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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百六十五話・午後の部と宿題


 午後の部の出席者は、交代した見習いの男性3人とグレイソン神官。


それと、午前から引き続き女性見習いの5人である。


彼女に関しては女性エルフの世話係りとなるための修行が最優先され、他の仕事は免除となっているそうだ。


「では、挨拶から始めます。 よろしくお願いします」


僕と女性見習いがきちんと礼を取る。


それを見た他の生徒も慌てて礼を取った。


 男性4人には墨を磨ってもらうところから。


「上着は脱いでください」


午前と同じ指導をする。


グレイソン神官が上着を脱いでも、下に高そうな服を着ていた。


さすが高位貴族のおぼっちゃまである。

 

次回からは捨ててもいいような安いものを着て来るように頼んだ。


「は、はい、分かりました」


子供に言われたらショボンとするよな。


だけど、せめて黒い服にしてほしい。




「姿勢に注意です」


猫背や力が入り過ぎる者には個別に指導する。


年齢がバラバラなので、周りを気にする人もいるが、もっと集中してくれと思う。


そしたら年齢なんて気にならなくなるから。


 女性見習いには、午前中に磨った墨を使って、紙が真っ黒になるまで短い直線を引いてもらう。


「真っ黒……書いた線が見えなくなりますが」


女性見習いは困惑する。


「それでいいんです。 線は筆の動きで分かりますから。 紙に墨が染み込んで破れるまで書き続けてください」


「はい」


女性は気合いを入れ、準備をする。


手製の厚紙で作った下敷きも持参していた。


なかなかがんばってるな。




 女性が、午前中に僕が書いた紙を取り出して自分の紙の隣に置く。


それを手本として、見ながら「いち」を書いている。


それに気付いた、隣の席のグレイソン神官が立ち上がった。


「そ、それっ」


興奮して女性に詰め寄る。


「これ、どうしたんですか?!。 昨日は無かったですよね」


「あ、はい。 先ほど午前の部でアタト様が書いたものを頂きました」


女性は若干、引き気味に答える。




 グレイソン神官がこちらを向いた。


「ずるい!、私も欲しいです」


あのなー。 お前は子供か。


他の生徒たちの集中が切れ、ザワザワとし始める。


「グレイソン神官様。 お手本は文字を書けるようになりましたらお渡しします。 あなたはまず、墨を磨って集中することを覚えてください」


「ハッ、失礼しました」


グレイソン神官は女性見習いにも謝罪する。


そして、僕に「がんばります!」と笑顔を見せた。


本当に素直な人なんだよなー。


魔力も高いし、礼儀もしっかりしているので姿勢も美しい。


きっと早く習得するだろう。




 午後の2時間はあっという間に終わる。


グレイソン神官の墨はまあまあ合格かな。


「次回からは墨を磨る時間を半分、文字を書く時間を半分にします」


それまでに下敷きの作成を宿題とした。


それと、自分の手に馴染む筆を探すことを勧める。


「筆は高価なものや魔獣素材のものなど、色々ありますが。 自分の技量に合った物を選ぶのがコツです」


これは偏に、色々な筆を見てもらうことが目的だ。


画材店、雑貨屋、魔道具店。


様々な店を見て、身の程をわきまえ、高い物を選ばないこと。


高価な筆は使う人間を選ぶのだ。


それを勉強させるための宿題なので、失敗しても構わない。


「筆選びは永遠に続く課題です。 すぐに決めるのではなく、自分が納得出来る物にしてください」




「センセーの筆を見せて頂けませんか?」


僕から注意を受け、少しムッとしていた中年の神官見習いの男性である。


「おお、私も見たいです!」


グレイソン神官が乗ってくる。


女性見習いは、中年見習いの嫌味に気付いて顔を顰めた。


「いいですよ」


僕は自分用の小さな保管庫から筆巻きを取り出す。


見たことの無いものが出て来て、グレイソン神官は興奮気味だ。


ザラッと広げる。


大小様々な筆が10本、布で出来た筆用の仕切りに収まっていた。




「書く紙の大きさ、必要な文字の大きさで筆を替えます」


中年見習いが鼻で笑った。


「高価そうなものもありますけど?」


僕のような子供が持つには贅沢だと言いたげである。


「僕が住んでいる辺境地では、魔獣素材のものが安価で手に入りますよ」


子供にも手が届く値段だと話す。


「僕は王都に来ると自分へのお土産代わりに珍しい筆を見つけて購入したりします。 あくまでも使ってみないと分からないものとして、ですね」


値段は関係ない。


使ってみたいと思ったら買うということだ。


「実は僕、辺境地で魔獣素材やドワーフの工房の工芸品を扱う商会を経営しているんです」


暗に金はあるんだと教えてあげる。


「あー、聞いたことあります。 確か、魔獣の毛皮で作った国宝級の外套を王家に献上されたとか」


グレイソン神官が言う。


「えっ」「は?」


見習いたちはギョッとした顔になった。


高位貴族では有名な話でも、普通の庶民、まして教会に住み込んでいる見習いたちは知らない話である。


「そんなこともありましたね」と、僕は苦笑いで済ませた。


あの時は色々と苦労したんだよ。




「では、本日は終了です。 ご挨拶いたしましょう」


騒めきが治ったところで「お疲れ様でした」と礼を取る。


「すみません、グレイソン神官様」


部屋を出ていく見習いたちを見送るついでに、若い神官を捕まえる。


「はい。 なんでしょうか」


僕は先ほどの下敷きの作成と筆選びの宿題の件を、午後から不在だった見習いの方々に伝えてほしいとお願いする。


同僚の見習いからより、上司である神官からの話ならちゃんと聞いてくれるだろう。


「分かりました。 お任せください」


グレイソン神官はそう答え、ついでに、


「お師匠様は王都では、筆をどこの店で買われているんですか?」


と、訊ねてくる。


しっかりしてるな。


僕は辺境伯御用達の魔道具店だと教えた。


「ありがとうございます。 今度行ってみます」


おいおい、高位貴族なら自分の家の贔屓の店があるだろう。


まずはそこに訊くんじゃないの?。


「いえ。 私は実家に頼る気はありませんから」


ああ。


高位貴族家から出て教会にいる時点で、あまり実家と仲が良いとは思えなかったが。


彼もまた苦労してるんだろうなあ。



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