第四百四十九話・行動の前に相談
「アタト。 あんた、そんなこと言うなら、これからどうするか、決まってるんでしょうね」
何故か、スーに睨まれる。
これから、ねえ。
「そうだな。 まず、サンテ、ハナ」
「はい」
2人はビクッとして緊張した顔で僕を見る。
ああ、父親の処刑だの、一族の面子だの、嫌な話しちゃったからな。
嫌われても仕方ない。
「すぐに辺境の町に帰るか?」
探している連中から、一旦身を隠したほうがいい。
双子には安全な場所に居てほしい。
「はい」とハナは頷いたが、サンテは黙って俯いたままだ。
「サンテ、有耶無耶にしたくないのは分かる。 でも、ここは僕に任せてくれないか」
出来るだけのことはするから。
サンテはキッと顔を上げる。
「教えて。 アタトは何をする気なの?」
そうか。 話さないと辺境地には行ってくれない感じか。
「まだ考え中だけど、まずは他国の情報収集かな」
これは2国間で商売をしている商人から探るつもりだ。
「もう一つは、教会の対応しだいだが、亡命者の扱いを改善させる」
実際に双子の母親は被害を被り、そのせいで亡くなっている。
亡命者の安全確保は、こちらの国の義務じゃないかと思うんだ。
それを怠り、死なせた罪は重い。
双子に対して、なんらかの補償を引き出せるかも知れないと考えている。
「教会が罪を認めるかしら」
スーが眉間にシワを寄せる。
「教会がダメなら王宮に乗り込むさ」
直通のカードがあるからな。
「アタトくんは相変わらず無茶をする」
ティモシーさんがため息を吐き、モリヒトと頷き合う。
いや、まだ何もしてないが?。
「アタトがおれのために危ないことをするなら」
サンテが突然、大きな声を出す。
「おれは王都に残ってアタトを手伝う!」
は?、馬鹿か。
「本当は、おれがやらなきゃいけないことだ!」
父親の仇ってか?。
ガタンッと音をさせ、サンテが床に土下座ばりに頭を下げた。
「お願いします!、アタト様。 おれ、何でもします!。 手伝わせてください」
ぐえっ。 苦手だなー、こういうのは。
しばらく考える。
実際のところサンテという被害者が直接、教会や国に訴える方が効果はあるだろう。
だからと言って、子供を矢面に立たせるわけにはいかないじゃないか。
「じゃ、こうしよう」
僕は提案する。
「2人とも今夜はここに泊まってゆっくり話し合ってくれ。 何日掛かってもいい。 決まったら辺境伯邸に来い」
しばしの時間稼ぎである。
僕はバムくんとドンキに護衛を頼む。
そして職人兄妹にも頼み事をした。
「下町で子供が拐われたという話が出たら教えてください」
それはおそらく、双子の件でとばっちりを受けた子供だろう。
もしかしたら助ける必要があるかも知れない。
「私に言ってくれ、対処する」
ティモシーさんが申し出てくれて、職人兄妹と打ち合わせを始めた。
教会の警備隊が動いてくれるなら助かる。
僕も協力を惜しまない。
「キランは辺境伯邸周辺の貴族街の噂を拾って報告してくれ」
警備がしっかりしている貴族街で被害に遭うとは考え難いが、金髪の子供は貴族家にはそこそこいる。
領兵を出す必要もあるかも知れないので、辺境伯の許可も取ったほうがいいだろう。
「承知いたしました。 旦那様にも内密に連絡いたします」
そう言って、キランが礼を取る。
『そろそろ馬車に戻りましょう』
モリヒトの声がする。
もうそんな時間か。
「それじゃ皆さん、何かあれば連絡を」
「了解っす!」
バムくんが張り切った顔で胸を叩く。
まあ、あまり張り切り過ぎない程度に頼むよ。
僕は増えた人数分の金を宿に払い、外に出る。
ドンキの案内でドワーフ街を抜けた。
「後は頼む。 特に双子はひとりにしないよう気を付けてくれ」
「へい、承知」
ドンキと職人兄妹とは工房街で別れ、ティモシーさんとキランと一緒に馬車溜まりへ向かった。
辺境伯邸に戻り、一夜明けた翌日。
「おはようございます、アタト様」
イブさんとアダム、司書さんが部屋を訪ねて来た。
いつの間にか、教会から戻って来ていたようだ。
「おはようございます。 お早いですね」
僕は朝食の席に着いたばかりだ。
「昨夜、遅くに戻りましてね」
ゼイフル司書もまだ疲れた顔をしている。
『お二人とも、どうぞこちらに』
モリヒトが2人に座るように勧める。
「よろしければ朝食を食べながら聞かせてください」
たぶん、2人は僕がそう言い出すのを待っていたと思われる。
「ありがとうございます」
「お邪魔します」
キランがすぐに動き、サンテが手伝っていた。
「教会の食事は何だか味気なくて」
イブさんが嬉しそうに食べる。
ん?、ごく普通のパンとハムや卵に温野菜の付け合わせの簡単な朝食だけどな。
「ははは、本部は修行の場でもありますからね。 静かに質素な食事を大勢で取るので」
しかも女性神官はイブさんひとりである。
そりゃ、アダムが付いていても、イブさんは居心地良くないよな。
かといって湖の街の教会に戻っても、勝手に責任者にされてしまうし。
イブさんは「ここは落ち着きます」と微笑んだ。
食後のお茶を飲みながら報告を聞く。
「無事に水の精霊様のお住まいが完成いたしました」
神域とも聖域とも言われる教会内部の神聖な庭。
その一部に虹蛇が地下水を引いた池を出現させる。
その中心にモリヒトが動植物も生息する島を作り、虹蛇が寛げる場所にした。
庭といっても教会の中だから、人目はある。
そこでモリヒトが、透明だが中の様子はハッキリとは視えない結界で覆ったそうだ。
『普段は地下水脈にいるので、上がって来る時は虹蛇の体を収縮させるように言いました』
それでも女性エルフの3倍はあるらしい。
教会の邪魔にならない程度に行き来し、女性エルフの身の回りは女性神官見習いの仕事になる。
ん?。 女性の神官見習い?。
「それだと、またイブさんの仕事が増えませんか?」
イブさんとゼイフル司書が顔を見合わせる。
「実は、その件でアタトくんにお願いがあってね」
ゼイフル司書は申し訳なさそうに話し出す。
「早急に本部に顔を出してほしいそうだ」
はあ、予想通り過ぎて呆れる。




