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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百四十二話・これからの王都の教会


『ふむ』


水の精霊が白いエルフに訊ねる。


『何かコヤツらに言いたいことはあるか?』


人間に対する恨み辛みは多いだろう。


今、何かを正したいなら御神託という形で残せる。


だが、白いエルフは首を横に振った。


「私はもういい。 アタトが全部やってくれた」


過去を正すにはもう遅過ぎる。


王都生まれのエルフは、もう彼女しか残っていないのだから、と。




 へっ?、あれだけで気が済んだのか。


僕を王都まで呼び出したのは、なんだったんだよ。


「じゃあ、これからどうするんだ?」


僕は少しイラッとして訊ねる。


新しい土地に興味はないとは聞いたが。


 白いエルフは虹蛇を見上げた。


「王都の地下は住みやすいですか?」


僕はギョッとした。


「何を言ってるんだ。 地下に住む気か?」


また暗闇に戻る気なのか。


「そうね、それもいいかも知れないわ」


バカか。


ヤケクソにもほどがある!。


老魔術師が王宮から連れ出した意味がなくなるだろう。




 エルフは森の民だ。


木や植物、陽の光。


美しい自然に囲まれて生きる、神様の美しいお気に入り。


それがこの世界のエルフの誇りだ。


老魔術師は、あの異空間で彼女にそれを取り戻してやりたかったんだと思う。


鳥籠のような狭い空間ながら、陽の光と緑に溢れ、老魔術師の魔力の中。


いつか体を癒し、エルフの魔力を取り戻せるようにと整えられた優しい場所。


「あの空間で過ごした日々をなかったことにするつもりなのか」


暗闇に戻るということはそういうことだ。


長く生きるエルフにとって、老魔術師と過ごした日々は僅かな時間。


泡沫の夢のように、目覚めたら忘れてしまう。


「……」


白いエルフは俯いたまま答えない。


『そこまでにしてやってくれんか』


水の精霊が彼女を庇う。


うっ。 彼女を責めるつもりはなかったけど。


「すみません」


なんだか、老魔術師を哀れに思ってしまったんだ。




 王宮の底で拾った世間知らずの美しい白い娘。


いつか鳥籠から飛び立つ日を、老人は待ち侘びていたはずなのに。


「とうとう最後まで手放せなかったな」


僕のため息のように溢した呟きに、返答する声が聞こえた。


「何の話?」


え……、何故かサンテが横にいた。


「どうしてここに?」


「アタトもおねえちゃんセンセーもなかなか来ないから見に来た」


それは、サンテたちが虹蛇を怖がるかと思って。


「怖くないのか?」


サンテは巨大な蛇を見上げる。


「水の精霊なんでしょ?。 精霊の本体は光の玉だもの。 怖くないよ」


鑑定か。


あまり外ではやるなって言ってるのに。




「姿形が怖くても中身は優しいのは知ってる」


まあ、僕の傍にはモリヒトをはじめドワーフや魔獣やら色々いるから、大きくても抵抗はないんだろうな。


しかし、サンテ、優しくはないぞ。


「主人を持たない精霊は気紛れで好戦的だ」


そっと教える。


「そうなの?」


サンテは虹蛇を見上げて問う。


『気紛れなのは本当だが、短気なのは一部だけじゃな』


えー、そうかなあ。




 蛇の顔が笑ったような気がした。


『少年はどうしたいかな?』


サンテに顔を近付ける。


「エルフのおねえちゃんがひとりなら一緒に辺境地に行こうって言おうと思ってた。 でも水の精霊様がいるなら大丈夫かな」


白いエルフはサンテを抱き締めた。


「ごめん、ありがとう。 私はやっぱり王都が好きなの」


「うん、分かったよ。 また会いに来ていい?」


「勿論よ。 ハナとふたりで、いつでも」


はい。 いい場面ですが介入させて頂くよ。


「エルフのおねえさん。 これからあなたはどこに住む予定ですか?」


双子に会いに来いというなら場所を特定しろ。


「えーっと、ここにいるわよ?」


僕は片眉を上げ、顔を顰める。


「はい?。 もしかして、老魔術師の結界を出てからずっとここに?」


白いエルフはコクコクと頷いた。


マジか。




「水の精霊様は、ずっとこの女性エルフに付き合う気でしょうか」


気紛れな精霊がそんなことするはずない、と分かっていても訊かずにいられなかった。


『そうじゃな。 しばらくの間、一緒に過ごしてきたが』


蛇の頭が白いエルフに向く。


『気に入っておるよ』


僕はチラリとモリヒトを見る。


視線に気付き、モリヒトは僕に頷き返す。


『あれは、いずれ眷属になるでしょう』


精霊が気に入ったということは、そうなる可能性が高いらしい。


お互いに長寿というか、これからの長い長い時間を一緒に過ごし、いつか白いエルフの魔力が満ちたなら。


そうか。 そういうこともあるんだな。




 僕は、ずっと黙って成り行きを見守っていた教会関係者に向き直る。


「司祭様、神官長様。 御神託を発表しましょう」


「何をだね?」


神官長は冷静に問うてくる。


「教会本部では、この度、神の御遣いとして女性のエルフを迎えると」


そして守護者である幻獣虹蛇の姿をした水の精霊共々、教会の庭の一部に居を構えて頂く。


敷地は無駄に広いんだから、少しくらい提供すればいい。


水の精霊なら好きなように住処を作れるだろうしな。


なんならモリヒトを貸すよ。


「え、私、このままここに居てもいいの?」


教会関係者は「それは構わない」と頷く。


エルフを保護することは宣伝にもなるし、王宮への牽制にもなる。


『ふむ。 ワシも構わぬ。 後ほど条件は付けさせてもらうが』


決まりだな。


教会や国が無茶を言い出しても、この水の精霊がいる限り守ってくれるだろう。


「なるほど。 素晴らしい御神託です」


ヤマ神官はホクホク顔である。




 この後、水の精霊と白いエルフの住処について、話し合いが行われることになった。


植物や建物の移動にモリヒトが協力を申し出る。


 少し疲れたな。


『アタト様、別室で休憩されますか?』


モリヒトが訊いてくる。


「そうするか」


本当は辺境地伯邸に帰れるものなら帰りたいけどな。


「別室にいますから、何かあれば呼んでください」


そう声を掛けて廊下に出る。


モリヒトの代わりにアダムが付き添ってくれた。


サンテがついて来たので、一緒に別室に向かう。


「アタト、顔色が悪い気がするけど」


「大丈夫だよ」


『我に乗って行くか?』


いやいや、アダム。 今のアンタは馬の姿してないからな!。



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