんに見習いたちを指導してもらうといいですよ」


「おお、確かに。 あの方は王都の学校で長く教師をしておられた!」


ヤマ神官はさっそく「交渉してくる」と出て行った。




「それで、今まで教師役をしていた者たちは本来の神官の仕事に戻れるわけだな」


「そうじゃな」


神官長と老騎士も立ち上がる。


サッと見習いの青年がやって来て、テーブルの上を片付け始めた。


「私は神官たちの選択の内容を詰めます。 隊長、もう少し付き合って頂けますか?」


「わしで役立つのであれば、お手伝いしよう」


そう言って、2人は軽い挨拶を残して去って行った。


神官長付きの青年も、片付け終わると礼を取り、後を追って行く。




 僕は、しばらく立ち上がれずに椅子に寄りかかったまま、ため息を吐く。


「いいのか、こんなんで」


あまりにも僕の考えを鵜呑みにし過ぎだよ。


なんでも僕から聞いたとか、僕のせいにされちゃ堪らない。


『責任重大ということですね』


「なんでも思い付きで言っちゃダメってことだよなー」


かといって、何も言わなかったら、将来、あの魔力漏れの子供たちはどうなるのか。


見習いを神官にするための教育をしながら、自分の魔力の弱さを呪い続ける教師役たちに救いはない。


「結局さー。 教会の修行ってなんだったの?」


『確か、光魔法の強化、祈り続ける信仰心、民に対する奉仕の心を学ぶのではなかったでしょうか』


「そのためにあの教師たちは何をしたのかってことだよ」


つい声を荒げてしまった。




『アタト様』


なんか知らんが、モリヒトが珍しく、まるで子供をあやす様な声を出す。


『それはアタト様が考えるべきことではございません』


「ああ、うん」


分かってる。 分かってるが。


『何もかもを救うことなど、神様でも出来ませんよ』


僕は胸のモヤモヤを抱え、ブスッとした顔になる。


「なんとかしろって神様に祈ればいいのか?」


モリヒトがククッと笑った。



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