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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百五十四話・精霊の有無と修行


 アダムの眉がピクリと動く。


まあ、コイツの表情は分かり易い。


『美しいものが好きで悪いか。 だがな、我らは外の見た目よりも遥かに、内なる魔力の美しさに惹かれるのよ。 お前たちでは彼女には勝てぬ』


おー、煽るなあ。


 内なる魔力か。


元の世界でいうところの魂かな。


確かに、熱心に一つのことに打ち込み、情熱を燃やすことを入魂というからな。


精霊にすれば雑念のない、純な魂が好きなんだろう。


『アダムを止めなくてよろしいのですか?』


「ん?」


モリヒトが睨み合うアダムと神官長を見ながら僕に訊いてくる。


「大丈夫でしょ」


どちらも本気じゃなさそうだし。




 そんな空気を弛緩させる声がした。


「あのぉ、イブリィーさん。 この文字を書く修行はどのようにされていたのですか?」


グレイソン神官である。


いつの間にか自分でもペンを握り、イブさんと同じように書いている。


「はい、毎日、少しでも時間を見つけて書いています」


偉いよなあ。


湖の街の教会の神官として働いている彼女は忙しいはずだ。


それなのに、僕の所へ毎日のように手紙を送って来ていた。


「それで魔力が伸びたんですねー」


グレイソン神官が感心して褒める。


文字にムラなく魔力が乗るのは魔力の安定だけでなく、無理なく魔力を使えることを意味する。


僕としても、魔力量が増えていると確信した。


「私が同じように修行しても、ここまで出来るでしょうか」


グレイソン神官は魔力の乗らない自分の文字を見てため息を吐く。


「……やはり、精霊がいないとダメなんでしょうねえ」


いやいやいや。


居たとしても、そんなすぐに出来るようになるわけないだろ、ボケ。




 イブさんが首を傾げる。


「精霊、いますよね?。 こちらに」


「あっ」と誰かが声を漏らす。


「精霊様!、本当に種族や性別は関係ないのですよね?」


グレイソン神官がアダムに詰め寄る。


「外見の醜美も!」


『う、うむ。 普通の精霊ならば、そんなことで嫌ったりはせぬ』


「で、では、私でもこの美しい文字を習得出来るかも知れないのですね」


何故か感動してるけど、マジで精霊によるからな。


それに文字を習得出来るかどうかって、そんなに大事かな。


「アタト様、女性見習いの修行に私も加えてください!」


跪かれ、懇願された。


えっ、あの、それって神官になるための修行であって、グレイソンさん、あなたもう神官じゃないですかー。




 僕は眉を寄せた哀れな顔で神官長を見る。


コレ、なんとかしてよ。


「エルフ殿。 この修行は習得すれば僅かでも魔力の増加は認められるのですな?」


逆に質問された。


「人による、としか言えませんが。 魔力の安定により、今までは無駄に消費していた分を効率よく使えるようになります。 その分、確実に使える魔力量は増えますよ」


習得というか、魔力が乗るようになれば、だ。


ぶっちゃけ見習いの女性には、これによる神官への昇格を狙っている。


 再び、室内がザワザワとし始めた。


「では、その指導する現場をこの者たちに見せてやってもよろしいでしょうか」


えー、やだよ。


「これは慣れるまで、かなり集中が難しいのです」


部外者がいると気が散って、まともに練習が出来ない。


「フフフ。 それでは、生徒としてなら参加させてもよろしいかな?」


本当に神官長は曲者だ。


見習いの女性と神官の教師たちを同時に指導して、女性は昇格、教師たちは御守りの作成が出来るようにする。


努力しだいで魔力量が増えると聞けば、やらないと言える者がどれだけいるか。


下手すると、教会の入り口にいた男性見習いたちも参加するんじゃないかな。


うへぇ、想像しただけでウンザリする。




「皆さん、続きは別室でお茶を頂きながらにしませんか」


ヤマ神官が疲れの見える僕を気遣って提案する。


「おお、そうですな。 では、神官たちは仕事に戻りなさい。 詳しいことは決まり次第、お伝えします」


神官長が締め、集まっていた神官たちが退室して行く。


 僕たちは応接用の部屋へ通された。


高位貴族も入れるような豪華な作りになっている。


僕とイブさん、ゼイフル司書が長椅子に座り、その後ろにモリヒトとアダムが立つ。


ティモシーさんは神官長の護衛の警備隊員たちと一緒に入り口の扉の脇。


僕たちの前に神官長とヤマ神官がそれぞれ1人用の椅子に座った。


グレイソン神官は何故か、お茶を淹れている。


そんなのは見習いの仕事じゃないの?。


部屋に呼ばれて入って来た神官見習いの女性が困っていた。




 コホンとヤマ神官が空咳をする。


「それでは、お話をまとめさせて頂きます」


お茶が行き渡り、皆が一口飲んだところで話し出す。


「アタトくん。 大変申し訳ないが、今回もご協力を頂きたい」


僕は軽く頷き「仕方ないですね」と答える。


カチャッとカップをテーブルに戻し、顔を上げていつもの笑顔を消す。


ここからは次の戦いだ。


「条件があります」


勿論、否とは言わせない。


「聞かせてくれ」


僕はヤマ神官に頷き、イブさんにメモを取るように頼む。




「まず、僕が指導するのは、この冬の間だけ。 春には辺境地に戻りますので」


後2ヶ月ほどだ。


「次に、僕が直接指導するのは、最初の3日間。 その後は週に一度です」


「それはあまりにも少ないのではないか?」


神官長の言葉に僕は首を横に振る。


「実際にやり方を覚えたら自分で練習するしかないんです。 イブさんも、僕はほとんど直接指導していませんから」


隣でイブさんがウンウンと頷く。


「1番の条件は」


僕はニヤリと口元を歪ませて笑う。


「アタト商会の許可がある店から道具一式を購入して頂きます。 価格、品質はこちらから店に指定し、納品させますので、問題ないかと」


勿論、契約書の作成もお願いする。


「しばらく考えー」「分かりました」


ヤマ神官の答えに被せるように神官長が答えた。


えっ、いいの?。


「条件を全て受け入れます。 いつから指導して頂けますかな」


神官長が身を乗り出すようにして、僕の返事を待つ。


「道具が揃い次第です」


「分かりました。 すぐに手配し、ご連絡いたします」


グレイソン神官が嬉しそうだ。



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[一言] 役所と企業の癒着取引現場やなあ
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