第四百二十二話・同行の条件を探す
「心配をおかけしてすみませんでした」
1階の食堂に行き、頭を下げた。
「いやあ、驚いたが何ともなくて良かった」
「ええ、ええ、本当に」
「アタト、ちゃんと自分のことは自分で管理しろよ」
散々な言われようである。
皆、心配してくれているのは分かるので、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
そして、軽くアダムも紹介する。
『東風の精霊、アダムだ!。 新しくアタトの眷属に加わった。 イブリィーと共によろしく頼む』
声がデカい。
服装はイブに合わせて男性神官服に似せて変化させたので、益々イブとのコンビ感が強くなった。
モリヒトは僕の後ろに付くが、アダムはイブに付いている。
まあ、そこは勝手にしてくれ。
食事を取りながら話を聞く。
『神官長も領主も勝手に話を進めて、イブに相談もしない』
気に入らないとプンプン顔のアダム。
子供かよ。
でも確かに、あの領主の対応はおかしかった。
前は僕や精霊に対して、かなりヘコヘコしてた覚えがある。
考えたくないが、人って言うのは大金が入ると変わるというし。
もしかしたら、入れ知恵したヤツがいるのかも知れん。
そうだとしたら厄介な話になる。
とにかく、先に大事な話をしよう。
食後のお茶が配られ、キランや手伝っていたサンテにも座ってもらった。
「実は、また王都からの呼び出しが来てます」
前回は王宮の貴族管理部だったけど、今回は教会本部である。
「それって私に関係することではないでしょうか」
イブさんの顔色が青くなる。
「内容までは明記されていません」
心当たりがあり過ぎて、どれか分からんのよ。
向こうも多過ぎて絞れなかったんじゃないかなあ。
「アタト様、王都行きは仕方ありませんし、魔法を使っての移動ならそんなに心配はいたしません。 ただ、お体はしっかり回復されてからにしてください」
真剣な顔のガビーがまとも過ぎる。
こんな奴だったっけ?。
工房長になってから少し周りを見るようになったのか。
「ありがとう、ガビー。 出発はすぐというわけではないよ」
ガビーの成長にニヤニヤしていたら、スーが立ち上がる。
「モリヒトさん!。 今回は何人同行出来ますか?」
は?、何言ってんの。
『そうですね。 馬車1台分、アタト様を含めて6名が限界ですね。 それに加えて護衛は3名以下に抑えたいです』
え、ちょっと待て。
モリヒトまで何を言い出すんだ。
「分かりました!。 では皆さん」
スーは全員の顔を見回す。
「王都に行きたい方はいますかー」
「おー」「行きたい!」「留守番は嫌ですっ」
……なんか始まった。
『辺境地にいると、王都へ行く機会はあまりありませんからね』
なんだよ、それ。 遠足じゃねえんだぞ。
「す、すみません、皆さん。 今回のことは私にも関係あると思いますので」
一生懸命に訴えるイブさん。
「そうね。 一応、イブさんは教会関係者だし有利かも」
言い出しっぺのスーがウンウン頷く。
「お、おれ、王都の教会に用事があるっていうか、様子を見てきたい」
「サンテくんの希望はちょっと弱いなあ」
だからスー。 なんでお前が仕切ってんの?。
「私が同行すれば辺境伯様の王都邸に泊まれます」
「キランさんは帰って来たばかりじゃん、ズルい!」
ワーワーギャーギャー、煩い。
ここにドワーフの行商人ロタ氏と弟子の少年クンがいたら、もっと混沌としていたかも知れない。
幸い、あの2人はエンディ領で忙しくしている。
僕はこっそり食堂担当の旦那さんに声を掛ける。
「参加します?」
2人でチラリと白熱しているほうを見る。
「いやあ、わしらは店があるからのぉ」
老夫婦と一緒に座っていた食堂の見習いの少年はポカンとしている。
煩くてすまん。
「そうですね、私も仕事がありますから」
ドワーフのお婆様も不参加表明。
『静かに!』
モリヒトが珍しく声を張る。
『同行希望者は後でお聞きします。 最終的に決定しましたら、また皆様にお伝えしますので』
静かになったところでモリヒトに促され、僕は席を立った。
自室に戻ると、また濃い目の薬草茶を飲まされ、ベッドに追いやられる。
何もすることがないので、王都行きの内容でも詰めるか。
「モリヒトは教会の呼び出しの目的は何だと思う?」
僕の机で手紙を整理していたモリヒトが顔を上げる。
『おそらく、書道の件だと思います』
まあな。
湖の街でも専用の施設を建てようとしているくらいだ。
教会本部にも何か動きがあったとしてもおかしくはない。
『他にも、先日の他国の王女様の件で、向こうの国からの何か要請があったとか』
うっ、それはさすが僕には関係ないと思うが。
『では、参考にこちらのお手紙をどうぞ』
「うん?」
渡されたのは王都近郊の街、歌姫アリーヤさんからの手紙である。
「あー、王女に見つかったのかー」
『異世界の記憶』からの作られた料理を得意とするアリーヤさんは、両親が経営する店で食材を販売する方ら料理も提供していた。
たまたま立ち寄った王女一行がその料理を気に入って、作り方を教わって行ったらしい。
「大丈夫でしょうか」とアリーヤさんも気にしている。
アリーヤさんの恩師である高位神官。
すでに亡くなった方だが、おそらく『異世界人』だ。
赤子だったアリーヤさんを拾い、元教会警備隊長夫妻に預けた。
その後も何かと面倒を見てくれたとアリーヤさんは感謝している。
だけど僕は、アリーヤさん自身も『異世界の記憶を持つ者』だと知っている。
亡くなった神官様がずっと傍にいたのは、それを隠し通すためだったのだ。
事実、アリーヤさんは「教えてもらった」だけの和食を忠実に再現出来ている。
材料がこの世界に無いものでもだ。
それは彼女の記憶の中に、正しい知識として味覚が残っている証拠である。
「公的には本人は否定してるんだよな」
当たり前だ。
歌姫の才能だけでも大変なのに、『異世界の記憶を持つ者』と分かればもっと大変になるからなあ。
なんとか静かに暮らしていけるように。
和食用の食材を仕入れてる僕が言うのもなんだけど。
『アタト様もちゃんと隠してくださいね』
う、うん。




