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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四十二話・友人のために


 港の釣りで一番大切なこと、それは。


『絶対に魔力をばら撒いてはいけません。 大量の魔魚が押し寄せますから』


一人の人間が一日で釣れる数は魔力量に比例するが、大人でもせいぜい二、三匹。


少ないからといって欲を出せば町が崩壊する。


それを徹底的に教え込む。


 とはいえ、彼らが魔力を餌にするには、まずは魔力を操る修行が必要になる。


修行に関しては目の前にすでに習得済みの騎士様がいらっしゃる。


「え?、私が教えるのか」


ティモシーさん、よろしくね。


「ぜひ!。 頼んます、だんなああ」


だって僕たちは三十日に一回しか、この町に来ないんだから。




 まあ、釣りが出来るようになるのは当分先だろう。


子供たちにしても魔法開放の儀式を受けてからでないと修行が出来ない。


トスは七歳だが開放はまだなので悔しそうにしている。


「ねえ、アタトは一日に何匹釣れる?」


トスが呼び捨てにしたのでモリヒトがピクッとしたが、僕は笑って止める。


「僕というよりモリヒト師匠が魔力たくさんあるからねー」


子供たちの前ではモリヒトは大師匠である。


大人に指導しているから師匠と呼んでも良いんじゃないかな。


小さな子供もいるので、僕はエルフだということは秘密にしておく。


子供に嫌われるのはやっぱり辛いからな。




 そろそろ帰ろう。


名残惜しそうに子供たちが「また来いよ」と手を振ってくれた。


市場の店まで戻って来ると、漁師のお爺さんが店じまいをしていた。


「坊ちゃん、お帰り。 おや、トスヴィも一緒だったか」


トスは頷き、義祖父の傍に行って手伝い始める。


偉いな、小僧。




「お爺さん、先ほどの件ですが」


僕は、さっき漁港で漁師さんたちに釣りの指導をしてきたことを話す。


「な、なんだと?。 あいつらが大人しく指導されとるとはなあ」


漁師といえば荒くれ者が多い印象だが、彼らが静かに従ってたのは全身ローブのモリヒトが不気味だったせいかな。


割とおとなしかったよ?。


『ええ。 あれなら、この港でも少しづつ魚が手に入るようになるでしょう』


モリヒトも問題ないと言う。


三十日後には僕がまた大量に持ち込むから、無理をして魚を獲る必要はない。


それまでの繋ぎだと思って、がんばってもらおう。




『ですが、魔魚の攻撃に対応できる者が立ち会う必要があります』


モリヒトの言葉にティモシーさんが頷く。


「ここの兵士たちにも声を掛けておこう」


「よろしくお願いします」


僕たちが提案したせいで怪我人が出たら困る。


槍や弓矢を扱える者を港に置くか、もしくはすぐに避難できる場所を整備してもらえばいい。




 干し魚の販売も終わり、僕たちはワルワさんの家に戻ろうとした。


「アタトくん、魔道具店に寄るのを忘れてるよ」


ティモシーさんがニッコリ笑って僕の腕を掴んで止める。


うう、忘れて欲しかった。


 仕方なく店に向かう。


「店のご主人は何か話してましたか?。 僕を紹介して欲しい理由を」


歩きながらティモシーさんに訊く。


例の額については、ティモシーさんとヨシローは見ていないはずだ。


「単にたくさん買ってくれる客だからかな?」


ヨシローが僕の後ろから声を掛けて来る。


一番見せたくない相手だ。


「いや、私は何も聞いてない。 単に客としてなら君に直接言うと思うんだけどな」




 そこなんだ。


店主は何故、ワルワさんやヨシローではなくティモシーさんに「紹介して」と頼んだのか。


「たまたま店に寄ったら頼まれた?」


ヨシローがティモシーさんに訊く。


「教会の執務室に尋ねて来たよ。 備品を納品に来たついでだったけど」


そもそも店主とはいえ、すでに引退したご老人で、経営は息子たちに任せているそうだ。


名ばかりの店主でも、教会に参拝以外で来ること自体が珍しい。


そんな老人が僕を名指しで教会警備隊の騎士に頼むとは、何だか嫌な予感がするじゃないか。




 その嫌な予想通り、僕たちは店に到着するなり奥にある応接室に案内された。


「エルフ殿、ようこそ我が店へ」


そうか、エルフだってバレてるんだな。


じゃ、フードは要らないなっと僕とモリヒトはフード付きローブを脱ぐ。


嬉しそうに目を細めた店主は、六十代くらいでスラリとした長身に筋肉質の身体付き。


「私は元は国軍の兵士をしておりましてな」


勝手に自己紹介を始めた老人は、商人というよりガチ脳筋だった。


ティモシーさんが間に入り、こっちは名前だけを告げる。


見た目は無骨に見える店主だが、なかなかどうして口が達者だ。


「最近雇った者が領主館でお二人を見たと言うので、是非、お会いしたいと思っておりました」


もしかしたら領主館で解雇された文官かな。


まあ、全身ローブ姿の怪しいデコボココンビなんて僕たち以外いないだろうし。


その二人がエルフだということさえ分かれば、後は簡単だ。


この町に来たら、僕はだいたいヨシローかティモシーさんと一緒だし、元兵士なら騎士様のほうが問い合わせしやすい。


そういうことなのだろう。




 僕は出されたお菓子を口に入れ、喋らない体制を取っている。


モリヒトが分かり易く嫌そうな顔をしているなんて珍しい。


『それで御用とは何でしょうか?』


頼むから、そろそろ本題に入ってくれ。


僕でもこんな機嫌の悪いモリヒトをあまり見たことがない。


「こ、これは失礼した」


店主はモリヒトの威圧に顔を青くしている。


「先日、うちの店で珍しく黒色絵の具が売れたと聞きまして、どんな方がお買いになられたのか調べさせていただきました」


あー、あれな。


「失礼でなければ、どんな絵をお描きになるのか、拝見させて頂けないかと思いまして」


そうだよなあ。 黒一色しか買ってないんだから、普通の絵じゃないことは分かるか。


『それをお話したら、我々の得になるのでしょうか?。


我々はあれを使って何かの商売をする気もありませんし、使い道を教える必要も感じません』


モリヒトがそっけない。


確かに商売には関係ないのに聞いてどうするのかね。


「はい。 実はあの色絵の具があまりにも売れませんで。 何とか売る方法を探していたのです」


え、アレ、不良在庫品だったのか。



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