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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四十三話・魔道具店の不良在庫品


 店主の話では、黒色絵の具はあまり売れないらしい。


「魔獣の骨を焼いて、その煤を原料にしているため、不吉な色と言われております」


絵画界隈では純粋な黒色はあまり使われず、暗めの多色を混ぜて作るほうが多いそうだ。


なるほどね。


まあ、この世界は宗教が強い。


その意味でも魔獣の骨は色々と拙いのかも知れない。


「では何故、そんな絵の具を仕入れたのですか?」


モリヒトに任せてたのに、僕はつい口を挟んでしまう。


店主は生意気な子供の言葉でも聞いてくれた。


「あの絵の具は『異世界の記憶を持つ者』が残したと言われる資料を元に作られたのです」


それを高く売れると勘違いして買い込んだと。


はあ、ここでも異世界人が絡んでくるのか。


でも『異世界人』と名が付いただけでありがたがる者ばかりではない、というのは良い事だと思う。




 しかし、これはどうすればいいのか。


僕はチラリとモリヒトを見るが、まだ不機嫌そうだ。


ティモシーさんが、


「それなら、エルフが使ったという噂だけで売れるのではないですか?」


と言い出す。


でもさっきは『異世界人』というだけで売れるわけではないって話を聞いたばかり。


だからこそ店主は、


「証拠として、エルフ殿が描いた実物を頂きたいのです」


と、食い下がる。


「先日、店で額を購入されたお客様が確かワルワさんのお知り合いでしたので、エルフ殿に関係があるのではないかと」


おお、ちゃんと調べてるなあ。


「もちろん、言い値で買わせていただきます!」


土下座ばりに頭を下げられた。


マジで困る。


 ティモシーさんは店主の老人の頭を上げさせた。


「ご店主の事情は分かりますが、それがこのお二人にはご迷惑になるかも知れません」


エルフ族と人族では価値観が違う。


店主はハッとした顔になる。


「申し訳ありません。 何か必要なものがあればご協力させて頂きますので、何でも言ってくださいいぃ」


いやさ、縋り付かれるなら若い女の子がいいなー、なんて思わないけど。




 コホン。


「あの絵の具、材料は魔獣の骨じゃないですね」


「は?」


僕の言葉に店主の目が点になる。


「匂いで分かりますよ。 あれは木材を焼いた煤です」


だから安心して使えば良い。


『本当ですか?、アタト様』


なんでモリヒトに睨まれてるのかな、僕は。


「ワルワさんにでも調べてもらえば良いと思うよ」


『異世界の記憶を持つ者』が作った資料を参考にしたといっても、作ったのは本人じゃないんだろう。


材料が揃わなかったのか、やはり魔獣の骨は拙いと分かって避けたのか、そのどちらかじゃないかな。


「あ、ありがとうございます。 すぐに調べさせます。


もし本当にそうであれば助かります」


希望が見えて来たと言う店主は薄っすらと目に涙を浮かべている。


そこまで大変だったのかー。




 僕たちは店を出る。


黒色絵の具の件は調査結果待ちになったので、ワルワ邸に帰ることにした。


紙だけは必要なので、前回と同じものをお願いして購入。


店員との間で金を受け取る、受け取らないという揉め事は起きたが、


「結果が出たら、もっと必要なものを頼みたいから」


と、無理矢理払っておいた。




「店主があんなに追い詰められていたのは、何か理由でもあるんでしょうか」


町の外れに向かう馬車を待ちながら、僕はティモシーさんに訊ねる。


少し躊躇っていたがティモシーさんは小さな声で答えた。


「あの店、実は辺境伯の領都に本店がある」


あの脳筋店主が自分で仕入れたのか、誰かに押し付けられたのかは分からないが、アレが売れ残っていたのは確かだ。


きっと本店から何か言われたのではないか、とティモシーさんは言う。


「あまり安い物でもないからなあ」


ヨシローも顔を顰めている。


ずっと黙っていたが、同じ商人としては思うところがあったのだろう。




 そのおじさんは、先代から受け継いだ領都の魔道具店を息子たちに任せて店の経営からは引退、辺境の町の支店でお飾り店主に収まった。


優秀な店員もついて来てくれたので、これからは国の隅っこで、のんびりと店番のつもりが……。


異世界人がいる。


エルフが来る。


本店や他の店からも注目される店になった。


「何てこった!、ってなったのかな」


とヨシローは呟いた。


『喜ばしいことでは?』


店を出るときにフード付きローブを被ったモリヒトの言葉に同じ格好の僕も頷く。


「売れない在庫を抱えているのがバレるだろ」


おそらくだが、あの絵の具以外にも抱えているのでは、とヨシローは顔を顰めている。


脳筋ぽい店主のおじさん。


良く言えば情に厚く、悪く言えばお人好し。


あ、誰かに似てるな、と僕はヨシローを見上げた。




 それに「魔法開放の儀式が近いからな」とティモシーさんが言う。


儀式は、先日の祭りとは比べ物にならないくらい盛大な行事らしい。


そしてティモシーさんは、くっきりと眉間にシワを寄せた。


「おそらく本店から誰かが来る」


下手すれば儀式の視察と称して本店の息子たち、それ以上に辺境伯の代理が来るのではないか。


ヨシローは何かを思い出したのかブルッと震えた。


「嫌だなー、それ。 ついでに監査とかさー、やりそうじゃない?」


ふむ。 ヨシローは会社勤めの経験があるのだろうか。




「教会も同じだ」


ティモシーさんもため息を吐く。


「儀式のために他の教会から何人か派遣されて来るんだが」


町の子供たちが一斉に受ける儀式なので、在駐している神官だけでは足りない。


教会には、一般的な仕事をする神職の他に、子供たちの特別な才能を見抜いたり、魔道具を使って鑑定を行う人もいるそうだ。


その人が儀式のために本部から派遣されて来る。


「今回、私のほうではエルフがこの町に現れたことは特に報告はしていない」


この町の教会では、エルフは異世界人同様、保護すべきだということになったのかな。


それはありがたい話だけど、ティモシーさんたちが無理をしていないといいが。


「だが、店主の話を聞く限り、すでに他の町でもエルフの存在は耳に入っているようだ」


だとすれば。


「もっと厄介な連中がやって来る可能性があるな」



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