第四百五十一話・教会の本部での現状
キランに白馬の馬車を出してもらい、教会に向かう。
僕、イブさん、ゼイフル司書とティモシーさんに加えてモリヒトとアダムの6名である。
キランは御者だが、このまま辺境伯邸に戻ってもらう。
色々とやってもらうことがあるからな。
最近、教会に出向く時の僕はエルフの姿のままだ。
エルフが御伽話ではなく実在することを広く知ってもらうためである。
白馬の馬車もそうだが、僕より正統派エルフの容姿であるモリヒトと、体格はほぼ同じで髪色が違うアダムの2人がめちゃくちゃ目立つ。
2人とも僕と同じ服を魔力で纏っている。
コレがまた様になるんだよな。
効果抜群である。
僕たちの馬車が教会の前に到着すると、何故か神職の制服を着た男性が数人、駆け寄って来た。
「アタト様、お待ちしておりました」
「中へご案内いたします」
なんだコイツら。
無駄にニコニコしてて気味が悪い。
「わ、わたしがご案内いたします!」
「何をする、わたしがすると言ったであろう!」
喧嘩まで始めやがった。
僕たちはソイツらを完全に無視して階段を上る。
上がり切った場所に今度は神職の女性が2名、待っていた。
一歩前に出た女性神官見習いに見覚えがある。
「アタト様、イブリィー様、ゼイフル様。 こちらへどうぞ」
確か、ヤマ神官の世話係り?、とかだったかな。
「よろしくお願いします」
普通の参拝客からの視線を感じながら、人混みを進む。
一般が入れない区域に入り、ホッとひと息吐いた。
「かなり人の出入りが増えたようですね」
チラリと参拝客を振り返って訊ねる。
「はい。 御神託自体が稀なことですし、実際にエルフ様や精霊様がいらっしゃるので皆様、熱心に祈られています」
それは納得出来るんだが。
「先ほどの出迎えの男性たちはなんですか?」
まだ揉めているような声が聞こえる。
「あれはー」
女性の神官見習いも困惑していると言う。
「私がアタト様の修行を受けることが決まりまして。 彼らも同じ神官見習いとして一緒に受けたいと希望しているのです」
それで僕に取り入ろうとしてたのか。
理解出来ん。
やるなら聖域の女性エルフに、といっても入れないか。
そりゃあ、残念だったな。
「そんなに神官になるための修行は大変なのですか?」
僕は噂程度でしか知らない。
彼らは日頃行っている修行より、僕の指導のほうが楽だと思っているんだろうな。
「い、いえ、私からはなんとも申し上げられませんので」
女性見習いが返事に困っている間に、ちょうど着いたようで扉の前で立ち止まる。
「こちらでヤマ神官様がお待ちです」
中に入ると、ヤマ神官の部屋ではなく、少し広い学校の教室といった感じの場所だった。
教壇らしき台があり、その前に小机が並んでいる。
教会で普段から使っている指導用の部屋らしいな。
そこにヤマ神官だけでなく、あのゴツい神官長と司祭補助のグレイソン神官もいた。
そして、10名ほどの男性神官が生徒のように机を並べて座っている。
なんだこれ。
「ゼイフルから話は聞かれましたか?」
僕は神官長の言葉に頷く。
「白いエルフの世話係りに神官見習いの女性が指名された件でしたら聞きました」
神官長は頷き、続ける。
「ここに居るのは、現在、この本部にて神職の見習いを指導している者たちです」
要するに教師か。
どうりで年嵩で頭が硬そうな男性が多い。
顰めっ面で、いかにもイヤイヤ来ている感じだ。
「アタトくんには彼らに新しい修行方法を伝授してもらいたいんだ」
そう言うヤマ神官もため息混じりである。
かなり無理矢理ねじ込まれたんだろう。
しかし、困ったな。
相手は女性ひとりのつもりだったから、なんの準備もしていないんだが。
仕方ない。
今日のところは、お茶を濁しておくか。
「すみません。 今現在、こちらで行われている修行はどういったものなのか、教えて頂けませんか?」
「では、私から」とグレイソン神官が小さく手を上げた。
「教会では、子供たちが7歳になった時、魔力解放の儀式と同時に才能の有無を確認させて頂いております」
それは知っているので頷く。
「王都だけでなく、各地方からも才能有りとされた子供たちが集まり、こちらの施設で共同生活をしながらの修行となります」
内容としては、まだ子供なので一般的な読み書き、計算から始まり、神学と呼ばれる祈りの言葉の意味や歴史を学ぶ。
勿論、魔法の授業があり、最低限、発動が出来るようにならなければならない。
「それが約5年ありまして、その後、能力別に警備隊と神職見習いに分かれます」
警備隊の方は、国や街の兵士から転身する者が多いそうだ。
へえ。 警備隊も一応、神学を勉強するのか。
教会所属なんだから当たり前か。
一般的な教育を終えた子供たちは、12歳くらいから見習いとして教会の実務に入る。
「光魔法の才能さえあれば、神官の傍で見ているうちにコツを覚えます。魔力量が足りなければ魔道具を使うことも可能ですよ」
実際に神官と行動を共にし、教会内や街中で治療や浄化の補助する。
「人々のお役に立ち、感謝されることを実感すると自然に神様に対する感謝の心も育ちます」
ふうん、そんなもんかねぇ。
どちらかというと、思い上がりの勘違いヤロウになりそうだがな。
「確か、厳しい修行のお蔭で民から尊敬されるとか」
「はい。 それは見習いから本職である神官になるための修行のことでしょう」
見習いとして神官の手伝いをしながら、魔法の鍛練と、ひたすらに祈る日々。
「基本は神への忠誠です。 信仰の深さにより、いずれ癒しの魔法を賜り、神の声を聞くことが出来るようになると言われています」
ウットリとするグレイソン神官はいかにも狂信者のようだ。
「光魔法を習得出来ない者はどうなるのでしょう」
才能有りでも魔法が使えるとは限らない。
「出来るようになるまで修行します」
信心が足りないとして、いつまでも見習いのまま教会で働くことになるらしい。
教会は慢性的な人手不足のため、辞めることも出来ないという。
うわあ、そりゃあ見習いたちも必死になるな。




