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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百三十話・王都の生活の注意点


 無茶苦茶な人だったな。


「いいんですか?、アレ」


ヤマ神官に訊ねると肩をすくめる。


「私にはどうにも出来んよ」


弟子にしたのも本部の偉い人からのねじ込みで、毎朝「練習はありますか」と訊きに来るそうだ。


よほど音楽が好きらしい。


 今朝は辺境伯の王都邸に行くと伝えたら、急に同行すると言い出した。


「弟子といっても常に一緒にいるわけではないし、彼女は他国から来たばかりで馴染んでもいないからお断りしたんだが」


勝手に馬車を呼んで着いて来たという。


傍迷惑な人だ。




 ゼイフル司書は考え込んでしまっている。


「サンテくんを連れて来るべきではなかったかも」


ブツブツと呟く。


「サンテの存在が知られたとしても大丈夫ですよ」


僕がそう言うと司書さんは顔を上げた。


「しかし、強引に拐ってでも連れて行くかも知れませんよ」


心配性だなあ。


「ゼイフルさん。 サンテとハナはもう僕の家族です。 僕が手離すと思いますか?」


ハッとした顔になる。


「ああ、ええ、そうですね!。 アタトくんの傍にいれば安心です」


そうだろうとも!。




 だとしても何事にも完璧は存在しない。


気を付けることに越したことはないか。


「サンテの護衛を強化しましょう」


結界を解き、サンテを呼ぶ。


「何か御用でしょうか」


うん。


「スルスルにね」


声を掛けると、サンテの服からスルッと顔を出す。


僕はウゴウゴも呼び、2体のスライム型魔物を前に魔力を与えながら話し掛ける。


「ウゴウゴ、スルスルに敵の倒し方を教えてやれ」


相手の魔力を奪うことしか出来ないけど、倒すだけで殺さない加減ってものを教えておく必要がある。


『ハーイ』


フルフルと震える2体の魔物が体の一部を重ねた。


情報を交換しているらしい。


「サンテはどこへ行くにも必ずスルスルを連れて行くこと」


「はい、分かりました」


サンテは、不思議そうにスルスルたちを見ていた顔を僕に向ける。


「でも、何かあったんですか?」


僕は「まあな」と、ため息を吐いた。




 キランがちょうど食器の片付けにやって来た。


「キラン、バムさんに昼食はこちらに来るように伝えてくれ」


ほっとくと全然こっちに来ないんじゃないかと思うんだよな。


「はい。 承知いたしました」


キランは領兵の宿舎に伝えに行ってくれた。


 昼になり、食堂から僕の部屋に移動する。


僕、キラン、サンテ、バムくんの4人とモリヒトだけ。


「オイラたちだけっすか?」


バムくんが訊ねる。


ドワーフ組はいないし、教会関係者は皆、大人だし、特に用事が無い限りは自由にしてもらえばいい。


あー、バムくんは18歳だったかな。


成人だけど、王都は初めてだろ。


「まあね。 とりあえず食事にしようか」


食後にお茶を飲みながら、王都での注意事項を確認したい。




「王都にはしばらく滞在することになると思う。 皆もここでの仕事より、自分のしたいことを優先して構わない」


正直にいえば、ここでの仕事はない。


僕たちの世話は辺境伯王都邸の使用人たちの仕事だから、本当はキラン以外は働かなくてもいいのである。


それより、せっかくの王都だ。


やりたいこと、見たいもの、欲しいものがあるだろう。


ただ、出掛けるならきちんと報告と自衛はしろよ。


「はい」「分かりやした」「ありがとうございます」


返事は大変よろしい。


「買い物には必ず領兵を連れて行くこと。 怪しい場所には近付かないこと」


そう言って、キランに3つの小袋を預ける。


「これは王都滞在中の小遣いだ。 使い切らなくてもいいが無くなったらモリヒトと交渉しろ」


キランからサンテとバムくんに渡してもらう。


サンテとキランは元々こちらに住んでいたから慣れてると思うけど、田舎育ちのバムくんは本当に大丈夫かな。


「何か質問は?」


「はあ、ないっす」


うん、不安しかない。




 さて、本題はここからだ。


「キラン。 教会から、怪しい者たちがサンテのような子供を狙っているという情報が入った。 辺境伯邸に警備の強化をお願いしてほしい」


キランは、辺境伯家から僕のところに出向している執事なので、辺境伯家との交渉はすべて任せている。


「はい、承知いたしました。 しかし、サンテですか?」


キランはチラリとサンテを見る。


「私ならサンテではなく、アタト様を狙いますね」


エルフは貴重だからな。


「いや、そうじゃないんだ」


「容姿で選んでるわけではないと?」


あー、それだと僕も外れるだろう。




「どうやら王都で身寄りのない子供を探してるようでさ」


目当ての子供がいるらしいが、よく分からないということにする。


「辺境伯夫人が子供を引き取ったらしいという噂が流れているので、サンテに声を掛けてくる可能性があるんだ」


探してる連中も魔道具で容姿を変えてるかもと気付いているようだし、とりあえず拐って連れて行こうとするかも知れん。


「サンテ、出掛けても昔の馴染みとかに注意しろ」


「はい」


サンテは頷く。


それでなくてもヤバい連中と付き合ってたんだ。


そいつらからサンテの情報が漏れている可能性もある。


あのロッテ女史本人はやらないだろうが、誰かに依頼したら厄介だ。


辺境地にいる子供をこちらに呼び寄せている日数くらいは待ってくれると助かるけどな。




 だから。


僕はまっすぐにサンテを見る。


「王都に来たのは『センセー』に会うためだろ?」


「う、うん」


サンテは目を逸らす。


サンテが王都にいた頃にお世話になっていた『センセー』である元宮廷魔術師と、相棒の女性エルフに会いたいんじゃないかなと思う。


僕とサンテは秘密の契約を交わした。


それを破れば、サンテ自身ではなく、サンテが大切にしている妹のハナに不幸が訪れるという罰が下る。


詳しいことは話せないとは思うけど、その魔法契約を確認したいんじゃないかな。


それは勝手にやってくれていい。


「出入りは慎重にな」


「うん」


『センセー』のいる場所は選ばれた者しか入れない空間になっていた。


かなり高齢だが、元宮廷魔術師の爺さんは引退した今でも、国一番の魔術師である。


僕はいざとなったら、サンテをそこで匿ってもらうつもりだ。



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