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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百三十八話・教会の奥にあるもの


僭越せんえつながら、お伝えさせていただきます」


若い神官は名をグレイソンという。


「先ほどの部屋は教会と外部とを繋ぐ通路に一番近い場所にあります」


教会の奥には外部と繋がる移動魔法陣が設置されていて、司祭や王族が出入りするための専用の通路になっている。


御神託が降りて来た時、すぐに司祭を呼びに行ける体制になっていた。


 グレイソン神官は高位貴族家の三男だそうで、僅かながら光属性の魔力が認められて教会に入った。


家のお蔭で修行を免除されたクチらしい。


その特権により、貴族出身の上司には逆らえないことが多く、彼はずっと司祭の世話係をやらされていた。


まだ若いのにご苦労なことだ。




 僕は単純な疑問をぶつける。


「神官長様は御神託のことはご存知でしたか?」


「いや」と、怖い顔を横に振る。


司祭は普段教会にはおらず、神官長は多忙。


あまり接点はない。


「つい先日ですが」


僕のところに呼び出しの手紙を出したと思われる日付。


ヤマ神官は、差出人になっていたが中身までは知らなかったという。


『ヤマ神官の魔力ではありませんでしたが、教会からの特別便でしたので』


モリヒトも顔を顰める。


司祭なら出来る仕業だ。


ヤマ神官は勝手に名前を使われても苦情を言えるような立場ではない。


なにせ相手は高位貴族の司祭様だから。




 御神託の話をしなくては。


「僕を神の御遣いだという話ですが」


何故か、教会関係者一同がお互いに顔を見合わせる。


「それは、そうなのかも知れないと思っていたよ」


ヤマ神官がそんなことを言い出す。


「ハッ、あり得ません」


全くもって、完全に、しっかりと否定する。


モリヒトに確認してもらえば良い。


精霊が否定すれば、すなわち神の意思ではないということだ。




「しかし御神託です」


訴えるグレイソン神官に、僕は首を横に振る。


「司祭様のご様子を見るに、何かに取り憑かれていたように見えます。 そんな状態では、まともな御神託など受け取れないでしょう」


「むう」と、グレイソン神官が黙り込む。


問題は『取り憑いたモノ』がナニか、だ。


「アダム、ソイツは今どこにいる?」


『うーん。 気配を消しているね』


ハリセンに驚いて司祭の体から離れたのはいいが、どこに潜んでいるか分からない。


『でもさ』


アダムは隣に立つモリヒトを見た。


『大地の。 あんたなら見つけられるんじゃないの?』


どういうこと?。


『建物というのは一種の結界だ。 大地の精霊は物質的な結界の専門家。 風の精霊である我は動き流れるものを操れるが、動かぬものは掴めぬ』


なるほどな。


開けた場所ではなく、閉ざされた空間なら探しようはあると。




 扉が叩かれた。


ザワザワとした気配は察していたが、ここは毎日たくさんの人々が祈りに訪れる。


「あの、アタト様に早急にお会いしたいという少年が。 辺境伯家の兵士が付き添っていらっしゃいます」


サンテが?。


「こちらに連れて来なさい」


ヤマ神官が答え、連絡係が頭を下げて出て行った。


 まもなくサンテとその護衛2人がやって来る。


「アタトー、ううっ」


サンテが抱きついて来た。


「サンテ、どうした」


しかも泣きじゃくっている。


「セ、センセーが……うわーっ」




 バムくんが僕の傍に来て話してくれた。


「実は、その、サンテのセンセーって人が亡くなってて」


サンテたちが到着した時、結界の入り口が閉まっていたので周辺を聞き回ったところ。


「先日、入り口があった場所に老人が現れて、そのまま倒れたそうです。 すでに亡くなっていたと」


領兵が説明する。


そうか。 高齢だったからな。


「サンテ」


僕は抱き付いているサンテの背中をポンポンと叩く。


人間の生死に関しては仕方ない。


運命だと思って諦めるしかないんだ。




「そんで、近所の人の話じゃ、天使みたいなのが出て来て、その遺体を抱いてどっかに行ったって」


今、なんて。


「天使?」


「へえ。 オイラにゃよく分かんねえけど。 えらく白くて、きれーな天使みてぇな女の人が現れて」


王都のエルフか。


「教会に行ったんじゃねえかって」


ドクンッと心臓の音がした。




 天使、教会。


「ヤマ神官、死体が運び込まれた形跡は?」


「いや、聞いたことはない。 それはいつの話かね」


近所の人の話はあやふやだが、どうやら御神託のあった日の少し前くらいだ。


「そういう者が出入りすれば騒ぎになりますので、すぐに分かります」


警備隊の隊長も首を横に振る。


 そういえば、あのエルフはモリヒトの結界を難なく破っていた。


教会本部の結界が強固でも、手薄な場所からの侵入は可能だ。


正面から入る必要はない。




「エルフは気配を消すのが得意です」


僕は苦手だが、普通のエルフは狩猟のため気配を消して獲物に近付く。


「アタトくんの知り合いかね?」


司書さんが訊いてくる。


「あのエルフのおねえさん?」


サンテが顔を上げ、僕を見る。


僕は頷いた。


『サンテのセンセーは2人いました。 ひとりはご高齢の元宮廷魔術師。 もうひとりは、それよりも遥か何百年も昔から王都で生きていたエルフです』


「エルフだと!」


司祭も神官長も、部屋にいる全員が驚き、ポカンとしている。




「説明は後だ。 モリヒト、探せるか」


『建物と地面の中でしたら探れます』


僕はサンテをアダムに預ける。


「アダム」


『ん?、なに』


「ここにいる皆を守れ。 彷徨っている何かが近付いて来たら遠慮なくぶっとばせ


『ふふふ、承知した』


皆に頭を下げた。


「すみません、皆様にはご迷惑をお掛けします」


そして。


「ティモシーさん、隊長さん、人々を一時的に外に出して教会を閉鎖出来ませんか?」


アダムにはがんばってもらうが、一般の人たちまで守れるかは分からない。


「それなら、御神託が降りると発表して教会を一時閉鎖すればよろしいかと」


グレイソン神官は冷静だ。


「ふむ、それは良い。 すぐに公布しよう」


神官長が見習いや警備を連れて急いで出て行く。


「私も手伝って来るよ。 アタトくん、また後でな」


ヤマ神官も僕の肩を叩いて部屋を出て行った。


「後の方は出来るだけ部屋から出ないでください」



 そして、僕は扉に向かう。



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