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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百四十八話・双子の家庭の事情


 お茶でひと息入れ、改めて双子の話を聞く。


「この度は、ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」


サンテとハナは椅子から立ち上がり、スーに仕込まれた礼儀作法通りに礼を取る。


王都の貧民区にいた頃の姿からは想像も出来ない。


皆、その凛とした姿に驚いた。


「はあ?。 この子たち、元々育ちは良さそうだったわよ」


スー。 なんで今頃なって、そんなことを言うの。




 金色の髪と鮮やかな青い目は大国の貴族に多い特徴である。


「おれ、あ、私の母は隣国から亡命して来た貴族でした」


サンテは口調に気を付けながら話す。


「初めはこっちの教会の世話になるつもりでしたけど、教会にいたら、なんか偉そうな貴族が出て来たんです」


何故か、大使に匿われているはずの場所に高位貴族が訪ねてくる。


狙いはこの国では規制されている、大国の『異世界人の知識』だ。


いや、彼らが欲していたのは生活のための知識ではなく。


「大国では、どんなやり方で『異世界の記憶を持つ者』たちを騙して利用するのかって訊かれて」


母親は驚き、困惑する。


「私たち親子が国を出ることになったのは、その『異世界の記憶を持つ者』に関係したからです」


双子は幼かったので直接の原因は覚えていない。


ただ、父親が『異世界の記憶を持つ者』と関わりがあったとしか知らない。




 母親の所には何度断っても、住む場所を変えても、次から次へと高位貴族からの使者が来る。


それでもこの国で生きていくために、また犯罪に巻き込まれたくないという強い意志が母親にはあった。


大使との縁を切り、母親は子供たちを連れて逃げ出す。


そして、決して安全とはいえない場所に住むことになる。


「母の知り合いだという老師様が手助けしてくださいました」


老魔術師のことらしい。


この国では目立つからと、老魔術師が髪の染め方を教えてくれた。


目の色を変えるのは子供には悪影響があるとして、前髪を伸ばして隠すことで対応する。




「生活が変わってしまいました」


不衛生な環境、不安定な収入。


自分たち家族も、老師も、世間から身を隠して生きているから仕方がない。


「そして、国を出てから私のせいで、妹が病になって」


母親の仕事は家の中で出来る内職しかなかった。


安い賃金に無理を重ねたせいで母親は体を壊し、働けなくなる。


「お兄ちゃんが働きに出るようになって、お母様は、いつもごめんねって謝ってばかりいたわ」


ハナは涙ぐむ。


「そして、いつか必ずお父様が迎えに来てくださるって。 それだけを願っていたわ」


スーがハナを抱き締める。


「でも、もういいの」


ハナが涙を拭って笑う。


「今はアタト様がいるもの。 それに辺境地の皆も」


うっ、ハナが可愛すぎる。




 腕を組んで聞いていたティモシーさんが、僕を見る。


「今日の犯人は、サンテたちの事情に関係するのですか?」


サンテがここまで言ったのだから、誤魔化しておくのも失礼だろう。


僕は覚悟を決める。


嫌われてもしょうがない。


「実は、双子を探しているのは、大国から来た新しい大使なんです」


前任者はあまり仕事をしていなかったせいで、双子たちは放置されていた。


しかし更迭され、代わりにやって来た大使の女性は優秀らしく、バリバリ仕事をしている。


つまり、双子を探し出そうとしているのだ。




「なんのために?」


ティモシーさんの疑問はもっともだと思う。


探し出して、どうしようというのか。


「あっちの国で父親が探してるんじゃないの?」


スーが希望的な予想をする。


父親でなくても近親者ならいるだろう。


自国より小さな国に亡命し、行方が分からない親子。


きっと苦労しているだろうから、探して出して連れ帰りたい。


「そういうことじゃないの?」


本当にそれだけならいいな。


僕はつい、ため息を漏らす。




「アタトさん、何を隠してる?」


ドンキから突っ込まれるとは思わなかった。


「アタト。 何か知ってるなら教えて」


サンテとハナまでがぼくに期待の目を向けてくる。


スーが理想的な話をしたから言いにくいんだよ。


アレを肯定出来たら、どんなにいいだろう。


ーー父親が人を使って妻子を探している。


自国に戻って再会、めでたしめでたし。


……残念ながら、そう上手くはいかない。




 僕はすっかり冷めたお茶を飲み干す。


苦い後味に顔を顰めた。


視線を双子に合わせられず、スーの顔を見る。


「まだ確定した話しではないけど」


僕は、あくまでも噂話として話す。


「大国ズラシアスから亡命して来た母子おやこの父親は処刑されたそうだよ」


空気が固まり、誰も声が出せない。


「新しい大使は父親の身内で、彼の遺児を探している」


だけど。


「犯罪者として処刑された男の妻子を、何故、連れ戻す必要があるのか疑問だ」


下手をすれば、同罪として指名手配しているとも考えられる。


身内の責任で連れ戻し、投獄、そして処刑もあり得る。




「そ、そんな、まさか」


珍しくキランが動揺している。


「大国では『異世界の記憶を持つ者』の保護に力を入れている。 責任者は王女殿下だ」


王女を知っているティモシーさんは頷く。


「父親の罪状は『異世界の記憶を持つ者』を収容した施設から逃したことだそうだ。 つまり王女の意向に反したという反逆罪だと思われる」


または王家侮辱罪かもな。


「それで、その家族も同罪というわけか」


ドンキが頷く。




「そんなのデタラメよ!。 サンテもハナも子供なのよ、なんの罪もないわ」


スーが喚くが、それをここで言い争っても意味はない。


これは他国の話だからだ。


「貴族ってのは体面を重んじるらしいね」


父親の一族にすれば、大罪を犯した者は王家に差し出して許しを請わなければならない。


家族は無関係であったとしても、忠誠を誓い、謀反の意志が無いことを示す必要がある。


一族の存続のために。


「亡命して安穏と暮らし、いつか自国に復讐する気なのではないか、と疑っているのか」


ティモシーさんの声が低い。


「子供を探しているということは、そういうことだと思います」


他国の話だし、確証はない。


あちらも双子がこの国にいる限り、手出しは出来ない。



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