第四百三十一話・調査の指示と修行
王都生活での注意が終わり、部屋にはモリヒトと僕しかいない。
「急ぎの用事はある?」
『今はございません。 教会からの面会要請待ちだけです』
うん、そうだねー。
「じゃ、アダムを呼んでくれ」
『はい』
探りたい場所が2つある。
一つはモリヒトに、もう一つはアダムに頼もう。
アダムが使えるヤツがどうかの試験にもなる。
『何か用か、アタト』
イブさんと離されて不機嫌なアダムが入って来た。
『様を付けろ、主人様だぞ』
バシンッとモリヒトがアダムの頭を叩く。
『イッテェー!、テメェ何しやがる』
喧嘩腰の眷属精霊たちに呆れる。
確か、そんなに仲は悪くなかったはずだが。
仲良しだからこの程度で済んでいるのかも知れないな。
本当に精霊は攻撃的だ。
ほぼ魔力で構成されているために、感情が行動に直結する。
自然に影響を与えるような状態にさせないために、眷属精霊として主人に仕えさせる仕組みが存在するほどに。
「モリヒト、暴力はダメだ。 これにしろ」
スッパーンッ!
音はすごいが痛みはないハリセンを渡す。
『ナニコレ』
アダムが目を輝かせる。
お前はコレで叩かれる方だって分かってるのか?。
ま、痛みを忘れるほど興味を持ったようで何よりだ。
「アダム、モリヒト。 主人としての命令だ」
僕はいつも頼み事はするが、滅多に命令なんてしない。
今回はアダムに仕事をさせるために分かり易く命令という形にした。
「アダムには教会本部を探ってもらう」
要件は2つ。
「イブの昇格を取り消そうとしている勢力がありそうだ。 ソイツらの中心がどこなのか、外部と繋がっていないかを調べろ」
もう一つ。
「ヤマ神官の敵を特定してこい」
見た目は老けているが、神官長になるにはまだ若い。
これから順調に上がっていくにしても他に優秀な人材がいれば、いつかはぶち当たる壁になる。
先にそれを把握しておきたい。
『分かっ、分かりました』
モリヒト、そんなに睨むな……。
『私は駐在大使の方ですね』
うん、よく分かったな、モリヒト。
「文官、武官の組織の人数、それと出入り業者」
『そして、サンテの身内だという人物、の調査でよろしいですか?』
言わなくても分かってしまうのは、僕が分かり易いからなの?。
まぁいい。
「ああ、頼む。 くれぐれも余計なことはするな。 調査だけだ」
警戒されてしまうと困る。
普段通りに行動してもらわないといけない。
『承知いたしました』
『では』と眷属精霊は2つの光の玉となり、消える。
後は待つだけなので、僕はのんびり昼寝でもしよう。
あれから僕は、ずっと辺境伯王都邸の中で過ごしている。
モリヒトがいない状態で外に出るなと言われているからだ。
モリヒトに調査に集中出来ないと言われちゃ仕方ない。
おとなしくしてるよ。
眷属精霊たちは辺境伯邸を出たり入ったりを繰り返している。
モリヒトは僕を、アダムはイブさんの様子を見に戻って来ては、また調査に行くようだ。
僕は報告が来るのを待つだけ。
余計な口出しはしない。
朝はだいたいバムくんと領兵の訓練に混ざる。
体力作りは大事だからね。
素振り等で軽く体を動かす。
たまにキランも混ざっているけど、以前より逞しくなった気がする。
しかし、僕が子供だからか、領兵たちからあまり実践的な訓練には参加させてもらえない。
「アタト様にお怪我をさせるわけにはまいりませんので」
えー?、少しくらいなら大丈夫だけどな。
「皆、アタト様に負けるのが嫌だからです」
キランがボソッと本音を伝えてくる。
いやいや、日頃からキチンと鍛えてる人には勝てませんよ。
ちゃんとやってますよね?。
どうして皆、目を逸らすんだろう。
昼食後は昼寝とか読書の時間である。
「あの、アタト様。 少しよろしいでしょうか」
僕がウトウトしていると、イブさんが部屋にやって来た。
なんと、サンテと2人である。
「どうしました?」
珍しい組み合わせに首を傾げていると、2人は顔を見合わせて頷く。
「アタト、暇なら修行させてくれ」
「わ、私も直接ご指導頂きたいです!」
は?。
ズカズカと部屋に入って来て、食卓用のテーブルに墨や硯を取り出して並べ出す。
おいおい、こんな所にまで持って来たのか。
はあ。 まあいいか、暇だし。
墨を溢して汚さないように、床に薄い防御幕を張る。
壁、いや、天井にも張ったほうがいいかな。
……やめた。 汚したら洗浄魔法で落とすわ。
「あら」
サンテが、ガビーに厚紙で作ってもらった下敷きを取り出すと、イブさんが関心を示す。
「それは便利そうですわね」
イブさんはテーブルの上に古紙を何枚か敷いている。
それじゃ紙が十分に墨を吸えないし、下敷き自体が薄いのであまり意味がない。
僕は荷物から予備の下敷きを出して貸してやる。
「ありがとうございます」
廃棄用の紙を集めて適度な固さで整えたものだけど、イブさんは「書き易い」と喜んでいた。
「そうか、これも商品化出来るな」
まだ使いたい人は少ないだろうが、今のうちに見栄えの改良を考えておこう。
書道用品の案を考えていたら、2人が固形墨を磨り始めた。
使い込んだ墨の匂いがする。
ああ、お香みたいで気持ちが安らぐな。
無言で墨を磨る2人を眺める。
「お師匠様、これくらいで良いでしょうか」
イブさんが先に磨り終わった。
軽く筆先に付け、紙に垂らす。
「うん、大丈夫」
美人さんが嬉しそうに微笑む。
「ありがとうございます。 でも、何を書けばいいかしら」
と、悩み始めた。
「そうだねー」
僕も一緒に考える。
どうせなら魔力を込める意味のあるものが良いだろう。
僕も自分の一式を取り出す。
今回、もしかしたら必要になるかも知れないと思って準備はして来た。
2人とは離れた場所にある低いテーブルを前に、久しぶりに正座する。
そしてトスが磨った墨を詰めた瓶を取り出した。
酒瓶を利用している。
「アタト。 それは?」
サンテが覗き込む。
「墨汁だよ。 トスが作ってくれた」
光属性のトスの墨汁は質が良く、保存が効く。
僕の魔力を込める必要がない場合はコレで十分なのである。
さて、文字は何にしようかな。




