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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百十七話・鉱石の土産と手紙


 トスの将来に関しては、自分でがんばってもらうこととして。


「じゃあ、またな」


「うん。 師匠が来る日は行くから」


トスの師匠はドワーフのガビーだ。


繊細な美しい工芸品を得意とする。


日頃は草原の向こう、エルフの森の近くにある塔の中にある工房にいる。


時々、納品や買い物にやって来るのでトスもそれに合わせて商会本部に顔を出すようになった。


サンテとの書道も、その時に一緒にやるようにしている。


しかし、僕とトスとサンテは同年代。


これからも付き合っていく仲間なんだろうな。




 トスと別れ、僕はモリヒトとふたり、久しぶりにのんびりと町中を歩いて移動する。


人間の姿に偽装はしているが、皆、普通に「アタトくん」とか「エルフさん」とか声を掛けてくるのには驚く。


「いつもありがとう」や「お前さんのお蔭だ」になると何のことか分からん。


「アハハ」


と、笑って誤魔化している。


 ここは辺境地といっても国と国の境にあると言うだけで、全体からみれば単に田舎だというだけだと思う。


この世界の大陸を僕はまだ知らない。


地図とか見たわけでもないし、モリヒトに訊ねたこともない。


だけど、元の世界の鮮明な記憶が無い僕でも、この田舎の雰囲気は懐かしい気がする。


魔法だの精霊だのを実際に体験しているわけだが、今でもたまに映画や小説の世界に紛れ込んでしまった気分になるんだ。


不思議だよな。




 ワルワさんの家に立ち寄り、留守中の対応に感謝し、ドワーフ街で手に入れた土産を渡す。


「ほお。 スライム型魔物の飼育器かい」


ワルワさんは魔獣や魔法といった魔力に関する研究をしている、この国でも高名な学者である。


僕は、珍しい魔獣の素材や魔道具を見つけると、お土産として持ち込んでいた。


「あの領地で見つかった魔岩で作られています」


魔岩は魔力が外に出ることが少ない鉱石なので、お蔭で長期不在時でも魔力を補充しなくてすむ。


 ウゴウゴたちスライム型魔物は魔力を過剰に取り込む、食いしん坊さんだ。


定期的に餌を与えていれば害はないが、不足すると周りの魔力を取り込み始め、自然界に存在する魔素まで吸収する。


そうなると、他の生物が必要とする魔素が減って病を発症するので危険とされているのだ。


「この魔岩は濃い魔力を含有している上に、外に漏れにくいという性質なので、ウゴウゴたちでも魔力を吸い出すのに苦労するみたいなんですよ」


なので、魔力を吸い尽くすのに時間がかかるのだ。


「ほおほお、それは面白い」


ワルワさんは飼育器より魔岩に興味を示す。


「少し取り寄せしましょうか?」


「おお、是非!、お願いしたい」


未加工の魔岩を届ける約束をしてワルワ邸を出た。


思った方向と違ったけど、喜んでもらえて良かったな。




「戻りました」


森の中の商会本部に戻るとキランが出迎えてくれる。


「お帰りなさいませ、アタト様。 急ぎの手紙が届いていますよ」


ん?。 なんだろう。


「どこからだ?」


「湖の街の教会からです。 それと王都のヤマ神官からも別便で来ています」


え?、別便ってなんだ。


二つを受け取り地下の自室にむかう。


「夕食は部屋へ」


「承知いたしました」


キランが去ると、モリヒトと部屋に入る。


風呂場でサッと体を洗い流し着替える。


『湖便はいつも通り東風の精霊が持ち込んだようですが、ヤマ神官のほうは教会から正式な緊急便で来たようですね』


はあ、そんなのがあるのか。


初めて聞いた。




 教会には、本部からの手紙を受信する専用の魔道具があるそうで、緊急連絡にのみ使用されるという。


『どちらからにしますか?』


モリヒトが訊いてくる。


「どっちでもいいよ」


適当に取り、片方はモリヒトに読んでもらう。


 封蝋ふうろうを剥がし中身を取り出す。


僕のヤツは湖の町の教会からだった。


「ああ。 彼女、がんばってるなあ」


女性神職希望者が急増したため、専用の修行施設を作ったそうだ。


国で最初の女性神官となった彼女は、今度は指導者として、その施設の責任者に任命されるという。


「よく反対されなかったなあ」


あの街は教会と領主が大変、仲が良い。


観光地として安定した収入があるため、いがみ合う必要がないのだ。


何か不都合なことがあれば東風の精霊が不機嫌になり、街を破壊、もしくは見放す。


皆、それを恐れているので下手な誤魔化しなど出来ないのである。


「あの街の住民の大半が精霊を直接見てるし、その精霊が彼女を代理人と指名したんだから文句は言えないだろうけど」


ボソボソと独り言を呟きながら、教会からの報告を読み終わる。




 中には彼女からも手紙が入っていた。


指導者にしても、施設の責任者にしても、荷が重いと嘆く文章である。


「どうしましょう」「とても無理です」


まあなあ。 彼女自体が神官になってまだ日が浅い。


そんな女性に押し付けるなよ、とは思うが。


『アタト様。 東風の精霊が話があると、まだ森の中で待っているようです』


「え、待ってるの?」


モリヒトはコクッと頷く。


早く言ってよ。


主を持たない精霊は好戦的で気まぐれだ。


「すぐにお呼びして。 地下の魔法訓練所なら東風の馬型魔獣でも大丈夫だろ」


『承知いたしました』


光の玉になりモリヒトが消え、僕はすぐに廊下に出ると同じ地下にある施設に向かう。




 商会本部の地下は、階段を下りると三つの廊下に分かれる。


中央は僕の部屋や常連用個室と、大宴会場のような広間等、宿泊用の施設が揃う。


左の廊下は僕が闇魔法を訓練するための対魔法用の強固な結界があるだだっ広い施設。


右は地下牢があるだけだ。


 僕は照明を点け、空気を入れ替えて客を待つ。


やがて、光の玉が二つ現れ、エルフの家令と黒い馬型魔獣の姿に変わる。


「ようこそ、東風の精霊様」


『久しぶりであるな、エルフ殿』


黒い魔獣が言葉を話す。


これはモリヒトと同じで、容姿は魔獣だが中身は精霊である。


大地の精霊であるモリヒトと東風の精霊は仲は悪くないらしい。


「本日はどのような御用でしょうか」


『頼みがあって参った』


精霊の願いは神の命令と同じ。


『すまぬが、あの娘をしばらく預かってほしい』



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