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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百六十二話・魔力漏れの仲間になる


 しばらくして、ヤマ神官とゼイフル司書もやって来た。


「何があった」


ヤマ神官に警備隊員が説明すると、一緒に隣の子供部屋へ入って行った。


さて、僕はどうしようかな。


 モリヒトに頼んでコーヒーを淹れてもらう。


苦いやつにした。


『皆さんもどうぞ』


モリヒトが勧め、薬草茶を淹れる。


サンテが僕の隣に座った。


「アタト、あの人、おれと同じなの?」


自分より歳上だが弱っちい少年を見ながら、サンテが訊いてくる。


んー。


そんな話をここでして良いのか、それが分からない。




「それより、お腹空いてないか?」


先日来た時に頂いた食事量では、育ち盛りのサンテには足りないだろう。


「うん。 でも、ここは皆、これくらいだって」


それってさ。


よく聞いてみると、この施設の子供全員ではなく、この小部屋の子供だけだったんだよな。


他の部屋は料理は同じでも容量も多く、お代わりも自由。


大人の神官たちの食堂などは料理は一般的な食堂と同じで、満足出来る味と量になっている。


「モリヒト、弁当余ってない?」


『ございますよ』


辺境の食堂の弁当である。


食が細めの僕に合わせた量になっているので、大人の男性では少し物足りない感じらしいがな。




「食堂のご夫婦からの差し入れだよ」


モリヒトがサンテに渡す。


「え、いいの?。 嬉しい!」


サンテは弁当箱を開けるとバクバク食べ始める。


『よろしければ、皆さんもどうぞ』


ついでに、ガビー、イブさんとティモシーさん、そして、この部屋の子供たちにも渡す。


「美味しいよ?。 おれたちが住んでる辺境の町の食堂の弁当なんだ」


サンテは他の子供たちに勧める。


美味しそうに食べるサンテに釣られ、少女たちが食べ始めた。


しかし、年長の少年は頑なに手をつけない。


「アンタもちゃんと食べなよ。 そんなガリガリだから喧嘩に負けるんだ」


サンテが皮肉っぽく言うと、よほど悔しかったらしく、少年も渋々食べ始める。


思ったより美味かったのだろう。


子供たちの食が進んだ。




 僕はゼイフル司書にこっそり話し掛ける。


「ちょっとヤマ神官のところに行って来ます」


「分かりました。気を付けて」


食事中の部屋を出て、僕は隣に向かう。


軽く扉を叩いて許可を得て、中に入った。


「あちらは落ち着きましたよ」


「ありがとうございます、アタト様」


しかし、コレはどうしたもんかな。


 警備隊の魔道具を持っていた子供は、入手方法をかなりキツく問いただされている。


「もらったと言うんですが、誰からとは言わないので」


若い警備隊員が困っている。


他の子供たちも予想外の出来事に呆然としていたり、一部はまだ泣きじゃくっていた。




 そこへ要らない者が入って来る。


「なんの騒ぎですか」


朝から色々あった教師役たちだ。


高齢の神官と同僚がひとり。


ここは教務堂、彼らが責任者になる。


「子供部屋は警備隊は許可なく入れないはずですが」


ピリピリしているのは僕の顔を見たからかな。


「私が許可しましたよ」


神官の中でも高位であるヤマ神官がそう言ったが、それでも、


「子供たちが怯えています。 警備隊は出て行ってください」


の一点張りだ。


こちらの話を聞こうともしない。


「僕は隣の部屋にいます」


そう言って出ようとしたが、それも気に入らないらしい。


「子供たちの部屋は部外者の立ち入りは禁止です!」


僕の背中に言葉を投げ付ける。


いやいやいや、僕は神官長に頼まれて……言っても無駄だな。




 今日は本当に教会の嫌な部分を見せつけられた。


気持ちがモヤモヤするというか、イライラしてるんだよ。


僕は、気持ちを抑えるように大きく肩を上下させて息を吐く。


扉に向かっていた体をくるりと反転させ、カツカツと足音をさせて老教師に近付く。


「それは失礼いたしました」


礼は取らない、言葉だけの謝辞。


下から相手の顔を見上げる形になるのはなんとも不恰好だが、仕方ない。


「ただ、あなた方が日頃からやるべきことをやっていないことは、今日一日でよく分かりましたよ」


「な、なんだと!」


そこからは声を潜める。


子供たちに聞かせたくはないからな。




「僕はあなた方の魔力ぐらい分かるんですよ」


彼ら教師役の共通点。


それは魔力の低さにある。


「神官の本来の仕事である回復や浄化の能力が足りないから教師役なんでしょう?」


無いわけではない。


無ければ神官にはなれないからだ。


だけど、教会から派遣されて患者の所へ行ってもまともに働けないと判断された者。


それが彼らの正体だ。


そりゃあ優秀な子供は嫌われるよなあ。


「魔力漏れの子供は周りに迷惑をかけるほど魔力が強く、量が多い。 そんな子供が神官になったら、ねえ」


「わ、わしは」


ブルブルと震え出す。




 気が済んだので、僕はヤマ神官の傍に戻る。


「神官長はいつ頃戻られます?」


「明日には」


「じゃあ」


僕は広い部屋全体に聞こえるように声を上げる。


「神官長が来たら、全てをお話して処分を決めてもらいます。 それまでは僕の所で小部屋の3人を預かりますね。 ここは危険ですから」


返事を聞かずに部屋を出た。


「モリヒト」


『はい』


「馬車の確認を頼む」


キランが来ていなければ、別の馬車を手配するように頼んだ。


『承知いたしました』




 イブさんたちは驚いていたが、ゼイフル司書は頷いている。


「子供たちのことを考えれば、落ち着くまで他の子供たちとは離した方が良いでしょうね」


ゼイフルさんは元々王都の学校で教師をしていた。


辺境地でも子供たちに慕われている。


「この子たちはしばらく外泊になります。 必要なものがあれば準備をして、教会横の馬車乗り場に来てください」


僕は世話係りの見習いに頼む。


「準備といっても、子供たちの衣服や道具は教会の支給品ですから」


そうか、ならば。


「人形や手紙、本、なんでもいい。 コレだけあればいいと思うものを持って来て」


3人の子供たちに言ってみると、すぐに取りに行った。


彼らからは特に嫌がる様子は見られない。


 モリヒトが戻って来た。


『キランが来ております。 もう1台、呼びますか?』


「いや、いいよ」


ギュウギュウでも何とかなるっしょ。



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