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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百十話・辺境の町への帰路


 僕たちは白馬の馬車で辺境地に向かって出発した。


護衛のような2騎を伴っているが、1騎は明らかに熟練不足だった。


「よくアレで3日も走りましたね」


野営小屋で食事の準備をしながら、キランが呆れている。


「あはは。 まあ、いざとなればティモシーさんが何とかするんだろう」


叱咤激励し、決して見放すこともなく。


まったく仲が良いなあと感心した。




 2人は今、屋外で馬の世話をしている。


秋も深まってきているので風除けの囲いをして馬たちを休ませていた。


 その姿を見ていると、現地の人間と『異世界人』にどれだけの違いがあるのか疑問に思う。


『魔力を持たないことは、この世界では大きな弱点ですよ』


どうやら僕はうっかり声に出してしまっていたらしい。


眷属精霊の返答は至極最もである。


「だけど、あの2人を見ていたら、どっちもそんなに変わらないじゃないか」


年齢はヨシローの方が上だが、あの落ち着きようはティモシーさんの方が年上に見える。


『生きてはいけるでしょうが』


それは『異世界人』であることを周りに伝えて、魔力が無いことを理解してもらった上でのことだと、モリヒトは指摘する。


この世界の肉体を持つ『転生者』は生活に支障はない。


しかし、『転移者』は元の世界の肉体のままなので、魔力を作る体内機関がないのだ。


「つまり生き辛いのは『転移者』ということか」




 確かにヨシローのように元の姿のまま、この世界に飛ばされて来たら、魔力を持たない平民として生きていくことになる。


眷属精霊もいない、何の才能も無い。


魔法も使えない年寄りひとり。


『異世界の記憶』だけでは、確かに生き辛いな。


『アタト様はエルフで良かったですね』


「……」


そうだろうか。


魔力があっても村から追い出されたんだが。


「僕としては、ヨシローさんみたいに誰でも友達になれる能力が欲しかったな」


と、ボソリと呟いた。


そうすれば、今でも村で長老との生活を続けていただろうか。




「えーっ、アタト様がヨシローさんみたいだったら困ります」


キランが何故か反発してくる。


「アタト様はアタト様です。 エルフでなかったとしても、きっと貴族の家に生まれて、子供なのに大人みたいなことを言い、誰かをこき使って生活していると思います」


それ、褒めてないよな。


「そして私どもは、そんなアタト様に雇って頂くのです」


鼻息荒く、得意気でさえある。


キランにとって僕はそういう存在らしい。


モリヒトが肩を揺らして笑っている。




 辺境伯家に報告に行くヨシローたちとは辺境伯領都で別れる予定だった。


だが、領都に入った途端に迎えが来る。


「アタト様、モリヒト様も是非、ご一緒に」


見逃してはもらえなかった。


領兵たちに囲まれる形で、僕たちも辺境伯邸に連れて行かれたのである。


館に到着すると、辺境地夫妻が玄関で待ち構えていた。


「アタト様、モリヒト様。 それに騎士ティモシー。 ヨシローを守ってくれてありがとう」


「職務を全うしただけでございます。勿体ないお言葉、ありがとうございます」


ティモシーさんに合わせて、僕たちは正式な礼を取った。


その場でヨシローは辺境伯家の文官に「報告書作成のため」引き摺られて行く。


がんばれー。


「申し訳ございません、アタト様。 しばらく手伝ってまいります」


キランは現在でも辺境伯家の使用人である。


僕のところには辺境伯からの依頼で出向という形で働きに来ていた。


彼も報告に行くのだろう。


「うん、こっちは気にしないで。 出発までに戻って来てくれればいいから」


「はい。 ありがとうございます」


キランは礼を取り、使用人仲間のところに向かう。


僕とモリヒト、ティモシーさんの3人は来客用の別棟に案内された。




 辺境伯夫妻の夕食に呼ばれる。


食後のお茶は談話室に移動し、クロレンシア嬢も参加していた。


「エンディ領は如何でしたか?」


クロレンシア嬢は興味津々である。


「ドワーフの工房街は今までの地下街と違い、ドワーフだけでなく、様々な職人を呼び込めると思います」


どうせヨシローから報告は上がるだろうが、一応簡単に話しておく。


「確か鉱山が見つかったとか?」


辺境伯も気になるようだ。


「ええ。 それについてはモリヒトがたまたま見つけたので」


この件についてのお礼として、アタト商会の関連の宿と食堂の承認を頼んだ。


報酬でもらった金も全てそちらに投資。


お蔭で、宿の方は実質的に僕が所有者となり、経営は今の主人に丸投げとなる。


「辺境伯家の御用宿であることは変りませんので、今まで通りご贔屓に」


僕は商人らしく微笑む。




「まあまあ、アタト様は本当に商売がお上手ですのね」


コロコロと少女のように辺境伯夫人が笑う。


初めて会った頃に比べると、すっかり明るくなったなあ。


「いえいえ、僕はまだ子供ですから、周りの大人の皆様が頼りです」


商売は人脈だ。


僕の商売も辺境伯の後ろ盾に頼っているところがある。


これからも世話になるはずなので、鉱石関係の資料をヨシロー経由で渡す手配をした。


それを、エンディ領からの仕入れの参考にしてもらえばいい。


内情を知っているとぼったくられないからな。


僕はエンディ領だけでなく、隣接する辺境伯領も潤ってほしいんだ。



 

 翌朝、僕たちはキランの馬車で辺境の町へと出発する。


「じゃあ、また」


「はい、ティモシーさん。 ヨシローさんもお疲れ様でした」


「アタトくんもお疲れ様!、またね」


ヨシローはまだ仕事が終わっていないらしい。


辺境伯夫妻やクロレンシア嬢共々、見送りに出て来た。


「あ、そうだ。 一つ確認したいんだけど」


馬車に乗り込もうとしていた僕に、ヨシローが声を掛ける。


「エンディ様の館の庭で見た、あの綺麗な女性って、結局誰だったの?」


ドキッとする。


ヨシロー、今ここで出す話題じゃないぞ。


「いやあ、報告書に書こうとしたら何も知らないことに気付いてさ」


「さあ。 僕は知らないので詳しいことはティモシーさんに聞いてください」


「は?」


慌てるティモシーさんにクロレンシア嬢が詰め寄る姿を見ながら、馬車は動き出した。



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