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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百二十七話・王都の神官の問題


 翌朝、別棟の食堂で朝食を取っていたら客が来た。


「ヤマ神官様、おはようございます。 お早いですねー」


小太りで愛嬌のある男性神官。


物腰は柔らかく、ふてぶてしい。


これでも教会本部内では一目置かれている。


「おはようございます、皆様。 朝早くから失礼いたします」


食堂を見回し、礼を取る。


取る物も取り敢えず来た、という感じなので、


「朝食をご一緒に如何ですか?」


と、訊ねると嬉しそうに頷いた。


「お連れの方も遠慮なくどうぞ」


「はい、ありがとうございます」


ヤマ神官は何故か、ひとりの女性を連れていた。




 食後は僕の部屋に移動して、お茶にする。


僕とモリヒト、ヤマ神官と連れの女性の4人で、後の者は自室で待機とした。


部屋に入ると、ヤマ神官は軽く紹介してくれる。


「彼女は私の音楽の弟子だ」


あー、なるほど。


ヤマ神官は歌姫アリーヤさんの息の合った伴奏者としても有名な高位神官である。


「僕はアタトです。 これはモリヒトといいます。 よろしくお願いします」


こちらも軽く紹介して、座るように勧めた。




 まずは雑談から入ろう。


「ヤマ神官様。 神官長候補ともなるとお忙しいでしょう」


なかなか好きな音楽に携わる時間もないはずだ。


その代わり、アリーヤさんの音楽会に必要な人材を育成中なのだろう。


「まあ、忙しいのは事実だ。 誰かさんのお蔭でな」


睨まれた。


チッ、ここでもそういう扱いか。


「しかし、あの御守りは評判が良いよ」


前回来た時に何やかんやあって、スーたちと協力して作った腕輪型の御守り。


今は教会内の施設で作っているそうだ。


あれは自分でも気に入ってるから嬉しい。


いづれ、見学に行きたい。




 モリヒトはテーブルにお茶と焼き菓子を並べ、僕は苦めのコーヒーを淹れてもらう。


『どうぞ』


「頂きます」


金髪に茶色の目をした美しい女性である。


年齢は三十代後半、おそらくヤマ神官とそれほど変わらないと思う。


緊張してるなあ。


モリヒトは人間に擬態しているが、容姿はエルフの青年が元になっている。


年齢に関係なく、初対面の女性がポーッとなるのは仕方がない。


しかし、高位の貴族家の出身なのか、身だしなみや礼儀作法に隙がない。


僕は彼女を観察しながら、ズルズルとコーヒーを啜った。




「でもヤマ神官様。 何故、こんな朝早くに、わざわざ、ご自分でいらしたんですか?」


面会の時間なら直接でなくても、誰かに伝言なり、手紙を預ければいい。


超多忙なヤマ神官が来たのには何か理由があるはずだ。


「昨日、ゼイフル司書と騎士ティモシーが到着の挨拶に来てくれたんだが」


ヤマ神官は苦笑する。


「かなり強引な連中に囲まれてしまってね」




 ヤマ神官の話によると、ティモシーさんたちは最初、神職見習いの女性に廊下で呼び止められて軽く言葉を交わしていた。


そこへ修行の指導をしている神官たちがやって来て、彼女を叱責し始める。


「厳しい修行から逃げようとしている不届者だとね」


はあ、意味が分からん。


ヤマ神官の弟子は「ひどい」と顔を顰めた。


 司書さんは彼らを宥めて女性を逃す。


すると、今度は司書さんたちが詰め寄られる。


いわく、教会に無断で勝手に修行を作ったと。


「まあ、それは言われる覚悟はしてました」


僕としては苦肉の策なので、認められなくても仕方ないと思っている。


ただ、イブさんは格段に魔力が伸びたという実績があった。


湖の街の神官長もそれは認めている。


ただ、それを昇格の参考とするかどうかは教会が決める事だ。




「それに、精霊をたぶらかして自分の知り合いの女性を神官にした、と言われているぞ」


僕が彼女を神官にしたのは、たまたまだ。


アイツら、どうせなら若い女性が良いって言うからさ。


「精霊に頼まれたから彼女を推薦しただけです」


それは何度も説明したし、湖の街の神官長も納得してくれた話だ。


「だが王都の神官たちは、そんな話は聞いてないから彼女の神官認定を取り消せと言ってきた」


つまりは、女性を神官にしたくない連中がいる。




 そろそろ本題かな。


「それで、僕を王都に呼んだ理由は何でしょう」


ヤマ神官はお茶のカップをテーブルに戻す。


「色々あるがー」


色々あるんだー。


僕は遠い目になる。


「まずは女性神官の昇格の話かな」


「それは僕には関係ないと思いますが?」


教会内の人事の話だろう。


「確かに」と言いながらも、それでも、


「昇格の切っ掛けになったのはアタトくんだろ」


と、ヤマ神官は言う。




「僕は事実を述べただけです」


僕が関わった昇格の話は1件しかない。


「彼女は精霊からの推薦ですから」


あれは湖の街に住む2体の精霊が、人間との仲介役を求めてきたからだ。


事実をその目で見てもらえばいいな。


僕はモリヒトに、イブさんとアダムを呼んで来てもらうように頼んだ。




「失礼いたします」


アダムを連れたイブさんが入って来た。


何故か、ゼイフル司書も一緒だ。


まあいいか。


 教会関係者が一堂に会するのは話が早くていいか。


「イヴリィーと申します」


「ゼイフルです。 司書を仰せつかっております」


二人とも神職の正式な礼を取る。


ヤマ神官と弟子も椅子から立ち上がって礼を返す。


「本部神官のヤマです。 これは私の弟子の見習いです」


「初めまして。 まだ名乗るほどの身分ではございませんので、名はお許しください」


へえ、教会ってそんな慣習があるのか。


知らなかった。


とりあえず座ってもらい、話を再開する。




 イブさん本人が来ていることは、ヤマ神官にだけは知らせてもらった。


まだ二十代の若い女性。


真面目でおとなしそうな印象だが、神に対する信仰と熱意は本物だ。


それが精霊に好かれた。


「なるほど、素直な女性のようだな」


毎日、山のように信者や神職者を見ているヤマ神官も頷く。




 イブの後ろに立っていたアダムが突然、声を上げた。


『イブは何故、嫌われるのだ』


ヤマ神官を威嚇する。


やめなさい。


教会本部には必要な協力者なんだから。


「嫌われているわけではありませんよ」


ヤマ神官はアダムを宥めるように話す。


「邪魔者扱いされているだけです」


もうっ、ヤマ神官も煽らないでよ。



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