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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百十五話・年寄りの期待を込めて


 食後のお茶を飲んでいると、キランが迎えに来た。


下で食事を取っていたらしい。


「サンテとハナを本部へ連れてってくれ。 僕はまだ用事があるから」


「承知いたしました」


満腹になった双子も頷き、キランと共に食堂を出て行った。


ありゃ馬車の中で寝ちまうな。


 


 モリヒトと僕とお婆様の3人になる。


「お仕事の方は如何ですか?。 大変だと思いますが」


僕が訊ねるとお婆様は頷く。


「ええ。 何故か出掛ける度に店を増やしたり、人を連れ帰ったりする長がおりますからね」


イタズラっぽく笑う。


「すみません、仕事を増やしてばかりで」


頭を下げるしかない。


「ふふふ。 仕事で忙しいのは結構なことですよ。 認めて頂けて、こうして労って頂いていますし」


「でも生まれた土地から離れるのは寂しいのではないですか?」


僕の言葉に、お婆様は目を丸くする。


「そんなことはありませんよ。 私らは長命種族ですからね。 長い年月の間にはそういうこともあるでしょう」


「ただ」


お婆様はテーブルに目を落とす。


「その故郷の街があんな風に新しいもの、変わったものを拒絶するようになったのは残念で仕方ありませんね」


「あのバカ兄」と小声で呟いたのは聞かなかったことにした。




 僕も頷く。


「伝統を重んじることは悪いことではないと思いますが、あのままでは停滞してしまうでしょうね」


時代遅れというか、新しいものを取り入れる機会を逃す。


エルフ族も似たようなものだが、彼らは特に他者に奪われることを警戒し、独占しようとする。


長老が僕を後継者にすることを恐れて、村ぐるみで僕を追い出した。


村で生まれた者ではないからという理由で。


あれは今でも納得出来ない。


「アタト様も、故郷を捨てたんでしたね」


お互いに苦笑する。


捨てたという表現はいいな。


こっちから捨ててやった!。


うん、しっくりくる。


「それでは仕事に戻りますね」


お婆様は食堂から商人組合に戻って行った。




 入れ替わりに食堂の旦那が上がって来る。


「アタト様、ちょっといいかい?」


「様付けされるのは怖いですが、どうぞ座ってください」


向かいの椅子を勧める。


店の方は昼の時間を過ぎ、閉める準備に入ったそうだ。


「どうかしましたか?」


経営の話かな。


「実は雇ってる坊主なんだが」


賊の拠点から拾って来た子供のうち、最年長。


どこの子息かは知らないが、やけにシュッとした、子供のくせにイケメンな少年である。


いかにも身代金が取れそうだが、まだ身内からの問合せはない。


「成人したら見習いとして厨房に入れるとか聞きましたが」


元兵士の旦那さんは「おっ」と小さく唸る。


「そこまで知ってるならいいか。 もし、このままアイツの親が出てこなかったら、うちで引き取ろうかと思ってな」


将来、養子にしたいと言う。


「いい子なんですね?」


「ああ。 ちょいと腕試しもしたんだが、ありゃ、良い用心棒になる」


えっ、爺さん、腕っぷしで決めるんかい。




「とりあえず成人まででもいい。 わしが面倒を見ることにしたい」


身寄りのない未成年の子供は、とにかく不安定な存在だ。


あちこちから声がかかる。


この町は人手不足もあって、子供でも引く手数多なんでね。


成人すれば本人の意思に任せられるが、それまでの予約というか、本当の身内が現れるまでの措置として仮の保護者を登録出来る。


しっかりとした地盤固めをしてやりたいのだろう。


「構いませんよ。 じゃあ、商会本部に引っ越して来るように伝えてくださいね」


使用人部屋は余ってるしな。


 あの少年のように身内がはっきりしない場合、保護者の申し出は未成年に限り受け付けている。


途中で本当の親が見つかる可能性を残しているのだ。


成人後に養子の手続きを教会へ、住民としての登録は領主館へ届け出する。


それが終われば家族だ。


「分かった。 よろしく頼む」


食堂の旦那は一つ胸のつかえが取れたように笑った。




 食堂を出て、今度は浜へ向かう。


「こんにちは」


漁師のお爺さんの家である。


「おや、エルフの坊ちゃん。 久しぶりだねえ」


「あはは。 ご無沙汰してすみません」


笑って誤魔化す。


最近は漁師さんたちとの取り引きは主にトスを通している。


直接、こうやって顔を見るのは久しぶりだった。


「少しお話がありまして」


「ああ、入ってくれ」


トスは今日、父親と一緒に漁に出ているそうだ。




 お爺さんの家は、この辺りの漁師たちの中でも大きくて、魚醤用の蔵が2つと母屋。


その建物の真ん中に魚を干す広場がある。


周囲をぐるりと取り囲むように生垣があり、外から中は見えない。


「失礼します」


母屋の板間に上がる。


浜ではすぐに砂が入り込むため、絨毯などはなく、板敷の床に直接応接用のテーブルが置かれていた。


「先日、エンディ領に行きまして」


お爺さんは自分で淹れたお茶を出してくれる。


「ドワーフの新しい工房街だってな」


「ええ、そうなんですが。 あそこの領地は漁港がありまして」


ズズズッとお茶を啜るお爺さんを伺う。


「魚醤も作ってます」


お爺さんの顔がピクッと歪む。


 元々はこのお爺さんが自分のためだけに魚醤を作っていた。


それに目を付けて買い込み、材料を提供するからと増産させたのは僕だ。


「ですが、あの領地の魚醤とここの魚醤は質が違いますので」


僕が和風の甘味が欲しくて作った魚醤飴。


飴を作るには、ここの魚醤は強過ぎてしょっぱい。


かなりの量の蜂蜜や砂糖を加える必要があるが、薄味の魚醤なら少なくて済む。


「ふむ。 ワシのところは魔力が多くて味が濃い。 あっちは普通の魚だから薄味だが、加工する分には楽だと」


「はい、その通りです」


だが、こちらの魚醤飴の利点もある。


「ここの魚醤飴は味が濃いので、苦味のある薬草などを加えても負けないんですよね」


子供や苦い薬が苦手な人向けにノド飴が作れる。


薬だから甘味は少なくて当たり前。


薄味の魚醤では苦味が勝ってしまうからな。


「じゃあ、今まで通りの魚醤でええんだな」


「はい、勿論です。 薬用の魚醤飴も作って欲しいです」


あ、また新しい商品を作ってしまった。


お婆様、すみません。



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