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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百六十六話・ドワーフの工芸品の硯


 結局、その日は神官長には会えなかった。


というか、ヤマ神官も姿が見えなかったのはなんでかな。


教会内部のことなんぞ、僕に分かるわけないが。


 バムくんの迎えの馬車に乗り、館に戻る。


別棟に入ると庭から声が聞こえてきた。


「あ、お帰りなさいませ」


キランが慌てて服装を直しながらやって来た。


そこまで慌てなくていいよ。


「今、戻りました。 体術の練習ですか?」


庭を良く見ると子供たち3人と、ガビーやイブさんと共に領兵さんたちもいる。


「練習というほどではないです。 軽く護身術を手解きしてました」


ほお。


キランに投げ飛ばされていたのはサンテだったらしい。


辺境地の訓練で慣れてるから大丈夫だろ。


ゲラゲラ笑ってるし。




 この世界の体術は空手に近い。


やはり『異世界人』が広めたと思われる。


武器がない、手放した時に使うものとして、特に日頃から武器を持たない使用人が主人を守る術として普及していた。


僕もモリヒトに散々鍛えられたが、基本動作は避ける、体当たりする、蹴る、といった感じだ。


投げる、になると訓練が必要だが、子供の体格では無理だろうな。


「やりますか?」とキランに挑発されたが、やらんよ。


「ちょっと出かけたいので、ガビーを呼んで来てくれ」


「はい」


キランが、また庭へ降りて行った。




 僕は教会用からお出掛け用の服に着替える。


夕食までにはだいぶ時間があるので、ブラブラと歩いて行こうかな。


窓を開けて、冬の冷たい風を吸い込む。


陽が落ちるのが早くなってるから外套は必要だろう。


モリヒトが仕立師の爺さん特製魔獣革のコートを用意する。


 ガビーが息を切らせてやって来た。


「すみません、着替えてて遅くなりました」


「構わないよ」


慌てさせてすまん。




「墨と硯だけど、在庫はどれくらいある?」


「えっと、持って来ます!」


ガビーはドワーフ専用の素材回収用の荷物袋を持っている。


鉱石や魔獣素材など嵩張る荷物を手早く集めて運ぶためだ。


同時に、大量に作った自作品を納品する時も便利。


容量は袋の作成時に決まり、当然だが、容量が多いほど高価である。


ガビーの袋は、ドワーフ街でも有名な工房長である父親が与えたもので、かなりデカい要領と、見た目も渋い革袋になっている。


あの親方は娘にはかなり甘いからな。




「えーっと」


ガビーは、その袋を持って来て、出して見せた。


「こっちに来る前にトスと作った固形墨が」


トスは人族の少年だが、光属性の魔力が駄々漏れだった時、しばらく僕が預かっていたことがある。


その間にガビーと仲良くなった。


今では弟子だと言って、鍛治仕事を手伝っている。


「あった!。 固形墨は50個入りが2箱です」


キッチリと箱に収まり、あとは納品するだけになっている。


こういうところは職人気質のガビーだなと思う。


「硯の方はあんまりないんで」


それでも、入門用よりは大きめの、イブさんが使っている型の硯が10個出て来た。


大地の精霊であるモリヒトが厳選した素材で作られている。


「これ、材料が特殊で、モリヒトさんからしか手に入らないんで」


モリヒトが素材から単純な成形をし、ガビーがきちんとした仕上げをする硯は、アタト商会でしか扱っていない。


教会の入門用は、強度が劣る類似品なのである。


「ん、十分だ。 入門用の硯の材料はあるの?」


「たぶん、大丈夫です。 足りなければ、王都のドワーフ街でも入手出来るはずなんで」


ガビーは僕が所有するドワーフ工房の責任者だ。


扱っている品物については、受け答えはしっかりしている。




「ちょっと魔道具店に付き合ってくれ」


「はい!」


ガビーは嬉しそうに返事をする。


『護衛はいかがいたしますか?』


連れて行かないと拙いかな。


「バムくんに頼んで」


『はい』


ティモシーさんは教会所属の警備隊の騎士で、今回は辺境地の教会からの出向という形である。


なので、基本的には教会に行く時か、イブさんや司書さんなど教会関係者との外出時に護衛してもらうようにしている。


バムくんは僕個人が雇っているからな。




 玄関口で待ち合わせる。


軽装備の上に、小綺麗なコートを羽織ったバムくんがやって来た。


「アタトくん、馬車はどうすっかね?」


「天気もいいし、少し歩こうかなって」


ちゃんと人間に擬態したし、モリヒトも気配を薄くする黒メガネで行く。


「うん、そだね」


ガビーは男性用のコートを着て、相変わらず一見、女性には見えない装いだ。


本人が良いなら別に構わんが、勿体無い気もする。


ガビーはドワーフの女性としては大柄で、鍛治をするために短髪で腕が太い。


でも、顔つきは優しいし、女性だといえば納得出来るんだがな。




「おや、坊ちゃん、いらっしゃい」


「こんにちは」


入り口の警備のおじさんに挨拶して、中へ入る。


店主が飛んで来た。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなものがご入り用でしょうか」


「少し商売の話をしたいと思いまして」


「ではこちらに」


奥の商談用の部屋に案内される。


今回は全員で部屋に入った。


椅子には僕とガビーが座り、モリヒトは椅子の後ろに立つ。


バムくんは部屋の入り口の扉の傍に控えた。




 店員がお茶とお菓子を配り、下がる。


一口飲んでから話を切り出す。


「教会で本格的に墨と硯を使う修行が始まりました」


店主は頷く。


「うちの商会として納品出来るものをご用意したので見て頂こうと思いまして」


固形墨50個入りを1箱と、硯が5個である。


「固形墨は消耗品ですから在庫は必要だと思います。 硯のほうは、今、教会で使用している入門用よりも上の品物になります」


店主と、仕入れ担当らしい店員が穴が開くほど凝視している。


「手に持ってもよろしいでしょうか?」


「勿論、どうぞ」


ガビーは自分が作ったものを、王都の立派な店の店主が直接見ていることに緊張しているようだ。


「それと」


まだあるのかと、店主が僕を見る。


「生徒たちに筆を選ぶ課題を出しまして。 もしかしたら、この店にも来るかも知れません」


「うちをご紹介頂けたのですか?」


僕は笑って頷く。


「筆の傍に置いておくといいですよ」



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[一言] ズブズブゥ(目反らし
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