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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百二十四話・弁当の評価と報告


「アタトくん!、モリヒトさん!」


少女が2人駆けて来る。


「こんにちは、お嬢様方」


娘さんたちの後ろで深く礼を取るのは『歌姫』と呼ばれるアリーヤさんだ。


「アタト様、ようこそ。 先日は本当にありがとうございました」


「いえ。 それについてはご内密にお願いします」


僕はなるべく近寄って囁く。


「はい」


お互いにもう口にするのはそう。


感謝は十分にしてもらった。




 今回初合わせになる者たちをざっくりと紹介。


ティモシーさんとキラン以外は初めてか。


「歌姫の噂は予々(かねがね)伺っておりました。 お会い出来て光栄です」


司書さんは有名人に会えて嬉しそうだ。


アリーヤさんは、国内では一番に教会の集金に貢献している。


司書さんはイブさんに、どんなにすごい人なのか力説しているが、イマイチ伝わらないようだ。




 ドワーフのスーは前回お嬢ちゃんたちと一緒に工作して遊んだ間柄である。


「今日はガビーお姉さんはいないの?」


「ええ、ごめんなさい。 今日は彼が一緒なのよ」


スーがドンキを紹介すると、2人を見比べていた下のお嬢ちゃんがニコッと笑って言った。


「2人は恋人なの?」


4歳だったっけ。 オマセさんだ。


「ち、ちがうわ!」


顔を赤くして焦るスーに、ドンキはガハハと笑う。


「すまねぇ、オレたちゃそんな関係じゃねえよ。スーリナーさんはオレみたいなヤツにゃ勿体ねぇ美人さんだしな」


「そうなの?。 お兄さんもカッコイイよ?」


「お、ありがとよ」


ドンキがお嬢ちゃんたちと楽し気に笑っている。


ほー。




「簡単なものしかご用意出来ませんが」


アリーヤさんの昼食を用意するとの申し出を辞退する。


「いえ。 前回お寄りした時に修行させて頂いた料理人が弁当を作ってくれましたので」


『異世界の知識』として持ち運べる弁当という文化は定着している。


しかも、中の食品が傷まないように魔道具になっている弁当箱まであった。


今回はそこまで必要ではないので普通の蓋付の食器に詰め込まれている。


「場所だけお借り出来ますか?」


「勿論です。 こちらへどうぞ」


この家の食堂は広い。


アリーヤさんの夫であるオーブリーさんは、この街の教会警備隊の隊長で、よく若い部下たちを連れて来るそうだ。


今は仕事中で不在だが。




「ありがとうございます。 多めにありますので、よろしければご一緒に如何ですか?。 お嬢様方もどうぞ」


お茶の準備をしているアリーヤさんに声を掛ける。


「いえ、そんなー」


遠慮するアリーヤさんの目の前にモリヒトが弁当らしからぬ量の昼食を並べていく。


アタト食堂の旦那さんも奥さんも、張り切り過ぎ。


なんなのこの量。


モリヒトじゃなけりゃ持ち運べないよ。




「実はアリーヤさんに味見をお願いしたいんです」 


この弁当は全部、試作品なのである。


「この街の食堂で修行した料理人なんですが、ちゃんと出来ているかどうかを確認して頂きたいと」


出来れば助言をもらって来てほしいと旦那さんに頼まれた。


「そういうことでしたら」


アリーヤさんも座ってフォークを持つ。


この世界では箸を使う者はまだ少ない。


 皆で賑やかに食べる。


焼き飯のおむすびと魚醤を使った焼きおむすび。


煮物には干し椎茸で出汁を取り、温野菜には和風のドレッシング。


「まあまあ、どれも美味しい!。 この玉子焼きなんて本当にすごいです」


アリーヤさんの絶賛にホッとする。


まあ僕とヨシローで何度も味見しているから、味には問題ないとは思う。




 見た目も重要だと、奥さんがすごく拘っていた。


「とても綺麗だし色合いも工夫されてますね」


老夫婦の料理を褒められて、キランたちが誇らしげに微笑んでいる。


「後で作り方を書いた報告書をお渡ししますので」


この街の食堂でも流行らせてほしい。


「高名な神官様の好きな料理」として。


「ぶぁっゔ」とアリーヤさんが頷く。


えっと、返事は食べ終わってからで結構ですよ。


新しい料理をこの街でまず流行らせ、その後でアタト食堂で出す。


あくまでも、この街が出処になるようにするためだ。


わざわざ辺境地の料理に文句を付ける者はいないと思うが念の為。


誰だって叩けば埃くらい出るが、それを誤魔化す悪知恵も貴族社会では必要なのだ。


アイツらマジで利益を奪いに来るからな。




 今夜は以前と同じ宿に泊まる。


「ようこそ、お疲れ様でございました。 本日は何部屋ご用意いたしましょうか」


ティモシーさんは実家へ行くので泊まりはしない。


女性2人、ドンキとバムくんとキラン、司書さんとサンテ、僕はモリヒトとアダムと同室にする。


4部屋頼んで一息着く。


今夜は宿の食堂で夕食を取り、明日の早朝に出発だ。


ここからは馬車と騎馬での移動。


王都へは約4日かかる。




 昼食を食べ過ぎたので夕食は軽めにしてもらった。


「あのー、本当に教会に顔を出さなくてよろしいのですか?」


イブさんとゼイフル司書の会話が聞こえてくる。


「構わないでしょう。 我々が用事があるのは王都本部ですから」


ウンウン、ここの教会の神官たちってアリーヤさんが一番で、他はあんまり興味ないみたいなんで大丈夫。


もしかしたら帰りにも寄るし。




 早めに就寝するため部屋に戻ると、しばらくして扉が叩かれた。


『オーブリーさんです』


僕は頷き、モリヒトが扉を開ける。


「こんばんは」


「隊長さん、こんばんは。 どうされましたか?」


仕事帰りなのか、兵装のままだ。


「アタトくんが来ていると聞いてね。 顔を見に来た」


嘘つけ。


とりあえず部屋に入ってもらい、備え付けの小さなテーブルを挟んで座る。


モリヒトがさり気なく盗聴防止の結界を張った。


ついでにお茶と焼き菓子を出す。


「お、うまそう」


隊長はお腹が空いていたようで口に頬張る。


お疲れ様。




 お茶を飲み干すとひと息吐く。


「すまない。 実はお願いがあって来た」


隊長はさっそく頭を下げる。


「アタトくん!。 しばらくうちの教会に滞在して、女性神職者を指導してもらいたい」


話を聞くと、どうやらアリーヤさんのために女性神官を増やしたいという話だった。


教会の神官は男性ばかりだからな。


僕はため息を吐いた。



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