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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百六十一話・子供の喧嘩の仲裁


 高齢の神官がワナワナと震えている。


「わ、わしは長年、神に仕え」


「お疲れ様です。 でも、今回の作業についてはあなた方は不要です」


たぶん教えたとしても無理。


習得することは出来ない。


「精霊様があなた方を認めない限り、この作業には参加出来ません。 このことは神官長にも報告させて頂きます」


残念がるだろうけどね。


「では、失礼します」


僕が歩き出すとモリヒトは結界を解除し、後ろに着いて来る。


後は警備隊に任せよう。




 アダムには一応、ゼイフル司書に付いてもらった。


ブチブチ文句は言うが、主人である僕には逆らえない。


それに、あの女性神官見習いも美人さんなんだよな。


イブさんが清楚系なら、彼女は可愛い系。


アダムは嫌いじゃないみたいである。




 子供部屋のサンテたちを引き取りに行く。


賑やかな声が廊下にまで聞こえて来た。


いや、これは喧嘩か?。


「失礼しますー」


部屋の扉を開ける。


「あ、アタト。 あれ、何とかして」


喧嘩はサンテではなかった。


 未成年者用の保護施設の一室。


集まっているのは、おそらく僕よりは上の年齢だろう。


体の大きな少年少女たちがオロオロとしている。


中には、


「もっとやれやれー」「やっちまえ!」


と、囃し立てる子供もいた。




 イブさんが何とかしようとウロウロしているが、子供でも12歳くらいだ。


あの年齢のマジ喧嘩は、若い女性には止められないだろう。


「どうしました?」


僕はイブさんに事情を訊ねる。


「あ、アタト様。 昼食の片付けに廊下に出たら、隣の食堂から他の子供たちがちょうど出て来て」


からかいの言葉が飛んで来た。 


年長の少年は「嫌味を言われるのはいつもの事だ」と、始めは無視していたが。


しかし、今日は教師役の神官たちがこちらにいなかったため、相手の子供たちが図に乗って、しつこく絡んだ。


「女の子たちに、その、手を出してきたんです」


魔力漏れ疑惑の子供は年長の少年の他に2人の少女がいる。


「すれ違い様に女の子の髪を引っ張ったため、その子が転んで怪我を」


言葉だけなら我慢する少年がキレた。




「少々、人数が多い気がしますけど」


僕が見る限り、少年ひとりに相手は数人だ。


「はい。 最初は髪を引っ張った子だけと喧嘩になって、相手が負けて謝ってくれたんですが」


後になって助っ人を連れて来たというわけだ。


しかも、子供用の部屋の中には警備隊は教師の許可がなければ入れないという。


そこに呼び付けての乱闘騒ぎである。


ガキめ。




 サンテが僕の服を引っ張る。


「アタト、助けないの?」


「いいのか?。 僕がやると死人が出るかも知れないが」


嘘だけど。


正直、何の義理もない子供を助ける気にはならない。


一方的にやられてるので、もうじきに決着はつく。


「じゃ、おれ行く」


サンテが入っていった。


 倒れてる少年を蹴っていた足を掴んで放り投げる。


「何しやがる!」


王都の子供でも施設でぬくぬく育った子供と貧民区で育った子供では体力が違う。


最近のサンテは辺境地でも鍛えられてるからな。


相手は歳上だろうと体が大きかろうと、構わず次々と投げ飛ばす。




「ちくしょう!」


悔しそうに叫んだ子供が、奥にいる誰かに向かって合図している。


サンテがピクリと止まり、その奥にいた子供に向かって走った。


「グェッ!」


壁に押し付け、その子が持っていた何かを奪って服の中に入れる。


ありゃあ、魔道具か。


サンテが僕のところに戻って来ると、「コレ」と、奪った魔道具を見せてくれた。


ふむ。


 僕は、この部屋の担当らしい見習い神官たちを横目で見る。


ほとんどがおとなしそうな中年のオバちゃん、オジちゃんたちだ。


その人たちに見えるように顔の前に持ち上げて、調べる振りをする。


「あー。 これは相手を足止めするための魔道具だね」


軽い拘束具だ。


辺境地の教会警備隊でも持っているのを見たことがある。




 廊下にいた警備隊員を呼び込んで渡す。


「これは。 警備隊が罪人の鎮圧に使う魔道具です。 こんなものを子供に使ったら、運が悪ければ死にますよ」


だそうだ。


喧嘩をしていた子供たちが驚き、俯いた。


 イブさんは倒れた年長の少年を介抱している。


「隣の部屋を借りていいですか?」


部屋担当の見習いのに訊ねる。


「は、はいっ。 どうぞー」


「ありがとうございます。 モリヒト」


『はい』


モリヒトに少年を抱えてもらい、隣の小部屋へ移動する。


イブさんは泣きじゃくる2人の女の子を慰めながら、着いて来た。




「ティモシーさんはどちらに?」


イブさんたちと一緒にいたはずだが。


「午後から隊長に呼ばれて警備隊本部に行かれました」


僕は探して来てほしいと頼む。


警備隊員が1人減り、残りは廊下で待機してもらう。


 イブさんが光魔法で少年の傷を治す。


僕はサンテの体を癒しながら小さな声で褒めた。


「サンテ、よくがんばったな」


「ヘヘッ」


その笑顔は貧民区に馴染み過ぎて、他国の貴族子息には見えない。


「魔道具の魔力は抜いといたよ」


サンテはそう言って服の中のスルスルを撫でる。


「ああ。 スルスルも偉いぞ」


僕たちは顔を見合わせて笑った。




「うぅ」と呻き声がして、少年が目を覚ます。


少女たちが駆け寄って引っ付いた。


いいなー、モテモテやんか。


「アンタたちがオレを助けたのか。 余計なことを」


何を突っ張ってるのか知らないが、まだ僕たちを睨む元気はあるようだ。


「何言ってんの!」


「あの子たちが来てくれなかったら、あんちゃん、死んでたかも知れないのよ」


2人の少女の剣幕にタジタジになりながら、少年は僕たちに「ありがとう」と頭を下げた。


 まあ、後半はサンテが強すぎて、向こうが慌てたせいで魔道具なんて危険な物が出てきた。


「子供があんな物を持っているなんて」


盗んだのか、誰かにもらったのか。


どっちにしても危ないな。




 バタバタと廊下を走る音がする。


「アタトくん、無事か!?」


ティモシーさんだ。


「僕はこの通り、大丈夫です」


息を切らしているティモシーさんに、どこにいたのかを訊ねる。


「訓練所だ。 昼休みだけと頼まれて稽古に付き合ってた」


ふうん。


これが意図的だとしたら。



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