表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

459/667

第四百五十九話・神官の指導と見習いたち


 大人気おとなげないとは、このことである。


若い女性、しかも精霊のお蔭で神官になったばかり。


そんな者に指導などされたくない、ということらしい。


「今日は神官長様がご不在で」


ティモシーさんが何度目かのため息を吐く。


それも好き勝手やっている要因か。


これじゃあ、ますます精霊に嫌われるのに。


「見習いの方たちは早く始めてほしいという感じなんですが」


あー。 そりゃそうだろ。


見習いから神官になれるかも知れない修行だ。


やれるなら何でもやりたいと思うのは当たり前。


しかし、教師たちはすでに神官職に着いている。


今さら頭を下げて教えを乞うつもりはないようだ。




 僕はバカバカしくなる。


「そんな人たちに教える必要ありますか?」


「んー、私にはなんとも」


ティモシーさんは肩をすくめた。


先に到着して廊下で待機していた警備隊長たちの顔を見る。


「騒がしいと苦情があったのでな」


精霊とエルフがいることを発表したばかりで教会の警備はピリピリとしている。


「申し訳ございません」


一応、僕から謝罪しておく。


普通、いい大人が苦情が来るくらい騒ぐとは思わないよな。


しかも神職者を育てる側だ。


警備隊には廊下で待ってもらう。




 わざとニコニコと笑いながら扉を開けた。


「遅くなりました」


僕とモリヒトの2人で中に入る。


室内ではゼイフル司書が説得を試みていた。


近くにいたアダムはこちらを見たが、ゼイフル司書はまだ気付いていない。


教壇で声を上げ続けている。


「皆さん、どうか作業をやってみてください。 きっとお役に立つはずです」


その声は室内の喧騒に負けていた。




 もうすぐ昼の鐘が鳴る時間。


室内は、それぞれが勝手に話したり、自分の仕事の処理をしていたりと様々だ。


こちらを見ようともしない。


「お疲れ様です。 遅くなってすみませんでした」


ゼイフル司書に声を掛ける。


「ああ、アタトくん。 こちらこそ、何も出来ず申し訳ない」


僕は首を横に振る。


「大丈夫ですよ、たぶん」


なんとか話し合って解決しようとしていた司書さんと、彼を守っていたアダムに下がるように指示を出す。


ゼイフル司書には、ヤマ神官を連れて来てほしいと頼んだ。


そして、僕はただ彼らがいつ気付くのか、ニコニコしながら見ていた。




 やがて鐘が鳴る。


「おや、もうこんな時間か」


「早く食堂へ行きましょう。 遅れると並ばなければなりませんから」


誰かが言い出し、教師たちはゾロゾロと出て行く。


まるで僕たちのことは見えていないかのように素通り。


しかし、廊下に出ると、そこに並ぶ警備隊を見てギョッとすることになる。


「ヒッ」「な、なんですか」


あれだけ騒いで問題にならないと思うほうがどうかしている。


「煩いと苦情が来ましてな。 様子を見に参ったが、時間切れのようじゃ」


教師たちはバツが悪そうに、コソコソと早足で去って行った。




 僕は、警備隊に室内に入ってもらう。


「どう思われましたか?」


隊長に問う。


「恥ずかしいやら、申し訳ないやらだ」


老隊長は苦虫を噛み潰したような顔である。


警備隊員たちも一応は神職の教育は受けていた。


「あれは教えを乞う者の態度ではないですよ」


彼らも僕たちと同じ感想のようだ。


「神官長からは定期的に教会に来るように言われていますが、この状態では難しいと思います」


僕たちは冬の間、何度か指導に来ることになっていた。


「そうじゃなぁ」


これからが思いやられる。


「単なる嫌がらせだけなら良いが」


老隊長は呟く。


 神官も神官見習いも皆、結構忙しい。


それに比べれば、見習いや子供たちに教える教師役の神官たちは授業以外は暇だったりする。


だから神官長も御守り作りに参加させようとしているのだろう。


神職として目に余る行動に、僕はだんだん腹が立ってきた。




 部屋に残ったのは僕たちと、神官を目指す見習いたち。


彼らは教師たちに部屋の隅に追いやられ、何も出来ないままじっとしていたらしい。


「あの、アタト様。 申し訳ありませんでした」


見習いの女性が頭を下げて謝罪する。


女性エルフの世話役に内定している人だ。


その後ろに、男性の見習いたちが3人ほどいた。


事情を訊くと、希望者は交代で僕の指導を受けられることになっているそうだ。


教会の入り口にいた、あの見習いたちは、日替わりで僕の指導を受ける予定らしい。


「あなた方が謝る必要はありませんよ」


僕は笑顔を崩さない。


「ここではなんですから、場所を変えましょうか」


「は、はい」


廊下に出ると、ちょうどヤマ神官とゼイフル司書が戻って来た。


「ヤマ神官様。 すみません、事情があって遅れました」


僕は謝罪の礼を取る。


なんだか今日は、ずっと謝ってばかりだな。


時間なんて教会が勝手に決めたことなのに。


しかも、ちゃんと代理を送ったというのに、この有様だ。


「アタトくん。 いや、エルフのアタト様。 もう二度とこのようなことのない様、気を付けますので!」


ヤマ神官は床に額を付けるほど低く頭を下げた。


それにはおどろいたが、僕の後ろからモリヒトの殺気が漏れている。


「モリヒト」


『……はい、申し訳ありません』




 ヤマ神官に謝ってもらっても仕方ないことだ。


「よろしければ、一緒に昼食をどうですか?」


そう言われたので頷く。


「今、ここにいる全員に話があるので、皆が入れる場所でお願い出来ますか?」


「わ、分かりました」


ヤマ神官が「内密に」と言って、僕たちを中庭へ案内する。


「ここは、まさか」


「少しだけ許可を頂いたんです」


ヤマ神官は、小声で嬉しそうに話す。


 女性エルフの住む聖域のすぐ傍に、ぽっかりと空き地がある。


「いつか歌姫を招いて音楽会を開くための会場予定地です」


依頼されて、モリヒトが作ったようだ。




 その空き地に僕の野営用の敷物を出して、皆で丸く座る。


若い警備隊員たちだけは立ったまま、周囲を警戒していた。


「さて、食堂からここへ料理を運ばせましょう」


そう言って立ち上がるヤマ神官を、僕は「待って」と止める。


「モリヒト、簡単なものならある?」


『はい、ございます』


辺境の食堂の弁当が、人数分出て来た。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ