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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百七話・気持ちの問題と現実


 僕としても、同じ『異世界』を知る者として会話が出来ればいいけど、今はまだバレたくはない。


適当に相槌を打ち、「知らない」と首を振る。


「ヨシローさんは元の世界に帰りたいと思いますか?」


「んー、そーだなー」


焼いた魔獣肉の切り身にフォークを刺し、ヨシローは唸る。


「帰りたい、と思うには、帰れる、という条件が必要だと思うんだ」


実際に『異世界』がどこにあるのか、どうやって来たのか、分かっていない。


帰れる見込みなど全くないのだ。


「そうですね。 すみません、失礼な質問をしました」


素直に頭を下げる。


「イヤイヤ、別に怒ってるわけじゃないからね」


ヨシローはいつも通りの笑顔で答える。




 そうだよな。


どうやってこちらに来たのかも分からない。


元の世界の自分がどういう扱いになっているのかも不明。


もしかしたら死んでいて、戻れる体がもう無いかも知れない。


死んでいないとしても、こちらに体がある以上、向こうでは失踪した行方不明者だ。

 

そんな者が「帰れる」のだろうか。




「僕の勝手な想像ですが」


食後のデザートは梨のような果物だった。


モリヒトが丁寧に皮を剥き、食べ易い大きさに切り分ける。


「うん?」


シャリッと一口齧り付いたヨシローが顔を上げる。


「『異世界の記憶を持つ者』というのは、違う世界からそのままの姿でやって来た『異世界人』と、この世界で生まれた体に『異世界人』の魂が宿っている者がいるんですよね」


前者がヨシロー、後者が僕。


つまり、転移して来た者と、転生した者である。


ヨシローは果物の咀嚼に忙しく、黙ってウンウンと頷く。


「それなら、記憶を持って生まれた者は元の世界から魂だけが招かれたことになります。 体があるヨシローさんは」


戻ることが出来るかも知れない。


少なくとも、魂だけになってしまっている僕のような転生者よりは可能性は高いんじゃないかな。


「……ふうん」


ヨシローは複雑そうな顔をして聞いていた。




 教会の古い記述には、彼らは元の世界がバラバラだったり、そもそも姿も人型をしていなかったりと様々である。


しかし、近年になればなるほど一定の条件が見えてきた。


お蔭で僕は一つの推測に行き着く。


「この世界の神は、なんらかの意図を持って『異世界人』を連れて来ていると思うんです」


「ふむ。 神様ねぇ」


現代日本人であるヨシローにとって、神は知っていても目にすることはない存在。


しかし、この世界には実在し、行き過ぎた言動には神託や神罰を与えるという話を聞く。


その時は神の代理として精霊が力を行使している。


エルフ族はその精霊と近い関係にあるため傲慢なのだという。


それはまあ別の話なので置いといて。




「特に最近は、人族で、ある程度の水準に達した文明の世界から招待しているのではないかと」


「招待かー。 こっちはそれに応じた覚えはないんだがなあ」


ヨシローは頭を掻く。


「その辺りは『神』の方が記憶から消しているのかも知れませんね」


少なくとも僕はあまり元の自分を覚えていない。


おそらくだが、転生者はこちらの世界で生活することを前提に必要最低限の『異世界の知識』だけが残されている。


一方、転移者は心身共に健康維持のため記憶は必要だが、この世界に来た経緯の記憶は必要ないから消されてるんじゃないか。


神との会話なんて知らなくても生きていける。


どちらにしても、神様の都合ということだ。




「アタトくん。 エルフの神様っているの?」


ふいにヨシローが訊ねる。


僕は口に運んでいたコーヒーのカップをテーブルに戻した。


「よく分からないです」


村のエルフたちとは、あまり仲良くなかったからな。


「でも、確かに感謝の祈りは捧げていました」


エルフは魔法特化の種族なので、精霊の手助けがないと非常に生きづらい生き物だと思う。


特に子供は魔力切れや暴走が怖い。


それを制御し導く眷属精霊には頭が上がらないよ。


実際、僕はモリヒトがいなかったら生きて来られなかった。


「神が精霊を作り、精霊王がエルフに眷属精霊を遣わされた。 それに対する御礼ですね」


より強い眷属精霊を求めて必死に祈るヤツらもいるが、それはヨシローには関係ない。


「なるほどなあ」


ヨシローはズズッとお茶をすする。




 食後に入浴を勧めた。


この部屋には1人用の浴槽まで設置されているのだ。


「すごいね、これは」


高位貴族用の部屋にしかない設備である。


ヨシローはゆっくりと入浴した後、旅の疲れもあってベッドに入ると、すぐに寝息をたて始めた。


お疲れ様。



 

「一行の動きは分かる?」


『確認してまいります』


ヨシローが入浴している間にモリヒトには様子を見て来てもらった。


『やはり出発は明日の朝食後のようです』


ヨシローが寝てしまってから報告を聞く。


「そっか」


王女たちは護衛と共に魔道具を使い、王都からエンディ領までやって来た。


空間移動の魔道具は高価な上に、一度使用すると次に使用出来る魔力が溜まるまでに2,3日は掛かるそうだ。


王女が賊に捕まった時も、すぐに助けられなかったのは魔力の補填待ちだったせいらしい。




『エンディ様の側近の中に大国の協力者がいたようですね』


だろうな。


片道15日は掛かる距離を、いくら魔道具があるからと知らない他国の土地を気軽に移動出来るはずがない。


「おおかた事前に魔道具にエンディ領の山中でも登録してたんだろう」


『はい。 よくお分かりで』


それを使った王女が山中で護衛と逸れて迷子になる。


親切そうな平民に声を掛けられついて行ったら賊だった…と。


物語としても安直過ぎるだろ。




「ティモシーさんはどうしてる?」


モリヒトは少し首を傾げた。


『特に普段と変わった様子は見られませんでしたが?』


そうなの?。


クロレンシア嬢といい、ティファニー王女といい。


あのイケメンは、少し女性運が悪い気がする。


「そういえば、王女様って独身だよね?。 決まった婚約者とかいるの?」


前回の留学は王族同士の顔見せみたいなものだと言ってたよな。


『自国の高位貴族子息に婚約破棄されたばかりだそうです』


なんだ、それ。



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