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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百三十七話・教会本部の司祭と神官長


 モリヒトが客用カップを人数分取り出して床に並べ、水筒から薬草茶を注ぐ。


『アタト様、どうぞ』


「ありがと」


ちょうど良い温さだ。


モリヒトはヤマ神官と隊長にもカップを差し出し、司祭にも手渡した。


「あ、ありがとう」


司祭はおそる口を付けたが、喉が渇いていたのか、すぐに飲み干す。


「お代わりをもらえないか」


『はい』


モリヒトは無表情で薬草茶を注いだ。



 

 結局、アレはなんだったんだ。


アダムの報告の中身の無い人が司祭だったことしか分からなかった。


僕を教祖にしたがってるのか?。


まさかな。


それでも、それを先導した何かが居るということだけは分かる。


「イブさんたちは来てる?」


『はい。 到着はしています』


さすがに王都の教会本部は王宮並みの結界がある。


内部に入ったことは分かるが色々と障害があって、詳しい位置までは不明だ。


「しかし、集まっていた神官たちに悪意はなかったんだよな?」


『はい。 アタト様に対しては特にございませんでした』


それが分からない。


僕を吊し上げるのが目的じゃなかったのか。




 バタバタと廊下から足音がして、扉が開く。


「アタトくん!」


駆け込んで来たのはティモシーさんだった。


「はい、無事です」


手を上げて応える。


バラバラとイブさん、ゼイフル司書も入って来た。


「良かったー」


涙目になるイブさん。


「そっちこそ、大丈夫でしたか?」


僕が訊ねるとイブさんとゼイフルさんが顔を見合わせる。


「それが」


受付に蔵書室の見学を申し出て待っていたら、神官たちに取り囲まれたそうだ。


『我は我慢したぞ』


鼻息荒くアダムが言うには、やはりイブさんを攻撃する輩がいた。


口々に不満を言うのでゼイフルさんは「ここではなんだから」と、彼らを神官長室に連れて行ったらしい。


「実は今の神官長は私の知り合いなのです」


ゼイフル司書はそれを利用した。


えっ、気軽にそれが出来るの?。


やっぱり只者じゃないな、この人。




「でも、その神官長が味方とは限りませんよね?」


僕がそう言えばアダムが不機嫌になる。


『アレは中立だぞ。 ちゃんと紙に書いた』


あのな。 名前だけじゃ分からんのよ。


「その神官長のお蔭で解放してもらえたよ」


神官長室に向かっている間にひとりふたりと脱落し、到着した時には誰もいなかったらしい。


ゼイフル司書は微笑み、イブさんはウンウンと頷く。


「お優しい方でした。 顔は怖かったですけど」


神官長室にいたら若い神官が呼びに来た。


何かあったのでは、と皆で駆け付けたと言う。




「お待たせいたしました」


「失礼する」


若い神官と一緒に、その神官長が入って来る。


僕たちは立ち上がり礼を取る。


「そなたがアタト殿か」


おー、イブさんの言う通り顔が怖い。


なんていうか、悪人顔である。


これで神官なら見た目でかなり苦労したんじゃないかな。


『いえ、私は眷属精霊です。 主人のアタト様はここに』


あー、そっちだと思うよねー。


モリヒトに話し掛けた神官長が目を丸くして僕を見る。


僕はモリヒトに背中を押され、前に出た。


「初めましてー」と棒読みの挨拶をする。


ギロリと睨まれると、悪人ではないと分かってても普通に怖い。




 すると、神官長は膝立ちになり僕と目線を合わせた。


「失礼いたしました。 アタト殿、お噂は予々(かねがね)伺っております。 常日頃からご協力を頂き、心より御礼申し上げます」


へ?。


「こいつは、こういう奴なんですよ」


ゼイフル司書が苦笑する。


顔は怖いが気は優しい。


見た目がこうなので、礼儀や言葉遣いはかなり気を付けているそうだ。


僕は少しホッとした。


じゃあ、僕を呼び出したのは、やはりあの司祭に取り憑いていた何か、なのだろうか。




「あの、部屋をご用意いたしますので、移動されませんか」

 

若い神官が恐る恐る提案する。


この人、前はこんなにオドオドしてなかったと思うんだが。


「すみません、ここは何の部屋なんですか?」


イブさんが訊ねる。


ここが教会で何に使われる部屋なのか気になったようだ。


教会の奥にあり、あまり人が通らない場所。


室内はそんなに広くないが、きちんと浄化されていて、祭壇は質素だが古く歴史を感じさせる。


「ここは御神託を賜る時に使う部屋です」


若い神官が答えた。


そういうこともしっかり把握している彼は、やはり優秀な神官なんだろう。


前回も今回も高位貴族である司祭の傍にいることから、貴族家出身であることが伺われる。




 他はこんな奥まで滅多に来ない者ばかりなので、皆、キョロキョロと室内を見回している。


「それで、司祭様。 御神託のことなんですが」


ヤマ神官に声を掛けられた司祭はビクッと体を震わせた。


なんて気が弱いというか、臆病な方なんだろう。


「わ、わわ、私は何も知らん」


ヤマ神官は若者の方を見た。


「少し前に司祭様から呼び出しがありまして、この部屋で御神託を受けました」


皆、興味津々で彼の言葉を待つ。


「お話しますので、とにかくこの部屋を出ませんか」


本人がサッサと廊下へ出てしまったので、僕たちは後を追うしかなかった。




 会議室のような部屋に入る。


ヤマ神官に付いていた神官見習いが、お茶やお菓子を運んで来た。


「どうぞ、お座りください」


若い神官に促され、僕は適当に座る。


それを合図に皆が好きな場所に落ち着いた。


僕の後ろはモリヒトが立ち、長方形のテーブルの向かいに神官長が座った。


司書さんが僕の隣にイブさんを座らせ、自分はその隣に座る。


イブさんの後ろにアダムが立ち、モリヒトと並ぶ形になった。


神官長の隣に隊長が座ると、ティモシーさんがその後ろに立つ。


後の護衛と見習い神官は扉の側に並ぶ。


テーブルの上座に当たる席に司祭が座り、その横に若い神官が立ち、挨拶する。


「私のような者の指示に従って頂き、ありがとうございます」


「構いません、よろしくお願いします」


神官長が穏やかに話す。


僕も頷き、「お願いします」と軽く会釈した。


モリヒトとアダムにはわざと結界を張らず、何かが侵入したら、この部屋に閉じ込めるように伝えている。


さて、何が来るんだろうか。



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