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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百四十一話・葬儀の花と別れ


 僕は水の精霊と女性エルフにお願いして、老魔術師の葬儀を行うことにした。


隔離していた部屋にいた者と、教会関係者からは偉い人だけを呼ぶ。


御神託の真実を知ってもらう必要があるからだ。


葬儀の間、水の精霊には白いエルフと一緒に姿は消してもらうことにする。


「これをどうぞ」


グレイソン神官が、急いで教会の庭から花を摘んできてくれた。


「ありがとうございます」


高位貴族家出身にしては気が利く若者だ。


サンテに渡し、棺の中に添える。




「爺ちゃんセンセー、ハナにも会わせてやりたかった」


涙を堪えたサンテがボソリと呟く。


んー、「どうする?」と、僕はモリヒトをチラリと見る。


ため息を吐かれた。


『仕方ないですね。 少し時間を稼いでください』


そう言うとモリヒトは消えた。




 僕はこの世界の葬儀を初めて見るので、ヤマ神官に色々と質問する。


「平民の家で亡くなった場合はすぐに教会に届けてもらうようになっています」


誰でも自分の近くに魔素溜まりを発生させたくないので、周りがきちんと知らせてくるそうだ。


駆け付けた神官、または魔道具を持った見習いが、ご遺体からの魔力漏れを止め、棺が届くまで家人が監視。


棺が埋葬された墓所には必ず管理人がいて、魔力の消失を確認して回っている。


魔素が溜まると大変なので墓所の管理は土地の領主が行う。


王都なら勿論、国王の責任になる。




 棺は専門の魔道具師が常に在庫を確保していて、依頼が来たら魔法陣を刻む。


棺の蓋に魔力吸収、底には腐敗促進の魔法が付与されている。


これが大変貴重な魔法らしく、公開されていない。


「あれ?、腐敗促進だったら闇魔法にもあったような……」


僕はギリギリ、口には出さなかった。


危ない危ない。




 祭壇の前、神殿長がまるで歌うように神への言葉を紡いでいく。


もしかしたら、正式な葬儀の場なら何か楽器でも使うのかも知れない。


ヤマ神官がムズムズしてるからな。


 この部屋には現在、王都教会関係者が神官長、ヤマ神官、警備隊長、司祭、グレイソン神官の6名。


僕関係はイブさん、ゼイフル司書、サンテ、バムくんと領兵で5名。


そして僕と眷属精霊。


「あれっアタト様?、お兄ちゃん!」


そこへハナが到着し、サンテの元へ駆け寄る。


「ありがとう」


モリヒトにこっそり言うと、静かに頷いた。


「うわーん、おじいちゃーん」


僕はしばらくの間、双子の嗚咽と立会人たちの鼻水をすする音をぼんやりと聞いていた。




「この後、普通であれば墓所へ棺を埋葬するのだが」


神官長の言葉に僕は一歩前に出る。


「申し訳ありませんが、長年生活を共にしていたエルフ様のご希望で、棺はここで消滅させます」


室内が騒めく。


「どうやって?」


グレイソン神官が声を上げる。


「棺の魔法陣に魔力を流して一気に魔力を抜きます」


嘘である。


神官たちは驚いているが、エルフなら可能だと思わせればいい。


実際はサンテのスルスルに頼んで遺体から魔力を抜く。


「サンテ」


僕は小さな声で、スルスルにお爺さんの魔力を吸わせるように頼んだ。


「いいの?」


「ああ」


最強の魔術師と呼ばれた老人も、亡くなればもう魔法を使うことはない。


「ああ。 遠慮なく一気にやってくれ」




 サンテは「最後の別れ」だと言って、老人の遺体の胸の辺りに片手を置く。


僕は他の人たちからサンテの手元が見えないように、さり気なく壁になる。


サンテが小さくスルスルを呼ぶと、袖口から触手が伸びて亡骸に張り付く。


少し時間は掛かったが、遺体から魔力の消失を感じる。


ヤマ神官に確認をお願いすると、棺を覗き込み、頷く。


後は肉体の消滅だけだ。


 双子を棺から離す。


「アダム」


『はい』


周りが偉い人ばかりだと分かったのか、カッコつけながら僕の所まで来た。


「ご遺体が消えて魔素に変じたら、風を起こして室内から建物の外へ撒き散らせ」


『承知』


そう言って軽く腰を折る。




 僕は一度室内の人間たちを見回す。


「では、棺の底にある魔法陣を発動させ、肉体を魔素へと戻します」


この世界では、生き物すべては魔素から生まれ、魔素に還ると言われている。


蓋をした棺を前に、アダム以外はなるべく後方へと下がってもらう。


『結界を張ります』


モリヒトが参列者の前に防御と防音の結界を張った。


これでぼんやりとしか見えないはずだ。


 大きく深呼吸をする。


この棺には魔法陣など無い。


僕の闇魔法で消滅させる。


水の精霊は「ごく一般的なもの」だと言っていたし、素材の魔力はすでに抜いた。


両手を棺に向けて伸ばす。


「神の慈悲をもって乞い願う、この棺と中身を燃やし尽くせ」


僕の手から黒いモヤが出て、棺を覆う。


一瞬クラリと意識が飛ぶ。


「アダム!」


『おうっ』


強い風が部屋に吹き荒れ、収まった時には目の前には何も無かった。


ふう、終わったな。



「皆さん。 よろしければ別室でお茶でも如何ですか?」


グレイソン神官が休憩を提案する。


「お手伝いいたしますわ」


イブさんが申し出てくれた。


「先に行っててください」


僕はまだやる事がある。


「はい」


イブさんは双子を連れ、護衛と共に出て行く。


 部屋に残ってるのは神官長、ヤマ神官、警備隊長、ゼイフル司書。


司祭は念の為に居てもらう。


「今回の元凶、いや、御神託を下ろした本人をご紹介いたします」


棺の前で僕は礼を取る。


「白いエルフ様、水の精霊様」


僕の両隣に白いマントの女性エルフと虹蛇の姿をした水の精霊が現れた。


「もういいの?」


『ワシもいいのか?』




「ヒッ」


声を上げそうになったのはゼイフル司書だけ。


後はすぐに跪いた。


「こちらがサンテのセンセーのひとりである王都生まれのエルフさんと、幻獣虹蛇の姿をしている水の精霊様です」


僕が紹介すると神官長が真っ直ぐに顔を上げた。


「初めてお目にかかります、この教会の責任者でございます」


虹蛇がゆっくりと頷く。


『神託の件、ワシの手違いじゃ。 許してくれ』


「申し訳ございません。 今、教会は御神託を賜るためとして封鎖しています。 この際です。 何かご指示を頂けませんか」


さすが、ヤマ神官。


相手の失敗は見逃さない。



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