第四百四十六話・犯罪のツケの支払い
サンテを拐ったヤツらに心当たりがある。
「オ、オイラのせいだ」
バムくんの顔が真っ青になっていた。
「バム」
ティモシーさんが思わず声を掛ける。
「オイラが目を離したから」
皆が目の前の食事に気を取られていた。
「バムさんのせいではありませんよ」
そう言って、僕はこの席を囲む防音結界を張る。
「僕に心当たりがありますので、すぐに連れ戻します」
ニコッと笑う。
「ほ、ほんとけ?」
バムくんの疑いの目は仕方ないとしても、モリヒト、お前までそんな心配そうな顔は止めろ。
「ただ、急ぐ必要があるので協力して頂きます」
「勿論だ」
皆、ウンウンと頷く。
「まず、ハナをドワーフ街のスーに預けて、しばらく身を隠してもらいます」
本当なら辺境地に連れて行きたいが、今の段階では、ハナはサンテが心配で帰りたくないだろう。
「キラン。 工房街のハリセンを作ってた兄妹は知ってるな」
「いえ。 でも王都邸に人形型を作った職人兄妹ですよね?」
あー、そうか。 あの頃のキランは護衛から外していた。
「うん。 悪いけど工房街でハリセン作った職人といえば分かるから。 彼らに聞けばドワーフのいる店を教えてくれるはずだ」
「分かりました。 ハナさんをドワーフ街に連れて行きます。 バムさんも一緒に行きましょう」
キラン、良い提案だ。
「バムさん、ハナをお願いします」
僕もそれに乗るとバム君は頷く。
「わ、分かった」
キランがハナとバムくんを連れて工房街に向かう。
次はこちらだ。
「おそらく連れ去ったのはサンテの昔馴染みです」
サンテは先日、老魔術師を探して昔いた区域を訪ねている。
現在の金髪の姿で動き回っていただろう。
ヤツらはサンテが髪の色を変えていて、実は金髪だったと知る。
王都で大国の貴族が金髪で青い目の子供を探していることを知っていた可能性がある。
大使が、あの辺りで人を使い「8歳くらいの金髪の子供がいる母子家庭」を探していたとしても不思議ではない。
「間違いなく危ないでしょうね」
ティモシーさんが頷く。
しかも、今日はハナが一緒だった。
「サンテならハナを逃がすためにわざと捕まるかも知れません」
呼び出されたとしても、自分ひとりで行く。
ヤツらを引き付けるためならやるだろうな。
バカだ。
「ウゴウゴ、スルスルはどの辺りにいるか、分かるか?」
懐から顔を出し、触手を伸ばす。
『アッチー』
「よし、行こう」
僕とモリヒト、ティモシーさんで市場を駆け抜けた。
なんとしても大使の関係者に渡してはならん。
彼らは空間移動の魔道具を持っている可能性がある。
国から出たら、取り返すのに時間がかかってしまう。
『居ました』
光の玉になって先行したモリヒトがヤツらの溜まり場を見つけた。
そこにサンテもいる。
「サッサと乗り込みましょう」
ティモシーさんが剣に手を掛けた。
「ダメです」
僕はティモシーさんの腕を掴んで止める。
モリヒトには建物ごと結界で包んで逃がさないようにしておいてもらった。
そして、改めてティモシーさんに向き合う。
「すみません。 ティモシーさんにはこの場に兵士や教会警備隊が近寄らないように見張っててほしいんです」
騒ぎを聞き付けてやって来る町の衛兵たちに、ヤツらを捕まえさせるわけにはいかない。
「僕とモリヒトなら大丈夫です。 ティモシーさん、騒ぎなどなかったことにしてください」
「お願いします」と、僕は頭を下げた。
「えっ、う、うむ」
「では行って来ます。 僕たちはしばらく戻らないかも知れませんが、問題ありませんから!」
僕は建物の扉を壊しながら、最後は少し大声で叫んだ。
朽ちかけの建物の中はヤツらの住処らしく雑多なゴミが散らばっている。
汚い服装の男たちが3人いた。
「誰だっ、テメェ」
僕はコイツらと会話などする気はない。
「サンテ!」
手足を縛られたサンテが床に転がされている。
「アタト?、なんで」
ヤツらもサンテの価値を理解しているのか、怪我はないようだ。
僕は怒りを押し殺し、魔法を発動する。
「神の慈悲をもって願う、この場を闇で埋めろ」
「ヒッ、な、なんだ」
室内が闇に沈む。
「モリヒト、サンテを頼む」
『承知しました』
モリヒトは音もなくヤツらの傍をすり抜け、サンテを外へ連れ出す。
「闇よ、コイツらを拘束しろ」
「ぐえっ」「ぎゃあー」「や、やめろ!」
闇色の触手が男たちに纏わりつき、縄のように縛り上げる。
『サンテはティモシーさんに預けました。 ドワーフ街のハナの所へ連れて行ってもらえるように頼んであります』
「ありがとう」
さて、コイツらはどうするかな。
サンテの件を表沙汰に出来ない以上、野放しには出来ない。
「死体が見つかるのも拙いし、地中深く埋めるか」
モリヒトが顔を顰め、地中はダメだと抗議する。
「たたた頼む、見逃してくれ!」
それはない。
暗闇の中、身動きも出来ずに喚くことしか出来ない男たち。
「おれたちゃ頼まれただけなんだ」
「そ、そそうだ。 金髪の身寄りのねえ子供を引き取るっていう優しい金持ちからの依頼でよ」
それでも拐うのは人身売買という犯罪である。
「金だろ?、結局は」
「へっ、へへへ」「そりゃあ」
「じゃあ稼がせてやるよ」
僕は男たちを一纏めにし、闇に閉じ込めたまま、最小限の結界にする。
「モリヒト」
『はい』
僕たちはモリヒトの空間移動で、ある鉱山に飛んだ。
エンディ領の鉱山の入り口。
「おや、アタトさんか。 どうされたんで?」
鉱夫たちの詰所にいたのはドワーフの治安部隊だ。
「こんにちは。 お忙しいところ失礼します」
闇の結界を解き、3人の男たちを放り出す。
「働き口を探しているそうで、この人たちを雇ってもらえませんか」
「そりゃあ、助かりますが」
王都からの出稼ぎということにして、きちんと働けば金は本人たちが受け取れるようにする。
ただし、犯罪者なので鉱山から出ることがないようにとお願いした。
「犯罪者ですか。 刑期はいつまでです?」
ドワーフの治安隊に囲まれ、男たちはブルブル震えている。
「7年ってとこかな」
サンテの成人まではおとなしく働いててね。




