表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/667

第四十七話・通常の行動をとる


 翌朝、干し魚の取り込み、燻製の回収にトスを付き合わせる。


漁師の子供らしく、早起きは得意そうだ。


それからガビーとモリヒトを交えて朝食を取り、天気を確認する。


『今日は晴れそうです。 森で魔獣狩りと海岸で魔魚釣り、どちらにしますか?』


雨の予定ならエルフの森で薬草の採取になるが、今日は一日中晴れらしい。


「魚釣りで」


『承知いたしました。 準備いたします』


モリヒトがトスの分の釣り竿と水筒を用意してくれた。




 海岸沿いを歩いて釣り場に向かう。


ガビーは鍛治仕事があるので大抵は留守番だ。


モリヒトは僕の護衛兼師匠なので、どこへ行くにもほぼ一緒である。


僕のいつも通りの行動にトスがついて来る形だ。


 釣り場にしている崩れた崖に着くと、僕はタヌ子に、


「トスを乗せてやってくれ」


と言って、先に崖をヒョイッと飛び降りる。


ニャアン


『どうぞ、乗って下さい。 落ちないよう、しっかり掴まって』


「はい?」


モリヒトに促され、戸惑うトスの声が聞こえる。


エルフの耳は優秀だからな。


「はあ、はい、ぎゃあああ」


下で待っていると、しばらくしてトスにしがみ付かれたタヌ子がフワリと着地する。


「ありがとな、タヌ子」


僕がタヌ子を撫でていると、腰を抜かしていたトスもようやく立ち上がってタヌ子を撫でる。


「アタトの家来はいいヤツばっかりだな」


釣り竿の用意をしながら僕は首を傾げる。


「家来はモリヒトだけだ。 あとは、そうだな、仲間かな」


トスは首を傾げる。


「モリヒトさんは仲間じゃないんだ」


「まあな」


あれは仲間というより僕に付けられた監視役だ。




 久々に思い出したら腹が立ってきた。


精霊王とか、なんとかいうヤツ。


僕が木から落ちて記憶が一部戻ったのは偶然だったのかも知れない。


七歳の眷属精霊の儀式辺りで思い出す予定だったんじゃないかと思う。


 そういえば、人間も七歳で魔力開放とかいう儀式があったな。


「トス、儀式はどうだった?」


僕は釣り竿の針に餌用の魔力を纏わせ、波の向こうに投げる。


「ん-、分かんね」


トスはモリヒトの指導で魔力を体外に出す訓練を始めたところだ。


「おっさんと爺ちゃんに教会に連れてかれて、神官さんに頭、触られた」


僕の隣に座り込んで魔力を出そうと唸っている。


「そしたら、体からなんかパーッと光が出たんや」


おおう、思ったより大事じゃねーか。


「すぐティモシーさんが来て、他の部屋に連れてかれた」


そこで本部から来たお偉い神職の人に鑑定された結果、トスは僕のところに送ることになったと。


……そこまで聞く気はなかったんだけど、まあ、聞いてしまったから。


「おっさんや爺ちゃんは何て?」


「エルフの坊ちゃんのとこなら安心だって」


何やら謎の信頼度。




 モリヒトに訊けば、たぶんトスの才能は分かる。


だけど、それを知ったからって僕に出来ることなんて、こうして匿うくらいだろう。


「そうか。 早く町に帰れたらいいな」


「うん」


モタモタしながらトスが釣り竿に魔力を纏わせようとしている。


ん?、もう魔力が身体から出たのか。


ちゃんと操れてないから駄々洩れだけど。


「モリヒト、これ拙いんじゃない?」


『そうですね。 どうしますか?』


僕に訊くなよ。


あ、波がヤバい。


「敵襲!、備えろ」


グルグルッ


タヌ子の毛が逆立つ。


僕は釣り竿を横に置き、目を閉じて集中。


「トスは僕が守る。 モリヒトは全体を攻撃。 タヌ子は好きにしていいぞ」


ニャニャニャアアン


嬉しそうなタヌ子の声って、なんで猫に似てるのかねえ。


『来ます』


「防御結界!。 トス、動くなよ」


「う、うん」


波の間から鉄砲の弾のような水滴が飛んで来る。




 ふう、突っ込んで来たヤツを何とか仕留めた。


周りの小魚はモリヒトが生簀に叩き込んでくれる。


「すげぇ」


トスは怖がる様子もなく、顔を赤くして興奮していた。


無事で何より。


僕の防御結界もかなり強度が上がってるな。


両手の短剣を降ろし、魔魚の血を振り払う。


「タヌ子、まだ食うな。 毒があるかも知れないだろ」


打ち揚げられた巨大な魚にかぶり付こうと大きな口を開けていたタヌ子を止める。


『もう大丈夫ですよ』


魔魚から魔石を取り出したモリヒトが頷き、タヌ子が取り除いた内蔵をむさぼり始めた。


「少し解体しようか?」


大きくても魚は魚だから、僕でも捌ける。


『では切り身にしましょう。 燻製用にしてください』


「了解」


僕はまず剣を長い包丁に持ち替え、三枚に下ろす。


ガビーの包丁は本当に切れ味抜群だ。


手ごろな大きさの切り身にしてモリヒトに渡し、すぐに塩漬け。


でも燻製までには色々下準備が要る。


燻製は村で作ってるのを見てたら勝手に覚えた。


たぶん、前の記憶にもあったんだと思う。


薬草茶より簡単だったのは香辛料が町で手に入ったからだ。



 

 腹が減ったら塔に戻り、外に置いてある竈で一部の魚を焼きながらガビーにパンをもらう。


トスも美味しいと言ってくれた。


魚に慣れている漁師の子供が喜んでくれるのは嬉しい。


 昼食後は魚を干して、燻製器に火を入れる。


燻製用香辛料に漬け込んである肉や切り身を準備。


『火が安定するように点火してくださいね』


強すぎても弱すぎても材料に無駄が出るからな。


燻製用の木は森を歩き回っていた時に偶然見つけた。


モリヒトに訊いたら、エルフでも好きな匂いらしい。


良かった。


 僕は点火しかしない。


煙を絶やさないように燃やし続けるには燻製器にも魔石が必要だ。


『魔力で魔法の火を維持することも可能ですよ』


ほー、そうなんだー。


「それって継続させるための魔石を節約出来るってこと?」


生け簀のように、魔石で魔法を継続している設備は結構ある。


『そうですね。 ずっと魔力を吸われ続けたいなら止めませんが』


いえ、結構です。




「アタトってさー」


トスが干し肉の試食品を齧りながら訊いてくる。


「モリヒトさんのこと家来だって言ってるくせに頭が上がらないんやな」


うん、正解。


モリヒトは精霊王が抑えているが、精霊自体は自然の魔力から生まれるらしく割と自由で喜怒哀楽が激しい。


「トス、お前も気を付けろよ」


頼むから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ