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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百二十五話・修行の希望と現実


「オーブリーさん、それは教会の正式な依頼ですか?」


「いや、その」


オーブリー隊長は言葉を濁す。


僕は半分呆れていた。


要するに個人的に頼みたいと。


この人は教会所属の警備隊の隊長だから、教会の偉い人に頼まれれば逆らえないかも知れない。


しかも、ご領主の実弟だし、領地のための話題作りにと言われたら断りづらいだろう。


でも今回は、すべて愛する妻、アリーヤさんが教会内で過ごし易いように女性神官を増やしたいということらしい。




 だけど、これは下手すると教会本部に対する背信行為になるんじゃないか?。


「王都本部からも色々と問い合わせが来ていまして。 まあ、おそらくですが、今回の呼び出しもその件だと思っています」


その王都本部でさえ、まだ正式な依頼は来ていない。


「イブさん、湖の街の女性神官のことですが、彼女のみ、僕の弟子として修行させました。 それに関しては精霊からの強い要請があったため、特例として教会も認めた形です」


普通、教会の神職見習いの修行はかなり厳しいことで有名だ。


今までは、女性の見習いで神官に昇格した者はいない。


「僕が指導したから神官に成れる訳ではないし、女性だから指導する訳でもありませんよ」


「勿論、本人の熱意や才能も必要だろう。 それは分かってる」


隊長は何度も頷く。


イブさんは本当に特殊な例なのである。




 オーブリー隊長も、湖の街の教会も、何か勘違いしてる気がしてきた。


辺境の町でも王都本部でも、固形墨と硯を購入してもらって、実際にやってみてもらっているが、まだ実験段階。


僕がそれを認めているのは、魔力を暴走させる恐れがあるなど、何らかの理由があって普通の修行が出来ない人のためだ。


信仰も才能も関係ない。


集中し精神が安定することで本人の魔力が上がることがあり、紙に書かれた文字を見れば、僕にはそれが分かるだけ。


総合的に見て、神職見習いを昇格させるのは教会幹部の仕事なんだよ。


「し、しかし、実例があるのだし、もしかしたら可能性があるかも知れないと」


まだグダグダ言うか。


僕は考える。


これからも、こういう人たちは現れるんだろうな。




「オーブリーさん」


「ん?」


「そこまで仰るなら、お嬢さんに修行させてみたら如何ですか?」


「は、なんだって」


「奥様のためだというなら、他人に頼まずに身内に実体験してもらえばよろしいかと」


そうすれば、どういうものか分かるだろう。


自分の娘に修行を体験させるだけなら、教会も領主も文句は言わないと思うよ。


お嬢ちゃん本人には迷惑な話だろうけどな。


でも体力を使うわけでもないし、家の中で適当な時間にやって、定期的に僕に送るだけだ。


危ないものでも何でもない。


「僕たちは明日、王都へ向かいますが、帰りにはまた寄ります。 その時にお返事を」


「いや、ちょっと待ってくれ」


モリヒトに頼んで隊長にはお帰り頂く。


しっかり家族会議しておくれ。




 翌朝、夜も明け切らないうちに全員を叩き起こす。


モリヒトには、昨夜のうちにティモシーさんに伝えてもらい、早めに宿に来てもらった。


「何かあったのか?」


「ええ、ちょっとね」


最悪の場合、教会警備隊に引き止められる可能性がある。


あちらが動き出す前に街を出たい。


 寝ぼけているスーやイブさんを馬車に放り込み、警戒のため、僕はキランと共に御者席に座る。


空間転移にしなかったのは、発動に時間が掛かるためだ。


モタモタしてる間に見つかってしまう。


空間移動なんて珍しい魔法で騒ぎが大きくなるのは困るしね。


宿では、早朝に旅立つのはよくあること。


ごく普通に宿を立ち、夜明けと共に街を抜けて王都へ向かう。




 街道を外れ、低木に隠れた場所で休憩にする。


ふう、ここまでくれば大丈夫か。


「すみません、無理を言いまして」


ひとりひとりに飲み物と軽食を配る。


「あはは、こういうことも旅の良い思い出になりますよ」


司書さんは笑いながら受け取る。


ドンキとバムくんは周りの警戒。


女性たちはアダムが付き添い、近くの水場で朝の身支度のやり直し中。


キランとサンテはティモシーさんと次の補充地点の話し合いをしている。




 皆の様子を見ながらモリヒトがボソリと話し掛けてきた。


『追って来る気配はありませんね』


「ああ」


帰路でまた寄るって言ったからな。


それまでに、教会の考えもまとまるだろう。


 思えば、オーブリーさんは本気で頼んで来たわけじゃないのかも知れん。


僕が断る前提で話してた気がする。


娘の話が出て来て慌ててたのはザマーミロだが。


 しかし、あの街でも女性神官に僕が関わっていることはバレていた。


教会間は連絡が密なんだろう。


さあて、王都の本部でヤマ神官に何を言われるやら。




 再び動き出し、旅は順調に進んだ。


女性たちがいるので、なるべく夜は宿に泊まるようにしている。


明日は王都に入る日。


宿に泊まり、夕食後、僕はサンテを部屋に呼んだ。


「スルスルは元気か?」


いきなり本題に入る。


「え、うん」


サンテの服からスライム型魔物のスルスルが顔を出す。


僕の懐からはウゴウゴが出て来た。


同じ本体の切れ端に魔力を与えて成長させたものだが、明らかな違いがある。


それは『色』だ。


サンテのスルスルは無色だが、体に映る歪みのせいでどこにいるのかは分かる。


僕のウゴウゴは真っ黒だ。




 スルスルは普段、サンテの服の中に入っている。


仕立師の爺さんがサンテ用に作った服にも、スルスルが出入りするための隙間が作られていた。


「ここまでは僕たちが傍にいたが、ここからは常に一緒とは限らない」


僕は小さな鞄を渡す。


「これはスルスル用の小屋だ」


寝ている間や、どうしても連れて行けない時に入れておく物。


中には魔岩があり、数日は餌に困らないようになっている。


「ありがと」


「明日には王都だ。 サンテには懐かしいかも知れないが、王都にはどんなヤツがいるか、どんな魔道具があるか分からん」


魔物を連れていると分かると何をされるか分からない。


だから注意しろよ。


手を伸ばしてスルスルを撫でると、ウゴウゴも一緒に嬉しそうに揺れた。



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