第四百四十四話・王都の土産を買いに
おそらく、モリヒトも鬱憤が溜まってたんだろうな。
水の精霊もどうやら精霊王の眷属で、モリヒトとは同僚?、という立場らしい。
なるほど、幻獣虹蛇の姿をした水の精霊には主人がいたわけか。
「だから、話が通じたんだな」
何が「好戦的なのは一部だけ」だよ。
やはり僕は、主人のいない精霊は攻撃的だという持論は譲れない。
それはどうでもいいが、しばらくの間、僕たちの王都滞在が決まった。
それを周りに知らせる前に、モリヒトの分身から商会の定時報告を見せてもらう。
ガビーからは、
「忙しくて大変なんですから!」
と、グチグチ言われたが工房は順調のようだ。
ドワーフのお婆様からは、急にハナが居なくなったことを心配された。
モリヒトが迎えに行ったが無事に着いたのかを心配していたらしい。
大丈夫だと伝えてくれるように頼んだ。
ハナは帰りたがっているし、サンテも王都の用事が済んだので、双子は近いうちに辺境地に戻す予定である。
大国の大使に見つかるのは拙い気がするしな。
モリヒトもキランも商会本館に不在のため、ワルワ邸からジョンくんがたまに手伝いに来ているそうだ。
「魔獣の森の猟師が迷い込んだり、アタト商会を尋ねて来る人がいたりするので」
来客の対応を任せているという。
ドワーフのお婆様も食堂の老夫婦も昼間は不在。
そこをわざわざ狙ってやって来る迷惑な客がいるらしい。
まあジョンくんなら大丈夫だろ。
よほど相手が悪質でなければ、ね。
相手のために、ジョンくんがブチ切れていないことを祈ろう。
「スーたちにも当分こっちにいることを伝えないとな」
『そうですね。 工房街に行かれますか?』
僕は頷く。
王都のドワーフ街は人族の工房街の地下にあり、その一角に出入り口がある。
そこはドワーフか、ドワーフに招待された者しか入れないようになっているそうだ。
工房街にある飲食店にはドワーフたちが出入りしている店があり、僕たちはそこを利用して連絡を取り合っていた。
サンテたちに訊ねる。
「辺境の町に帰るなら、今のうちにお土産とか欲しい物を買いに行くか?」
工房街は市場や商店街に近い。
ついでに寄れる。
「いいの?」「お買い物、行きたい!」
皆で行けば安全だろう。
「イブさんとゼイフル司書さんはどうしてる?」
『おふたりは毎日、教会本部にお手伝いに行ってます』
御神託の公布により、さらに教会に訪れる人が増えた。
そりゃ、エルフだの守護の幻獣だのが居ると分かれば一目見たいよな。
でも、当たり前だが非公開になっている。
『国王陛下との面会は予定されているそうですよ』
だろうな。
王宮としては確認しなきゃならんだろう。
宰相辺りも同行しそうだ。
「僕にまで呼び出しが来なきゃいいけど」
おっと。 これは口に出しちゃいけなかったか。
教会に関しては、もう一つ。
「イブさんの件はどうなったの?」
色々嫌がらせとかあると聞いていたが。
『イブさんにはアダムが付き添っていますから誰も文句は言えないんじゃないでしょうか』
いくら陰口を叩いても、実際に精霊が彼女を特別扱いしているのは一目瞭然で、ぐうの音も出ない。
すっかり静かになったそうだ。
『それで、イブさんの弟子になりたいという希望者まで現れたそうです』
ギョッ、もしかして、その話ってこっちに来るのか?。
『そのうち来るでしょうね』
僕は頭を抱えた。
しかしまだ話が来たわけではないので、明日は買い物に出掛けることにする。
「サンテ、ハナ。 欲しい物や必要な物があれば、紙に書き出しておいて」
それにより立ち寄る店が変わる。
「はーい」
双子は元気に答えると部屋へ戻って行った。
キランにも辺境の商会に王都で仕入れて欲しい物がないか、確認するように頼んだ。
「それとバムくんにも声を掛けてあげて。 お土産だけ先に送ることも出来るから」
「承知いたしました」
僕も何か買おうかな。
翌朝、朝食が終わる頃にティモシーさんが部屋に来た。
「元気になったようだね、アタトくん」
「ハハハ、ご心配をおかけしました」
ティモシーさんもしばらくは教会の手伝いに駆り出されて泊まり込んでいたが、昨夜は戻って来れた。
僕の体調も気にしてくれてたみたいだ。
「もういいのか?」
「はい。 今日は買い物がてら、工房街に行く予定ですが。 ティモシーさんは?」
何も用事が無いなら、と誘うと頷いた。
「市場に寄って出店の様子を見て来いと、父に頼まれてますしね」
そう言って頷いた。
玄関に横付けの馬車は、辺境地伯家の6人乗り馬車と馬が2頭だった。
「今日は目立たないほうが良いでしょう?」
と、キランが微笑む。
御者も辺境伯の領兵が担当し、僕たちが買い物をしている間は馬車溜まりで待機になる。
「夕食までには戻る予定です」
家令さんに伝えて馬車に乗る。
「お気を付けて、行ってらっしゃいませ」
僕、双子、キランにティモシーさん、そしてバムくんである。
今日の僕は人間に擬態し、モリヒトは黒メガネで気配を薄めている。
連れも全員、平民用だが余所行きの服装だ。
まずは魔道具店に着いた。
バムくんは立派な店構えに気後れしたようで馬車に残るという。
「こんにちは、お久しぶりです」
前回、色々とお世話になった店舗前警備のおじさんに声を掛ける。
「えっ?。 ああ、辺境伯家のお坊ちゃん!」
お坊ちゃんではないけどね。
「いらっしゃいませ、どうぞ中へ」
「ありがとうございます」
おじさんは可愛い双子を見てほっこりと笑っている。
「いらっしゃいませ!」
今日はしっかりと店員たちの出迎えを受ける。
「こんにちは。 辺境伯へのお土産など色々見たいので、よろしくお願いします」
「はい。 心を込めてお選びいたします」
目を輝かせる双子にはティモシーさんに付いてもらう。
キランは商会に必要なものを見繕い、店員と交渉。
僕は何故か、別室で責任者と商談である。
「あのぉ、アタト様でいらっしゃいますよね?。 アタト商会の」
おや。
「どこからそれを?」
「はい。 ヤマ神官様からでございます。 辺境伯の王都邸に滞在されているお子様と」




