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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百五話・教会の知識と『異世界人』


 この世界の宗教は特殊だ。


いや、僕が元の世界しか知らないせいかも知れないけど。


人々は熱心に祈る。


教会に通うのは、日々の罪の許しを乞い、喜びと感謝を神に報告するためだ。


 神職は厳しい修行を行う。


民のために、神の声を聞き、神の力を借りて活動する。


神職に病や怪我を癒す光魔法使いが多いのは、それが目に見えて人の役に立つからだ。


民の尊敬を集めることが出来る。


「信仰を深め、魔力を高める。 それが神職の修行です」


と、ヤマ神官は言った。


神のみを信じることは、権力や財力に揺らがない心を育てる。


後天的に魔力を高めるのは並大抵ではなく、精神的な集中を高める修行が必要だ。


僕が推奨している書道もどきはこれに当たる。


それでも神の声を聞けるのは、ごく一部の神官だけだけどな。




「僕は教会の資料をたくさん読んだし、神に一番近いという精霊も間近に接して来ました」


モリヒトに顔を向け、話を続ける。


「彼らは嘘が吐けません。 他種族からの攻撃もほとんど受けないし、自由気ままです」


そんな精霊が恐れ、敬うのが『神』という存在。


あ、精霊王は精霊たちの上司というか、統括者みたいなものだと思う。


精霊には違いないらしいからな。


「ですから、神に近い存在として教会での判別に立ち会ったことはありますよ」


『異世界の記憶を持つ者』の意思を魔道具で確認した内容と、それを伝える神官の言葉の一致を証明する。


「その魔術師以外に証明する者がいないのは怪しいとしか言えないです」


だから、教会を頼ってほしい。


「はい。 必ず教会に足を運びます」


姫の言葉を信じるしかないけど、ヤマ神官への手紙には「大国の教会にも協力者が必要」だと、注意書きはしておいた。


無茶振りだと怒られそうだけどな。




「それでは、出発は明日ということでよろしいですか?」


帰国すると決めたからには早いほうがいい。


「あ、はい。 でも、あの」


分かってるよ、『異世界人』に一目会いたいってことだろ。


うーん。


 ふいにモリヒトが近寄って来た。


『アタト様、エンディ様がいらっしゃいました』


宿の中まで来ているらしい。


ご老公の護衛を追って来たか。


「分かった。 結界を解除してくれ」


廊下から、キランと誰かが争っている声が聞こえてきた。


 僕が頷くとモリヒトが部屋の扉を開く。


「えっ」「わっ!」


エンディとその護衛たちがなだれ込んで来た。


なにやってんの。




「や、やあ、ティファニー、王女殿下。 お久しぶりですね」


「エンディ様」


懐かしそうに微笑み合うふたり。


ここにクロレンシア嬢がいなくて良かった。


「さて、領主が来たからにはワシらは無用じゃな。 アタトや、館まで送っておくれ」


ご老公が立ち上がりながら腰を伸ばす。


「はい。 喜んで」


「えっ、ちょっと待って」


僕たちが部屋を出ようとすると、エンディが慌てる。


「ご心配なく。 王女様は極秘の視察を終えられ、明日には自国にお戻りになるそうですよ」


説得の味方になってほしかったのだろうが、すでに問題は片付いている。


「あ、ああ、そうか。 すまない」


客人はエンディたちが領主館にお連れするだろう。




 僕は一足先に、キランの白馬の馬車でご老公を領主館に送り届ける。


「ありがとう、助かったよ」


「いえ。 お役に立てたなら、今度、僕が何か失敗したら庇ってくださいね」


「フォッフォッフォ、分かったよ。 また会う機会があればな」


館の前で馬車から降り、僕たちはそこでご老公を見送った。


この後、護衛たちと共に魔道具で王都へと帰還するらしい。


忙しい方である。




 その時。


「あれ?、アタトくんも来てたのか」


声を掛けられた僕はギョッとした。


「ヨシローさん、どうしてここに?」


ドワーフ工房街の完成式典には呼ばれていなかったはずだ。


「辺境伯から勉強になるから行って来いと言われてね。 それで、急だったからティモシーと2人で馬を飛ばして来たんだが」


ついさっき着いたばかりだと言う。


僕は咄嗟にヨシローを馬車に押し込んだ。




「え、なに?」


「ドワーフ街を案内しますよ。 モリヒト、ティモシーさんにヨシローさんを預かると伝えて来て」


『承知いたしました』


モリヒトが光の玉になって消え、僕はキランに合図を出してドワーフ工房街に向かう。


 今の状態の王女一行をヨシローに会わせるわけにはいかない。


『異世界人』は彼女にとってはご褒美。


まだ何も出来ていない者に与えるわけにはいかない。


 キランは素直に馬車を走らせた。


「アタトくん?」


ヨシローは僕の慌て様に驚いている。


「あはは、こちらの事情なのでお気になさらず」


大国の王女の件がヨシローに知られたら、気軽に会うと言い出すだろう。


それは拙いのだ。




 馬車から見る景色は、領主館のある山の裾野から町中に変わる。


光の玉が馬車の窓から飛び込んで来て、エルフの執事服の青年になった。


『ティモシー様に伝えてまいりました。 それと、先ほどの一行が領主館に到着したのを確認いたしました』


ヨシローには聞こえない程度に、もし聞こえても何のことか分からないように話す。


「分かった、ありがとう」


僕は頷き、ホッと一息吐いた。


これでバッタリと町中で会うことはない。




「到着いたしました」


いつの間にか、馬車は町の中心街から少し裏通りになるドワーフ工房街に到着している。


「お疲れ様、キラン。 宿に戻って部屋の準備を頼む」


ここからなら宿は目と鼻の先。


馬車は不要である。


王女一行が出て行ったのなら、僕たちはまた元の部屋に戻れるだろう。


今夜はヨシローを泊めることになるので、その手配を頼んだ。


「承知いたしました」


キランの白馬の馬車は宿へと戻って行く。




「へえ、ここがドワーフ工房街かあ」


ヨシローが呑気な声を上げる。


「おや、アタト様。 昨日はお疲れ様でございました」


建物からドワーフ代表が出て来る。


「こんにちは、お邪魔してます」


そういえば。


「奥さんと娘さんが、こちらに来ることになったそうですね」


「はい!、こちらで食堂をやることになりました」


工房街でアタト食堂2号店を出すことになったのである。



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