第四百三十六話・教会の思わぬ対応
僕は思わぬところで味方を得ていたらしい。
「ふふっ、あれはアタト教信者というものですな」
ヤマ神官。 笑ってるけど、これは神に対する冒涜ではないかな。
僕はそんなモノの教祖になった覚えはない。
王都の教会は無駄に広い。
先頭はヤマ神官の従者である見習い2人。
その後にヤマ神官が続き、僕とモリヒトが最後尾である。
ティモシーさんには念の為入り口に残ってもらい、イブさんと司書さんの護衛をお願いした。
長い廊下を歩いて迷子になりかけた頃に、派手な扉に到着。
どこかで見たことがある顔が扉の前に立っている。
「お久しぶりです。 警備隊長様」
高齢の教会本部警備隊長と、その部下だ。
しゃっきりとした老騎士である隊長さんには前回世話になった。
引退すると言っていたが、どうやら引き留められたようだ。
「エルフ殿、再びお目に掛かれるとは光栄でございます」
恭しく礼を取る。
「えっ。 止めてくださいよ、隊長」
僕はそんな大物じゃない。
「ハッハッハ、エルフ殿は変わらんなあ」
「あれからまだ1年も経ってないですよ」
「いやいや、商会を起こしたと聞いたぞ。 かなり手広くやってるらしいじゃないか」
「はい、お陰様で。 辺境地にいらっしゃる時はご贔屓に」
お互いに笑顔で雑談に興じていたら、内側から扉が開いた。
「すみません、早くお入りください」
顔を出したのは見覚えのある若い神官だった。
ああ、前の司祭の部下をしていた男性だ。
「お久しぶりですね」
挨拶してみるが、何だか顔色が悪い。
「はあ、どうも。 とにかく、お入りください」
目を逸らされてしまった。
あの時の司祭は犯罪者として捕まり、処分されたと聞いた。
でも、この若者は降格されなかったみたいだな。
中に入ると、神官服の男性たちが10名ほど左右に並んでいる。
その真ん中を通り、一番奥の祭壇に向かう。
ヤマ神官が立ち止まり、神像に向かい膝を付いて礼を取る。
僕も真似をしたら、何故か周りからザワザワと声が上がった。
ああ。 エルフがそんなことするとは思わなかったと?。
別に神を信じていなくたって礼儀で挨拶くらいはするさ。
若い神官に案内され、一段高い教壇のような場所に立たされた。
一応椅子は用意されているが、僕の分だけだ。
モリヒトは僕の後ろに立っているが、ヤマ神官は段の下にいる。
前を向くと、先ほど並んでいた神官たちが僕を見て跪く。
これはどういうことだ?。
ひとりの男が前に出て来た。
「私は司祭オールグォー。 エルフ、アタト様を歓迎いたします」
なんだ、コイツ。 気持ち悪い。
やけに煌びやかな司祭服。
高位貴族のはずだから、それはある程度仕方ないのか。
「モリヒト、ここにいる者はまともなのか?」
こっそり小声で訊く。
『禍々しい気配はありません』
そうなの?。
僕はオールグォーと名乗った司祭に向き直る。
「僕を呼びつけた理由を教えてください」
僕は混乱していた。
本当になんなんだ、これは。
「私は御神託を授かったのです」
は、なんだって?。
僕は驚きヤマ神官を見るが、彼は首をブンブンと横に振る。
ヤマ神官が司祭に訊ねる。
「司祭様、そのような話は初めて聞きました。 御神託は必ず神官長も立ち会うはずですが」
「神官長か。 あれは使えぬ男じゃ」
司祭はそんなに高齢でもないのに言葉遣いがおかしい。
さらにヤマ神官は問いかける。
「どのような御神託だったのでしょうか」
「それはアタト様に申し上げる」
司祭オールグォーはまるで夢を見ているような顔で僕を見ている。
キモッ。
「先日、私の前に崇高な天使が舞い降りたのです」
天使、そんなのいたか?。
モリヒトを見るが首を傾げている。
「その天使が御神託を?」
「はい。 左様でございます」
そして、司祭は思わぬ言葉を口にした。
「神の御遣かいであるエルフ、アタト様に従うようにと」
おかしいおかしいおかしい。
「馬鹿馬鹿しい」
僕はドザリと椅子に座る。
「ソイツは神の御信託なんかじゃないですよ」
室内は騒めくが、神官はかまわず僕に近寄って来た。
「いえ。 天使様はアタト様こそ、この世界を救う神の御遣かいだと」
にじり寄る司祭が僕の服の裾を掴み今にもそこに口付けしそうになった。
パーンッ!
モリヒトのハリセンが炸裂し、司祭が吹っ飛んだ。
「ヒィーッ」
あたふたと神官たちが司祭に駆け寄る。
僕はビックリして体が固まってしまった。
「司祭様、大丈夫ですか?」
跪き様子を見ている補助の神官に、ヤマ神官が声を掛けた。
「はい。 傷は見当たりません」
どうやら無傷のようだ。
まあ、ハリセンだしな。
「う、うーん」
司祭オールグォーが体を起こす。
「ここはどこだ?」
はあ、正気に戻ったか。
ヤマ神官が声を上げる。
「皆様、本日はオールグォー司祭様の体調が優れないため、解散といたしましょう」
ニコニコと微笑みながらヤマ神官は司祭に近付き、顔を覗き込む。
「よろしいですね、オールグォー様」
「あ、ああ」
司祭はぼんやりした顔のまま、ヤマ神官に頷く。
これが、中身の無い人か。
何かに操られていたわけだ。
部屋に残ったのは、僕とモリヒト、ヤマ神官とポカンとした司祭。
そして司祭の補助役の若い神官である。
「あ、ああ。 何故、私はまたこんな目に」
座り込んで、さめざめと泣いている。
とにかく落ち着こう。
僕がドカリと床に座ると、ヤマ神官も隣に腰を下ろした。
「ハア」
モリヒトに頼んで、一つだけある椅子に司祭を座らせた。
「いったい私は何を……」
「オールグォー司祭様、少しお待ちください」
ヤマ神官はそう言うと、若い神官に声を掛ける。
「申し訳ないが、神官長をここに呼んできてもらえないか」
若い神官は健気に涙を拭った。
「はい、畏まりました」
ヨロヨロと立ち上がると部屋を出て行く。
代わりに警備隊の老隊長が入って来た。
「ありゃどうしたんじゃ。 護衛を付けてやったが足元がフラフラだぞ」
「知りませんよ」
僕は投げやりに答える。
隊長も傍に来て座った。
「で、何があった」
隊長の問いにヤマ神官が答える。
「それが、我々にも分からんのです」
僕も肩をすくめた。




