第四百三十三話・子の気持ちと父親
サンテの事情はだいたい見えてきた。
後は父親と、子供を探している身内だという人物の情報か。
「もし父親が生きているとしたら?」
思考に沈んでいたせいで、僕は思わずボソリと声が出た。
「アタト、おれの父さんのこと?」
くそ、聞かれたか。
「いや、別にそういう意味じゃないよ」
必死に誤魔化すが、サンテは僕なら何か知っていそうだと食い下がる。
「今、モリヒトが調査中なんだ」
サンテたちは僕にとっても大切な身内だから、不都合がないように調査していると話す。
「うん。 そうだよね。 おれ、怪しいし」
俯いてしまうサンテの頭をイブさんが撫でる。
「何を言ってるんですか、サンテくん。 アタト様はあなたを守るために調べていらっしゃるんですよ」
危険な身内がいた場合、早いうちに警戒しておかなければいけない。
うっかり近寄ったり、関わったりしないように気を付けるために知っておきたい。
「そういうことだ」
「そか。 分かった」
サンテは少し嬉しそうに微笑んだ。
『おや、修行中でしたか。 失礼いたします』
モリヒトが戻って来た。
「ひゃあ」
突然現れたのでイブさんが驚いて声を上げる。
サンテは慣れているので無反応。
「お帰り」
『ただいま戻りました』
モリヒトは僕が淹れたお茶を見て顔を顰める。
『お茶を淹れ直しますね』
はい、どうぞどうぞ。
僕は自分の道具を片付けて場所を空ける。
「あ、そっちはもう少し続けて。 休憩してからまたやろう」
片付けようとしたイブさんを止める。
「あ、はい」
サンテもまだ書き上がっていないので頷いた。
モリヒトが淹れてくれたお茶を飲む。
濃い緑茶に王都の甘いお菓子付き。
辺境伯家からの差し入れだ。
「このケーキ、砂糖を入れ過ぎじゃない?」
不味くはない。
ただ、僕の舌はだいぶ辺境地の甘味不足の味に慣れたみたいで、王都の菓子は甘過ぎる。
「貴族向けの高級な菓子店は、だいたいこんな感じですよ」
イブさんに言わせると、皆同じらしい。
見かけがとても綺麗なので女性たちには人気があるそうだ。
「おれたちは王都じゃ、あんまり食ったことないから」
サンテはバクバクと遠慮なく食べる。
「でもヨシローさんの店のケーキのほうが美味しい」
お前、散々食べておいて何を言う。
「そんなに美味しいのですか?」
イブさんが上品に口に運びながら訊く。
「うん!、コレより絶対に美味しい」
サンテ、やめて差し上げろ。
辺境地の店のほうが美味いと聞いたら、王都邸の人たちが泣くぞ。
さて、お茶休憩の後、もう一度気を引き締める。
「サンテ、書けそうか?」
「うん。 もう大丈夫だと思う」
そか、がんばれ。
僕はモリヒトを呼び、部屋の奥にある寝室に移動する。
自分で盗聴避けを張った。
『何かありましたか?』
モリヒトが珍しい僕の行動に眉を顰めた。
「いや、たいしたことじゃない。 それより調査は終わったのか?」
昼間の中途半端な時間に戻って来たということは、終わったのだろう。
『はい。 ですが、イブさんたちはよろしいのですか?』
「うん、まあ。 サンテに探ってることがバレたからな。 特に問題ない部分だけは本人に伝えておこうと思う」
モリヒトがため息を吐く。
『バレても問題ございませんよ。 面倒を見ている者の過去や背後を調査するのは当たり前のことですから』
それはそうなんだけど。
僕は、なるべくならトスやサンテとは対等でいたい。
大人としてではなく、アタトの友人として。
『分かりました。 その心情は少しも理解出来ませんが』
ありゃ、ダメなんだ。
『サンテが衝撃を受け、今後の行動が危うくなる恐れもございます』
「そういう内容は伝えないよ」
『それならいいでしょう。 では、ご報告を』
ヒラリと紙が一枚、目の前に現れる。
これはモリヒトの意識を紙に文字として念写したものらしい。
基本的に精霊には文字が必要ないので、眷属精霊が主人に伝える時のみに使う魔法らしい。
今までモリヒトの書類がそうやって作られていたとは知らなかった。
普通に書いてるとばかり、というか、書いてるところは見たことあるような気がするけど。
『人間やエルフの振りをするというのは案外大変なんですよ』
それは、すまんこってー。
ベッドに腰掛け、ザッと目を通す。
「これだけか?。 いやに交友関係が薄いな」
2名の中位貴族家と出入り業者が3店。
これでは何もしていないのと同じだ。
『はい。 どうも前任者はこちらの国を小国だと侮っていたようです』
人脈作りや情報収集など、ろくに外交らしいことをしていなかった。
「大国ズラシアスは『異世界人』保護に力を入れているはずだろ。 3年以上もヨシローに接触していないということは反王族派か、それとも無能なのか』
たぶん後者だろうな。
とにかく、仕事をしていないのだから更迭されるのも無理ない。
「リザーリス……」
『はい。 その方が双子の親族に当たるかと』
新しい駐在大使は、まだ若い女性だった。
リザーリス女史は王族派貴族。
少数精鋭で小国エテオールに乗り込んで来た。
「優秀なんだろうなあ」
僕は先日ヤマ神官に着いて来たロッテ女史を思い出してウンザリする。
『いえ。 ご本人はおっとりとした女性ですが、今回は婚約者である男性が同行されています』
モリヒトはそっちを警戒しているらしい。
『大国でも有名な豪商の次男で、リザーリス様とは10歳以上年齢が離れている上に、連れて来た文官のほとんどが実家の商会からの出向です』
それはまた露骨な外交だな。
肝心なことを訊く。
「双子の父親のことは分かったか?」
『処刑されたということですが、公開されていないので何とも言えません』
「罪状は何だったの?」
モリヒトが珍しく迷っている。
『それが』
「『異世界人』がらみか?」
モリヒトが驚いた顔をした。
『アタト様は何故、そう思われたのでしょう』
「うん?。 もしかしたら生きてるんじゃないかと思ったんだ」
母親は待っていた。
簡単に処刑される者なら、とっくに諦めていたはずだ。
生きている理由、それは。
「もしかしたら『異世界人』だからじゃないかなって」




