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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百五十六話・少年の気になるところ


 そういえば、前任の司祭は高位貴族で、かなり教会内部の実権を握っていたようだった。


捕らえられ、取り調べた結果、当時の神官長他、幹部の何人かが処分されたと聞く。


横領に書類偽造、脅迫、あとなんだったかな。


詳しくは知らないが酷かった。


 食後のお茶が配られる。


さすがにコレは許容出来ず、モリヒトに薬草茶を頼んだ。


『承知いたしました』


モリヒトが人数分の茶器とお茶を出し、配る。


慣れているイブさんたちは普通に飲む。


世話係の女性神官見習いが恐る恐る口を付け、


「美味しい!」


と、叫んだ。


それを見た子供たちや見習い神官たちも飲み始め、納得の表情を浮かべた。




「なんだ、お前、新入りじゃなかったのかよ」


そう呟いた年長の少年に僕は微笑む。


「見学には違いありませんよ。 僕は辺境地から来た商人です。 これは薬草茶でして、子供や病人の滋養に良いとされています」


少年はカップを置く。


「じゃあ、俺たちには不要だ。 あっちの部屋のヤツらに飲ませてやりな」


そう言って立ち上がり、部屋を出て行った。


釣られて、他の子供たちも同じように出て行ってしまう。


「何か拙いこと言いましたか?、僕」


女性の神官見習いに訊ねると「いいえ」と、首を横に振られる。


「この部屋の子供たちは魔力漏れで、家族や友人を病気にしたという負い目がありまして」


食事や与える物を必要以上のものにすると受け取らないという。


「周りを病にしてしまう自分たちには受け取る資格がないと。 年長のあの子が言うもので、他の子供たちもすっかりおとなしくなって」


そういえば、この部屋の子供たちは静かだったな。


まだ未成年のうちから、そんなに責任を負わなくてもいいだろうに。


「それとコレとは話が違います。 このままでは成長に必要な栄養も摂れません!」


グレイソン神官に食事の改善は任せて良さそうである。




 ヤマ神官と合流し、午後は子供たちが勉強や運動をしている姿を見せてもらった。


やはり、他の子供たちとは離れ、3人だけで固まっている。


しかも、たまたま廊下で出会っただけで「あっちへ行け」と言われたり、大人の神官たちまでが彼らに「病が移る」と、まるで病原菌扱いだ。


理不尽で腹が立つ。


 見学が終わり、ゼイフル司書はイブさんを連れて蔵書室に寄ると言うので別れた。


僕はヤマ神官の執務室にお邪魔する。


「これはどういうことですか」


僕はヤマ神官に苦言を呈する。


「いやあ、お恥ずかしい」


近くにいると病気になるかも知れないからと、普通の子供たちから離したことを誤解されたようだ。


サンテも、ハナが病弱なのは自分のせいだとすごく気にしていたな。




「魔力漏れを起こす子供は総じて魔力量が他の子供より多い。 それが分かっていれば、こんな扱いはおかしいでしょう」


魔力の多い子供は教会にとっても貴重な人材だ。


光魔法の才能がなくても、修行次第で習得出来る可能性があるからだ。


それがあのような扱いでは、将来、教会を出たとしても恩など感じてはくれない。


むしろ憎悪の対象になるだろう。


「少なくとも、あの子たちには良い環境とはいえません」


「分かってはいるんだが」


ヤマ神官はあの子たちに墨を磨る練習をさせている。


しかし、どうしてもうまくいかないらしい。


「年長の少年がその気になってくれなくてな」


道具を与えて、やり方を教えても、黙って座っているだけだという。


「アタトくん、なんとかならんか」


知らんがな。


「とりあえず、道具が揃い次第、あの子たちにも他の人たちと同じように指導します」


「よろしく頼む」


ヤマ神官に頭を下げられた。


盛大にため息を吐いて、返事の代わりとする。




 帰りの馬車には先にイブさんたちが乗っていた。


「申し訳ありませんが魔道具店に寄ります」


「はい。 納品道具の件ですね。 勿論、お供します」


すぐに終わるので店内で待っていてもらう。


「お待ちしておりました、アタト様」


すでに教会から打診が来ていたようで、すぐに交渉に入る。


「これが辺境地の魔道具店に納めている品物と価格の明細です」


これを参考にしてもらい、数を揃えてもらう。


「価格には当然、輸送費が掛かります。 こちらがアタト商会で請け負っている送料になります」


「これは……本当にこの価格で送って頂けるのでしょうか」


んむ、辺境伯邸で王都から辺境伯領都までの送料を参考にしてるけど?。


「もし必要になりましたら、他の領地へもこの価格で交渉させて頂けますかな」


交渉だけなら構わないが。


「その時はまたよろしくお願いします」


僕は依頼数量を確認してモリヒトに固形墨と硯を頼む。


『この数ならば』


在庫があったらしい。


すぐに店主の目の前のテーブルに積み上げた。


「あ、ありがとうございます」


この分なら、教会からすぐに連絡が来そうだな。


僕たちは契約書を受け取り、店を後にした。




 その翌日の夕方。


教会から「道具が揃った」と連絡があった。


そして、それと同時に双子とドワーフたちが辺境伯邸に戻って来る。


「お帰り」と言うと、双子は笑って「来たよー」と僕に抱き付いた。


 久しぶりに夕食は大人数で賑やかになる。


「やっぱりこっちの食事の方が美味しいわ」


スーは満足気である。


「そう?。 オレは辺境地の飯が性に合ってるわ」


ドンキはそう応えた。


「何よー、もうっ、いちいち文句付けないでよ!」


「あはは、すまんすまん」


この2人はなんやかんやと仲が良い。




 食後のお茶になり、皆の話を聞く。


「サンテ、ハナ。 結論は出た?」


2人は顔を見合わせて頷く。


「おれはアタトの傍に残る」


サンテはしっかりと僕を見た。


僕が頷くと、今度はモリヒトを見て頭を下げた。


「モリヒトさん、ハナを商会の本部に送ってもらえませんか?」


『それは構いませんが、ハナはそれで良いのですか?』


モリヒトはハナ本人の意志を尊重する。


「はい。 私、ドワーフのお婆様や食堂のご夫婦が心配なので」


ハナは辺境地のことが気がかりで帰りたいそうだ。


『分かりました。 今夜中に準備をお願いします』


翌朝、朝食前に空間移動で戻ることになった。



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