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異世界を信じる者たちへ 〜何故かエルフになった僕〜  作者: さつき けい


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第四百三話・拘りの理由を予想


 ご老公が重く威厳のある声を出す。


「結論から申し上げると」


ピリッと空気が張り詰めた。


「悪いことは言わない。 このまま国に戻りなさい」


今なら、まだ何もなかったことに出来る。


 僕も頷く。


「あなた方はご自分の国のほうを、もう少し精査されたほうがよろしいと思いますよ」


僕の余計な一言に姫の怒りが増す。


「わたくしは!」




「それに」


僕は姫の言葉を遮る。


「何故、あなたが『異世界の記憶を持つ者』に拘るのか考えてみたんですが」


確かに自国の繁栄を願ってのことだろう。


だが、それでも教会の監視下にある『異世界の知識』に関する協定スレスレの行為だ。


何故、一国の王女がそんなことに手を染めるのか。


 僕は体を乗り出し、顔を赤くして狼狽うろたえる姫に顔を近付けた。


「な、なんですの」


「あなた自身が『異世界の記憶を持つ者』だったりします?」


小声だが、両隣にいる護衛たちには丸聞こえだ。




 護衛の老人が動く。


「エルフ殿、それ以上は不敬であるぞ!」


刀のような剣の柄に手を掛けている。


モリヒトの気配が剣呑になったので、僕は大丈夫だと手振りで伝えた。


「当たりですか?」


だから怒ったんでしょ。


 姫が大きく肩を落とした。


「いいえ、少し違いますわ」


「殿下」


咎めるような護衛の女性の声に、姫は頭を左右に振る。


「今、きちんと話さなければ『異世界人』に会わせてもらえないわ」


まだ会う気でいるのか。 しつこいな。




 姫の雰囲気が変わった。


大事な話になりそうなので、一旦、仕切り直そう。


「モリヒト、コーヒーを頼む」


『はい、承知いたしました』


空間倉庫から一式を取り出し、準備を始める。


キランも手伝って、ヨシローの店の焼き菓子が出て来た。


女性たちの顔が綻ぶ。


「どうぞ」


キランは緊張しているが、そつなく動けている。


がんばってるな。


 モリヒトがコーヒーを配る。


良い香りだ。


「砂糖とミルクでございます。 ご自由にお使いください」


「ありがとうございます」


護衛の女性が手際よく姫と父親の前に引き寄せる。


ガビー作製の銀のスプーンでコーヒーを混ぜ、菓子を口に運ぶ。


「大国のものには及ばないとは思いますが」


僕は大国の菓子なんて知らないからなあ。


「いえ、大変美味しいですわ。 我が国のものと変りません」


女性たちの口に合って良かった。




「それは我が国にいる『異世界人』の男性が指導している喫茶店で供されています」


「まあっ」


なんで姫が嬉しそうなんだろう。


「彼自身は何も作りませんが、元の世界の記憶を頼りに味や店の在り方を働く者たちに指導しています」


姫がウンウンと頷く。


「自分が生活している場所で、自分が出来ることをする。 それはどこの世界の出身であろうと変わりません」


多少、価値観が違うだけだ。


目新しいから、便利だから、ありがたがる人々はいるし、商売になる。




 しかし『異世界の記憶を持つ者』に関する協定。


それが壁になっていた。


「便利なものが世界に広がれば、皆様の生活が豊かになると思いませんか?」


姫の言葉に僕は首を横に振る。


「あなたは勘違いしてますね」


「え?」


「生活を便利にする目新しいものは、元来、どこの世界でも人々の中から生み出されるものなんですよ」


『異世界人』は記憶があるから早いだけ。


試行錯誤を繰り返していけば、どこの世界でもいずれ必要なものは生まれてくる。


僕はそう思う。


 それに、考えてみればいい。


「彼らがどんなに知識があろうと、材料が無ければ作れません」


材料までが『異世界』からやって来るわけではないからな。


「僕は、何もないところから思い付き、より使い易く、より安全に、便利なものを生み出す職人さんたちを尊敬します」


元いた『異世界』だろうと、この世界だろうと。




 姫が俯いてしまった。


「それは……分かっています」


大国でも鍛治師等の職人はいる。


しかし、現状は彼らより『異世界の記憶を持つ者』を優遇していた。


姫はようやく僕の言葉を飲み込んだようだ。


「分かりました。 わたくしはおとなしく国に戻ります。 ですが、やはりここまで来た以上、一目だけでも『異世界人』様にお会いしとうございます」


あー、色々無茶したあげく成果が何もないのは拙いということか。


 僕は、ご老公と顔を見合わせる。


「ふむ」


ご老公は白い髭を撫でながら考える。


「そうじゃな。 離れたところから見るだけなら良いかの」


ご老公は甘い。


僕は顔を顰めた。


大国の王女と忠誠心厚い精鋭の護衛だ。


何が起きるか分からない。




 僕が不機嫌になったのが分かったのだろう。


「エルフ殿が、我らを信用出来ないのも仕方ありません」


姫は目を閉じて大きく息を吐いた。


何かを決意して目を開く。


「これからお話しすることは国内でも極秘の内容が含まれます。 失礼ですが、人払いをお願いいたします」

 

僕はキランに視線を送る。


少し悔しそうに礼を取り、モリヒトがキランを外に出した。


そして、王女から「念の為」口外しないという魔法契約を提示され、僕とご老公が承諾する。


大国の秘密なら仕方ないか。


モリヒトは、まあ、精霊だからな。


人族の契約に縛られることなどあり得ない。


だけど「主の命令」という形で黙らせることは出来る。


『アタト様のご命令とあれば』


モリヒトは姫の話は黙すると僕と約束した。




「大国の王族は、昔から『異世界の記憶を持つ者』を優遇してまいりました」


国内で発見された場合は、速やかに国に知らせるという仕組みが出来上がっている。


「そして、王族に取り込んで来たのです」


「つまり結婚?。 国どころか、この世界の常識も危うい者を王族にしたのですか?」


大国から来た客人は頷く。


「よほど優秀な者なら、それもあるだろうが」


王族であるご老公は戸惑いの表情を見せた。


「ええ」


姫は申し訳なさそうに僕たちを見る。


「お祖母ばあ様も『異世界の記憶を持つ者』として王族に嫁いで来ました」


ある日、紛い物の異世界魔道具売りに騙されそうになっていた知人を救ったら、国に通報され、王子に嫁ぐ羽目になったそうだ。


「ですが、わたくしの祖母は、ただの賢い娘でしたの」



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